第144話 襄陽の戦い その八

 一夜明けた襄陽城にて。

 襄陽城防備の任を命じられている蒯良は、劉表に、とあることを進言していた。


「劉表様。昨日の天変のことで報告があります。」


「昨日の天変?狂風のことか?あれはすごかったな。」


「いえ、昼の狂風のことではなく、私が申し上げたいのは夜分の天変のことです。」


「夜分の天変?夜に何かあったのか?」


「はい。昨日、夜に入って流れ星が西の野に落ちました。天文を見るに、それは将星が地に堕ちることを暗示しております。天が何かを教えているのでしょう。」


「・・・不吉なことを申すな。」


「いえ、これは我々にとっては吉兆です。流れ星の方向を見るに凶兆なのは孫堅の方にあります。」


「ほう。・・・間違いないのか?」


「間違いありませぬ。・・・劉表様。この機を逃さず、袁紹の元に使いを出して、彼に救援を求めましょう。袁紹軍が来れば、孫堅軍は四散するか、退路を断たれて袋のネズミになるかの二者選択を迫られるでしょう。」


 蒯良の進言に劉表は大きく頷き、袁紹に使いの者を出すことに決めた。


「よし。では誰か城外の囲みを突破して、袁紹の元に使いに行ってくれぬか?」


 この劉表の問いに対して、家臣の1人が手を上げた。


「殿。私が行きましょう。この呂公りょこうにお任せあれ。」


「おお、呂公か。お主ならばよかろう。」


「ありがとうございます。では早速準備を」


「ああ、ちょっと待て。お主と2人で話したいことがある。・・・すまぬが、皆の者。席を外してくれぬか?」


 劉表はそう言って呂公以外の家臣たちをその場から遠ざけ、呂公と2人で話を始めた。


「人払いをしたのは他でもない。お主に一策授けようと思ってな。」


「策ですか?」


「そうだ。まず、弓の得意な精鋭500騎を集め、敵の包囲を突破した後、峴山けんざんに登るのだ。そして、追ってきた敵に対して、石と矢の雨を降らせるのだ。さすれば、敵は怯んで身動きが取れなくなり、お主は易々と袁紹の元にたどり着くことが出来るだろう。」


「なるほど。それは名案です。」


 劉表より策を授かった呂公は、その夜、精鋭500騎を率いて城外へと抜け出したのであった。

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