第168話 同情を引くこと

「将軍様・・・お会いしとうございました。」


「俺もだ・・・俺も会いたかったぞ・・・貂蝉。」


 さわさわと穏やかな風が吹く。

 許されざる抱擁アンフォーギブン・エンブレイスをする呂布の胸中とは裏腹にその風は2人を優しく包み込んでいた。

 すると貂蝉がこれはチャンスと嘘泣きを始めた。


「しくしくしくしく!ぐすぐすぐすぐす!わんわんわーーーん!!」


 それを見た呂布はびっくら仰天。

 慌てて抱擁を止め、距離を取り、彼女の肩に手をやった。


「ど、どうした貂蝉。何故そんなに泣くのだ?」


「しくしく、これには深~い訳があるのです。」


「なるほど。それでは聞きますまい。」


 瞳を嘘の涙で潤わせ、貂蝉は狂狼の同情を引くために身の上話を始める。


「私は今、もんのすご~く嬉しいのでございます。その思いが胸を突き抜け、泣いているのでございます。」


「・・・将軍様。実は私は王允様の真の娘ではありません。貧しい奴隷の子でした。」


「しかし、ロリコンの王允様が私を買い取って下さり、よ~しよしよしよしよしよしよしよし!と私を大変に可愛がって育てて下さったのです。」


「そしてあの宴会の日、王允様は私を将軍様に会わせてくださいました。」


「私は将軍様の元に嫁げる・・・これは玉の輿・・・ひゃっほーーい!と喜んでおりました。」


「ところが何としたことでしょう。董卓太師が私を攫い、私の心を踏みにじってしまいました。その結果、私は喜劇のヒロインから悲劇のヒロインへと早変わり。超むかつきます。」


「・・・今の董卓太師に逆らえる者はおりませぬ。それはすなわち呂布将軍の元へ嫁ぐことが出来ないということ。それを思うと貂蝉は・・・貂蝉は悲しくて・・・わーーーん!」


 見の上話を終えると貂蝉は悶えるような嘘泣きを再開した。


 貂蝉の話を聞いて、「おいおい、こんなアホな話を信じる奴が世の中にいるのかよ?馬鹿じゃねぇの?」とお思いの読者の皆様。残念ながらここにいるのです。


 身の上話を聞いた呂布は貂蝉を大いに同情した。


「ちょ、貂蝉!そんなに悲しむな!董卓太師に逆らえる者はここにおる!この呂布に任せておけ!」


「・・・信じてもよろしいのですか?」


「おうっ!董卓大師を殺してでもお前を救って見せる!!」


「・・・それほどまでに私のことを・・・うれしい。」


 偽りの愛を確かめった2人はまたしても抱き合った。

 瞬間、2人に向かい怒声が発せられる。


「お前たち!一体何をちちくりあっとるんじゃ!!」


 驚く2人が声のした方を見ると、そこにはふっくら太った丸々の暴君がいたのであった。

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