第210話 逃げ方を身に付けること

 「はいはい、いつものパターンです。」とツッコミを入れたくなるような曹操の失態。

 敵の罠に陥った彼は、前戦同様に逃げ道を探し回っていた。


 東西南北にある城門の四門が開かれ、呂布軍が雪崩のように攻めてくる。


「生かして帰すな!ぶっ殺せ!寄せて集めて一網打尽!!」


「包んで束ねて冥土へ送る!地獄へ宅配直送便!今なら送料無料なり!!」


「この世は地獄!あの世も地獄!地獄めぐりにご招待!!」


 曹操の兵たちは網にかかった魚の如く、綺麗さっぱり生け捕られ、暴れる者は鋭き刃で見事にさばかかれていった。


「・・・不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚!!」


 曹操は自らの行動を悔いた。

 しかし、時は戻らない。

 血が滴らんばかりに唇を噛みしめて、曹操は逃げ回った。


 北に逃げれば敵兵が!

 南に逃げれば火の海が!

 西に逃げれば変態が!


 前回の戦い同様に逃げ道を塞がれる曹操。


「完全に囲まれてしまったか!南無三!!」


 曹操は死を覚悟して東の門へと馬を走らせた。


 敵に炎に黒煙が!トラップ仕掛けの大迷宮!!


 乱戦の中を一人孤独に馬を走らせる曹操の目の前に、松明を掲げた一団が姿を現した。

 その一団の中には彼のよく知る人物がいた。


(げぇっ!? あれは呂布!!)


 近くに寄って見るまでもなく、呂布だとわかるその姿。

 赤き馬に跨りて、調子こいてる呂布奉先。

 気付いた時には、すでに遅し!


(引き返すと怪しまれる!このまま突き進むしかない!南無南無さ~ん!!)


 曹操は顔を背け、手で顔を隠し、呂布の横を静かに通り過ぎようとした。・・・が、その時、呂布は大戟を彼の目の前に振り下ろし、進行に待ったをかけた。


「おい、お前。曹操を見なかったか?奴の姿が見当たらんのだ。」


 夜中故の暗闇のせいで、呂布は今、自分が話しかけている人物こそが曹操であることに気付かなかった。

 死を覚悟した曹操もこの展開は予想外だったようで、彼は深呼吸をして心を落ち着かせ、自分の置かれている状況を整理した。


(ば、ばれてないのか?ちょ・・・マジでか?・・・よっしゃ!これはチャンスだ!!このまま逃げ切らせてもらう!!!)


 ドッキドキのこの状況下で冷静を保つ曹孟徳。

 さすがは歴史にその名を残した覇王である。

 この場から逃げるため、曹操は人生初の特殊技を試みるのであった。


「そ、それがしも~~か、彼を追跡しているところ~~です。(甲高かんだかい声)  な、何でも~~毛の黄色い駿足の馬に跨って~~彼方へと~~逃げて行ったそうで~~~す。(超甲高い声)」


 マイケルジャ〇ソン顔負けの超甲高い作り声で、曹操は呂布に返答した。

 この曹操の特殊技での返答を聞いた呂布は、


「・・・そうか。お前もしっかり探すのだぞ。」


 と、戟を持ち直し、部下たちを連れてその場を去って行ったのであった。

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