第160話 恋は素晴らしいモノであるべき

 春は恋の季節であり、筋肉モリモリマッチョマンの胸にも悩ましい血を沸かせるモノである。


 王允の屋敷より自宅に戻ってきた呂布は今、最高潮にウッキウキの状態であった。

 王允の言葉を信じて舞い上がる呂布。

 彼はしょう(=ベッド)で横になり、董卓の元にいる貂蝉への妄想をたくましくさせ、1人ジタバタとしていた。


(貂蝉はどんな寝顔なのか?)

(貂蝉はどんな寝息をたてるのか?)

(貂蝉はどんな寝返りを打つのか?)

(貂蝉はどんな寝巻を着るのか?)

(貂蝉はどんな夢を見ているのか?)

(貂蝉は・・・貂蝉は・・・うひょーーーー!!)


 呂布は嬉しさと妄想のたくましさにより、一睡も出来なかったのであった。

 夜が明け、1人の付き人が彼を起こしに来た。


「将軍様。朝ですので起きて」


「ひゃっほ~~~い!朝だーーー!朝朝朝朝だーーー!きゃっほ~~~い!」


 付き人が起こしに来るや否や、呂布は牀から飛び起きた。

 そして起きるとすぐに窓に近づき、外を眺め、貂蝉のいる丞相府の空へと目をやった。

 まだ少し薄暗く、霧も含んだ朝空であったが、呂布はそれでも満足だった。


(今日は董卓太師のいる丞相府へ出仕して、貂蝉の様子を見に行くんだ~~~!・・・・・・キャ♪(*/ω\*))


 呂布の心は乱れに乱れていた。

 貂蝉に心を奪われ、彼は平常心を失っていた。

 彼の心は貂蝉のための貂蝉により貂蝉の貂蝉が貂蝉するようになっていた。


 恋する乙女は美しいと言うが、恋するおとこは・・・これはまぁ読者の皆様の想像にお任せするとしよう。


 とはいえ、恋する呂布も毅然たる武将である。

 心の中は貂蝉で一杯である彼であったが、外面は違った。

 準備を整え、赤兎馬に乗り、自宅を出た彼の顔つきは、鬼をも逃げ出す猛将のであった。

 彼の厳つい顔を見た民たちは、(ひょええええ!呂布だーーー!)と心の中で叫び、彼のために道をけ、道の両脇へと移動した。

 その開いた道を呂布が堂々と通る様は彼への恐ろしさの表れであった。


 やがて呂布は丞相府へと到着した。

 彼は丞相府へと到着するとすぐに、董卓のいるかく(=貴人の住むところ)に赴いた。

 呂布の姿を見た護衛隊長は彼に声をかけた。


「呂布将軍。今日はお早いですね。どうかなさいましたか?」


「う、うむ。ちょっと野暮用でな。・・・して、太師はもうお目覚めかな?」


「いえ、まだ寝ております。なにぶん昨日はお連れの美女とお楽しみの様でしたので。」


「そうか。・・・・・・ん!? ちょ、ちょっと待て!今、何といった!お連れの美女とお楽しみだと言ったのか!!」


「はい。・・・へへへ、実はですね。昨夜、董卓様は王允様の屋敷から非常に美人な女性をお持ち帰りされましてな。その女性を寝室に招き入れ、一緒にお休みしたのでございます。・・・デヘヘ。」


「なっ!? まさかその美女の名前は貂蝉ではないだろうな!!」


「えっ!? あ、はい。そうでございますが・・・よくご存知でございますな。」


「な、なんていうことだ。貂蝉が太師とニャンニャンした・・・だと・・・。」


 護衛隊長の言葉を聞いて愕然とする呂布。

 自分の嫁になるはずの女性が自分の上司と関係を持ったというのだ。

 これはびっくりおったまげ!

 というわけで、今ここに、歴史を動かす愛憎劇が始まろうとしていたのであった。

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