第66話 悲歌は悲しい歌である

 董卓は呂布が自分の配下になるとすぐに策を実行した。

 董卓は宮中に乗り込み、玉座の前にて声高々に新帝追放の宣言文を読み上げた。


「今の帝はダメな帝。とにかくダメ。全てがダメ。絶対的にダメ。何が何でもダメ。筆者の文章力よりダメ。これは致命的。よって新帝を認めない。だから追放させます。以上。」


 董卓が宣言文を読み上げると、新帝は顔が真っ青になり、何后は泣き叫び、臣下一同は唖然として声も出なかった。

 もはや董卓に逆らえる者はこの場にはおらず、皆はただ俯いて事の成り行きを見守るしかなかった。

 しかし、そんな臣下一同の中に1人の勇敢な若者がいた。

 彼は腰に差していた剣を抜くと董卓に向かい突撃した。


「逆心董卓!私と共に召天せよ!キエエエェェェーーー!!」


 若者は奇声を上げて董卓に向かい、剣を振り下ろした。

 しかし、董卓は図体ずうたいに似合わぬ可憐な動きで剣をかわした。


「あぶなっ!このわしになんてことをするのだ!皆の者やっておしまい!!」


 董卓の下知と共に、董卓の護衛たちは若者に向かい槍を突きだし、彼をプスプスと槍で突いた。


「うっ!やられたでごわす・・・残念無念再来年。」


 若者は頭の先からお尻の穴までの色んな場所を槍で突かれ召天した。

 彼の血で真っ赤に染まった殿上で董卓は高笑いをして、時代の覇者となったことを宣言した。


「これからは若き陳留王様の時代だ!そして不肖の身ながらこのわし、董卓仲穎がそれを補佐させてもらう!陳留王改め献帝けんてい様万歳!!」


 董卓は陳留王を帝に奉り立て、自分は若き献帝(=陳留王(協皇子))に代わりに国を動かす相国しょうこくという役職に就いた。

 そして、廃帝(=新帝(弁皇子))と何后を逆らえぬように永安宮えいあんきゅうに幽宮したのであった。



 新帝追放の策に成功した董卓は、自身の屋敷で美女を片手に美酒を飲み干し、酒池肉林な毎日を過ごしていた。

 しかし、浮かれる董卓に李儒が釘をさす。


「董卓様。お楽しみのところ申し訳ありませんが、永安宮にて少々マズイことが起こっています。」


「永安宮にてマズイことじゃと?何が起きた?」


「何后の馬鹿女が永安宮にて悲歌(=悲しみをうたった歌)を歌っております。この歌が広がるのは非常にマズイので、即刻彼女たちを処分すべきと進言いたします。」


「なに、それはマズイの・・・ちなみにその悲歌は一体どんな歌なのだ?李儒歌ってみよ。」


「はぁ。・・・では僭越せんえつながら歌わせて頂きます。」


 李儒はコホンッと軽く咳払いをすると美声を震わせ、何后の悲歌を歌った。


「春は来ない、もう来ない~♪綺麗な花は咲き乱れ、澄み渡る空に燕が飛ぶ~♪でもこれ全部、昔のことなの♪今は狭い牢獄で~毎日ぼんやり過ごすだけ~♪嫌になっちゃう困っちゃ~う♪私はもうダメだから~♪忠と義を持つ人よ♪私の無念を晴らしてね~♪糞ゴミデブ虫なんて殺しちゃえ♪・・・という歌です、はい。」


 李儒の美声による作詞作曲:何后の悲歌を聞いて、董卓は激怒した。


「あの糞アマーーー!許さん!李儒よ!方法はお主に任すから、今すぐに廃帝と何后をぶっ殺してこい!」


「かしこまりました。ではではこれにて失礼いたします。」


 一曲歌ってスッキリした李儒は、董卓に頭を下げると永安宮へと向かった。

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