第88話 腹が減っては戦は出来ない

「腹へったぁ~。」


「ひもじいよぉ~。」


「孫堅ちゃま~~。お腹すいたでちゅ~~。」


 袁紹のドカス以下の判断による味方からの兵糧攻めにより、孫堅軍の元には兵糧が送られてこず、孫堅軍の兵は日に日に痩せ衰えていった。


「くそっ!袁紹殿は何をしておるのだ!このままでは我が軍は全滅だ!・・・使者よ!袁紹殿は本当に兵糧の件を了承したのだろうな!!」


「は、はい。間違いなく兵糧を送ると言質を取りました。」


「くっ!ならば何故兵糧が送られてこんのだ!くそーーー!」


 孫堅は机を拳で殴り、怒りをあらわにした。


 怒りを露にする孫堅であったが、彼にはどうすることも出来なかった。

 敵の謀略による兵糧攻めならまだしも、味方からの兵糧攻めなど想定外もいいところ。

 孫堅軍は敵味方による挟み撃ちにあっているも同然であった。

 そのため孫堅軍は前にも後ろにも進むことが出来ず、完全に孤立状態となってしまった。



 一方こちらは汜水関。

 華雄は広間にて、副将の李粛から報告を受けていた。


「華雄殿。物見からの報告によりますと、孫堅軍はここ1ヶ月半ばかりろくな食事をしていないようです。」


「何?ろくな食事をしていないだと?」


「はい。物見が申しますに、ここ最近、孫堅軍に荷車が来た様子はなく、兵站へいたん部からは水煙が昇っていないそうです。それに気づいた物見が孫堅軍の近くまで忍んだところ、孫堅軍の兵はガリガリ中のガリガリになっており、痩せ衰えて骨と皮だけの生ける屍になっていたとのことです。」


「なるほど・・・どうりで最近、孫堅軍が攻めてこないわけだ。」


 副将の李粛からの報告を受けた華雄はあごに手を当て、今後についての策を検討した。


「・・・今が好機であるな。李粛よ。お主は一軍を率いて間道かんどうから敵の背後に回り、奴らに奇襲を仕掛けろ。そして奇襲が成功したら火の光で合図しろ。それに合わせて私は奴らに正面からぶつかり、奴らを一挙に蹴散らす。」


「了解!・・・しかし、そう上手くいきますかな?」


「上手くいくさ。腹が減っては戦は出来ぬというだろ?空腹な奴らに戦意などありはしない。蹴散らすなど簡単なことだ。」



 その夜、李粛は打合せ通りに行動し、孫堅軍に奇襲を仕掛けた。

 華雄の読み通り、痩せ衰えた孫堅軍に戦意はなく、彼らはただ逃げ惑い討たれるだけであった。


「退くな皆の者!獲物を持って戦え!戦うんだ!・・・くそっ!駄目か!!」


 さすがの孫堅も戦意の無い兵を指揮することは出来ず、孫堅軍は混乱を極めた。

 混乱極まる孫堅軍に更なる追い討ちがかかる。

 李粛の合図にあわせて猛将華雄が正面攻撃をしかけたのだ。

 こうなっては孫堅軍にもう勝ち目はなかった。

 孫堅は仲間の死体を踏み越えて、夜の森へと逃げのびていった。

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