第96話 虎牢関の戦い(三英雄と呂布の戦い) その四

 両軍の兵が見とれる虎と狼の漢の戦いに決着が訪れた。

 張飛の矛が乱れ始めたのだ。

 僅かに、少しずつ、そしてハッキリと分かるように乱れ始めていた。

 それは、体調や気分、環境などの要因ではなく単純な実力差から生じたものであった。


 此度の戦いは呂布の勝ち。

 乱れる矛に対し、戟の勢いは増々盛んになっていた。

 狂ったように全てを呑み込む狂狼は猛虎をも凌駕していた。

 よろめく虎に狼が喰らいつく。

 もとより必死の張飛は防ぐので精一杯で、呑み込まれるのは時間の問題であった。



 彼らの一騎打ちを見守っていた袁紹、曹操、その他諸侯一同の内心は焦るばかり。

 しかしその時、彼らの一騎打ちの場に近づく2騎の味方がいた。


「張飛よ、怯むな!」


「我らが加勢するぞ!」


 近づく2騎は張飛の義兄弟の『劉備』と『関羽』であった。

 両者は一騎打ちを邪魔するのは無粋だと理解していたが、今回はそうは言っていられない状況だった。

 張飛が敗れれば、鎖に繋がれている猛獣が再び戦場に放たれてしまうも同義。

 それを防ぐため、2人は虎と狼の一騎打ちに参戦することにしたのだ。


「むっ!奴らはなんだ!!」


「俺の義兄弟だ!!」


「くっ!この戦いに加勢するとは卑怯・・・いや、おもしろい!!」


 呂布は笑った。

 今までこれほど楽しい武を演じたことがあっただろうか。

 それに加えて、今度は3対1の状況に追い込まれる。

 これほど楽しい状況下で呂布は笑わずにはいられなかった。


 劉備と関羽は張飛の邪魔をしないように馬を走らせ、3方からの攻めに入った。


「呂布覚悟!!」


「逆心呂布!その命貰った!!」


 一方から劉備の左右の手に握られた大小の剣が呂布に襲いかかる。

 そしてもう一方から関羽の青龍偃月刀が振り下ろされる。


「甘い!甘い!」


 呂布は劉備の剣を弾き返し、すぐさま関羽の青龍偃月刀を受け止めた。

 さらに今度は張飛に向けて方天画戟にて突きを入れた。


 三英雄の攻撃に対しても呂布は余裕の表情を浮かべた。


「甘い!甘い!甘い!甘い!甘い!甘い!甘い!甘い!甘い!甘い!」


 呂布は方天画戟を振り回し、劉備、関羽、張飛の3名を右へ左へ翻弄して、さらなる武を演じていた。


 4名による竜巻以上の剣劇に、またしても皆、酒を飲んだように酔いしれるのであった。

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