第178話 董卓の最期
「な、なんじゃと!すると・・・お前も・・・。」
「左様です。私も太師を冥府へとお送りする
驚き、慌てふためく董卓を逃がすまいと、李粛は周囲にいた兵たちに号令を下した。
李粛の命令に合わせて兵たちは董卓の乗っている馬車を側面より押して、馬車を押し倒した。
ガタンッ!という音が周囲に響く。
董卓は倒れた車の中より這いずり出てきて必死に剣を振り回した。
「ぬぬぬ!こんな所で死んでたまるか!!」
栄華を堪能し、丸々と太った董卓も一武人である。
体格のハンデをものともせず、彼は数人の兵たちを斬り殺した。
しかし、敵は百余名。
次から次に隠れていた兵たちがわっさわっさと現れて、彼を絶望の淵へと叩き込んだ。
「死ねぇ!太っちょ野郎!!」
「天誅だ!天誅でござる!!」
「脂肪を削り取って、蝋燭の原料にしてやる!!」
周囲を囲まれ、董卓は逃げ道を完全に塞がれてしまった。
しかし、彼は諦めなかった。
ブヨブヨと振れる体を必死に動かし、滝のように流れる汗を飛び散らせて戦い続けた。
(し、死んでたまるか!ここからじゃ!ここからわしの栄耀栄華が始まるのじゃ!!こんな所で死んでたまるか!!!)
董卓にとって、郿塢城での酒池肉林など前菜に過ぎなかった。
彼は天下を平らげ、更なる栄華を求めていた。
『湯水の如きに溢れる栄華を吸いつくし、天上の暮らしよりも贅を極める。』
これが彼の野望であった。
その野望を実現するため、彼は悪あがきを続けるのであった。
しかし、・・・
「ぐ、ぐおぉぉぉ!!」
董卓の周囲より、彼に向かい無数の槍と戟が注がれる。
それらは彼の体をプスプスと突いて、多くの傷を作った。
血で染まり、よろめく董卓に渾身の一撃が迫る。
「董卓覚悟!!」
董卓の背後より王允が近づき、剣で彼の背中を斬り裂いた。
愛娘を犠牲にした王允の魂のこもった一撃により、董卓は叫び声を上げて前方に倒れた。
「ぬ、ぬぬぬ・・・まだだ・・・まだ終わらんぞ。」
董卓がよろよろと立ち上がると、彼の目の前に1人の武将が立っていた。
「お、おお・・・りょ、呂布・・・な、何をしておる・・・わしを助けよ。」
彼の目の前に立っていたのは、実の息子のように可愛がっていた呂布であった。
縋るような思いで呂布を見つめる董卓。
そんな董卓に対し、輝きを失った眼で呂布は董卓を見つめ返した。
『恩と愛』
狂狼の心を揺さぶり続けた二つの感情。
『二つは同時に食せない』
全てを喰らい尽くす狂狼は、どちらを生かすか悩んでいた。
自分を最も評価してくれている董卓。
自分を最も愛してくれている貂蝉。
恩と愛を表す二つの象徴を目の前に悩み苦しんだ日々。
時々やってくる幸福も不幸へと早変わりする毎日。
荒れに荒れ、自暴自棄になり、全てを捨てようとしたその時、娘を犠牲にした男の悪魔の囁きによって、狂狼は決意を固めた。
狂狼は・・・・・・愛を選んだ。
「・・・勅命により、逆賊董卓を討つ。」
呂布はそう言葉を吐くと、戟を振りかざし、真っ向から董卓を斬り下げた。
戟は左肩から右の横腹までを斬り裂き、傷口より噴き出た血しぶきは陽も曇る様であった。
「・・・りょ、呂布・・・お前・・・」
血で染まり、よろめきながら、董卓は何か言葉を叫ぼうとした。
しかし、その言葉が発せられる前に、呂布は董卓の胸倉を掴んでその喉をつらぬいた。
こうして、董卓はその生涯を終えた。
初平3年4月22日の真昼。
董卓、54歳の最期であった。
『董卓仲穎』
この世の全ての栄華を極めようとした暴君。
彼はあらゆる手を使い、女と権力を手に入れた。
女に溺れる酒池肉林の生活をしていた彼は、女に騙されてその生涯を終えたのであった。
また、肥え太る権力を象徴するかのように丸々と太った体は、死後、民の目にさらされ、腹のヘソに蝋燭をさして火を灯すと、死体より流れ出る脂で蝋燭は何日も燃え続けたという。
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