第207話 下り坂を下らない

 数日後!

 一人の百姓が竹を肩に担いで、曹操の陣門前をうろついていた!

 担いでいる竹の先端には蒸し鶏が縛られている!

 見るからに怪しい胡散臭い百姓!

 どうしましょうったらどうしましょう?

 そんなことは決まっている!

 やる事はただ一つ!

 門番はすぐに彼をひっ捕らえた!


「貴様何奴!胡散臭いにもほどがあるぞ!」


 門番が問い詰めると、百姓は、


「この鶏を大将に献じたいのでありんす。」


 と、オカマ言葉で返答した。


「むむっ!増々あやしい奴め!密偵かもしれん!曹操様の元へ連れて行くぞ!!」


 怪しげな百姓の言動に、門番たちは有無を言わさず、彼を曹操の前へと引っ張って行った。



 曹操の元へと連れて行かれた百姓は態度が急変した。

 ヘラヘラと人を小馬鹿にしたような薄ら笑いを止め、オカマ言葉を止め、猫背を止め、背筋やら何やら男として大事な所までの全てがピンッ!となり、言葉を発した。


「人払いを・・・人払いをしてくんなせえや、旦那様。拙者は密偵でございまする。」


「なにっ!密偵とな!」


「おっと、ご安心めされよ。あなたを害する密偵ではござりませぬ。」


「むむぅ・・・よし、よかろう。皆、下がれ。」


 曹操は近臣だけを残して、兵たちをその場から遠ざけた。


「結構でござる。・・・では。」


 そう言って百姓は、担いでいた竹を両手で持ち、節を割り、中から一片の密書を取り出して、曹操の手に捧げた。


「曹操様。これは田氏様からの密書にございます。」


「なにっ!あの大富豪の田氏からの密書と!」


「左様でございまする。」


「むむぅ・・・どれどれ。」


 密書を見るに、それは間違いなく田氏からの手紙であった。

 内容は以下の通りである。



結論から書かせて頂く!

回りくどい言い方は嫌いだ!

だから結論から書かせて頂く!

曹操殿!再度、濮陽城に攻め入って下され!

さすればわれが機を計って内応し、城内よりかく乱致します!

そして、城壁の上に掲げられた『義』の旗を合図に濮陽城の兵を一掃するのです!


呂布は黎陽れいようへ行っており、濮陽城は留守の兵しかおりませぬ!

攻めるならば、今において他になし!

城に攻め入り、城を奪い返し、城に曹の旗を立てるのです!


呂布は残虐非道な男!

彼奴きゃつの暴虐せいで、城内は惨憺さんたんたる有様!

民たちは不平不満を募らせ、他国へ逃げようと画策する始末!

「こんな城主はお断り~ん!」ということで、貴殿に助けを乞うたわけである!


以上が濮陽の大富豪『田氏』からの提案である!

余裕たっぷりドヤ顔で、貴殿の進軍を待つ!!ではではドジャーーン!!!



 結論を先に書いたことにより迷走したのであろう、田氏からの超回りくどい密書を読んだ曹操の顔はと言うと・・・破顔していた。満面の笑みを浮かべて破顔していた。


「好機!超好機!天は私を見捨ててはいなかった!!濮陽城はもう私の掌の中にある!!!」


 敗戦により、士気の下がっている曹操軍の士気を上げる田氏からの密書。

 曹操は下り坂を上るべく、田氏からの密書を信じて、再度、濮陽城に攻め入ろうとするのであった。

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