第139話 襄陽の戦い その三
初日の失敗を基に立てた孫堅の策。その名も『夜襲フェイント作戦』。
策の準備を整えた孫堅軍は、明くる日の夜、策を実行しようとしていた。
「時は真夜中、曇り空。月の光は遮られ、せめぎ合うため、いざ出航!!」
孫堅の指示のもと、ジャーン、ジャーン、ジャーンと合図の銅鑼の音が河に鳴り響く。
合図に合わせて無数の小舟が動き出す。
小舟を漕ぐのは、篝火と手持ちの銅鑼を除けば裸一貫の船頭たち。
(怖ええええーーーー!超怖えええええーーーー!!)
しかし、彼らは漕ぎ続ける。
命を懸けて主君に忠義を尽くすのが、乱世における誇りの一つであるからだ。・・・まぁ本音は「仕事だからしかたない」であろうが・・・。
と、こんな話はさておき、無数の小舟は敵の陸地に近づいて行った。
真夜中ゆえに、小舟の上でゆらゆら燃える篝火は陸地からハッキリと見ることが出来た。
篝火の群れが自陣に近づいて来るのを見た見張り兵たちは、それを孫堅軍の夜襲と判断。
そして、見張りの1人が黄祖に報告するため、彼のいる幕舎へと飛び込んでいった。
「!? どうした!!何事だ!!!」
「た、大変です!黄祖様!敵が夜襲を仕掛けてきました!!」
「なにぬねの!それはいかん!直ちに撃退体制をとるのだ!!」
「承知も承知!すでに体勢は整え始めております!!」
「でかした!さすが我が軍の兵士たち!すぐに奴らを返り討ちにするとしよう!!」
黄祖は岸へと赴き、すでに体勢を整えていた部下たちに号令を下した。
「一斉射撃!撃ち殺せ!!」
黄祖軍はその日、昼以上の矢数を費やして、孫堅軍の偽夜襲に対応したのであった。
それから数日後・・・
「ね、ねむ、ね、ねむ、ね、ねねね、ねむねむ眠か~~~!!」
「おねむでやんす。」
「スースー、グーグー、スピースピー、ワーオワーオ!・・・はっ!? ね、寝てねぇぜ!俺は寝てない!俺は寝てないんじゃー!!・・・・・・ガクッ。」
黄祖軍の兵たちは猛烈な眠気に襲われていた。
孫堅の立てた夜襲フェイント作戦により、黄祖軍の兵たちは夜に眠ることが出来ないのだ。
それが七日七夜続き、黄祖軍の兵たちの疲労はピークに達していた。
そのため、昼間の仕事中に眠る兵たちが続出してしまい、そんな彼らを黄祖は怒鳴りつけていた。
「こら寝るな!今、敵に攻めて来られたら死ぬぞ!!」
「そんなこと言われても眠かことは眠かですばい。」
「そうです。限界です。寝させてください。・・・ガクッ。」
「ぬぬぬ、貴様ら~~~!!」
黄祖はギャーギャーと彼らを怒鳴りつけて無理やり仕事をさせたが、彼らは全然仕事に集中できずにいた。
この事態を重く見た黄祖は副将と相談を始めた。
「・・・いかん、いかんぞう。このままでは戦にならん。・・・どうすれば良いと思う?」
「今夜は彼らを思う存分休ませるべきでしょう。でないと、皆が過労で倒れてしまいます。」
「しかし、それでは奴らの夜襲を阻止できんぞ。」
「お言葉ですが、夜襲は無視してよろしいかと思われます。」
「なにっ!どういうことであるか!!」
「この7日間の夜襲で感づいたのですが、奴らは恐らく本気で夜襲を仕掛けてきてはいないと思われます。奴らの夜襲はフェイントで、我々を疲れさせる策に違いありません。」
「むむむ。・・・確かに言われてみればその通りかもしれんな。・・・我々を疲れさせる策とは敵もやりおる。」
「はい。ですので、今夜は休ませて問題ないかと。そして、いずれ昼間に行われるであろう本戦に備えるべきです。」
「そうじゃな。というよりもそれしか手はないか。・・・今夜は兵たちを休ませるとしよう。」
副将と相談した黄祖は已む無しと、今夜は兵たちを存分に休ませることにした。
しかし、その夜・・・
「ふふふ。時は来た。・・・皆の者!今夜は本当に夜襲を仕掛けるぞ!!」
「「うっほほ~い!!」」
孫堅軍は8日目の夜に、フェイントではなく、本当に夜襲を仕掛けたのであった。
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