第26話 対等でありたい

 劉備軍は官軍のもとへ駆けつけ、官軍と協力して黄巾賊を見事に追っ払った。


「我が軍へ加勢してくれたのは誰だ?ここに連れてこい!」


「ははあ!」


 黄巾賊からの追撃を受けていた官軍の大将である董卓とうたくは部下に劉備を連れてくるように命じた。

 ほどなくして董卓の部下は劉備ら3人を連れてきた。


「お主たちが我が軍を助けてくれたのか?」


「左様です。」


「そうかそうか。救援感謝いたす。・・・ところでお主たちは何の官職につかれているのかな?」


「いえ、我々は官職にはついておりません。我々は太平の世を築くために集まった義勇軍ですので。」


「何!官軍ではないと申すか!」


 董卓はへりくだった態度から一変して、露骨な軽蔑の態度になった。

 それは劉備たちが幾度となく見てきた官軍の姿であった。


「義勇軍なんてあほくさくてかなわん!帰った帰った!お呼びじゃねーよ!」


 そう言って董卓は太った体を揺らして劉備に背を向け、のそのそと自陣へと帰って行った。



(マズイ!)


 董卓の態度を見て劉備は即座にそう思い、張飛を見た。

 しかし、意外や意外。張飛は大人しくそこに突っ立っていた。

 無言で文句を言うことなく蛇矛の柄の先を地面に突き刺し立っていた。

 董卓に飛び掛かることはせず、ただ立っているだけであった。


(よかった。あの態度を見てキレるかと思ったが、杞憂だったか・・・)


 そう思った劉備であったが、張飛の様子を再度見て考えを改めた。


 張飛は震えていた。

 わなわなと、そして目に涙を浮かべて震えていた。

 蛇矛を握っていない手は握り拳を作っており、握り過ぎて血が滲んでいた。


「張飛・・・。」


 劉備はかける言葉が無かった。


 張飛は義勇軍を立ち上げてから何度も官軍のアホどもを殴ろうとした。

 しかし、いつも義兄2人に止められていた。

 張飛は義兄2人の言い分も理解していた。しかし、納得出来ずにいた。


『間違っているなら殴ってでも正しい道へと進ませる。同じ志を持つ仲間ならば当然のことだ。』


 これが張飛の持論であった。

 しかし、彼の考えは一向に認められなかった。

 そして、何度も何度も同じことを繰り返したことで張飛もようやく納得した。いや、納得したという表現は間違いであろう。認めたという表現が正しいだろう。

 張飛は認めてしまったのだ。自分の持論が間違いであったことを。


 同じ志を持つ仲間であるが対等ではない。気にもかけて貰えない存在。そう、自分たちは遥か下の存在であると。

 それはすなわち・・・



「劉備の兄貴。俺たちは官軍にとってどういう存在なんだ?」


 官軍の兵がその場を引き上げ、劉備たちだけになった時、張飛が劉備に問いかけた。


「それを私の口から言わせるのか?答えはわかっているのだろう?」


「・・・俺が悪かった。兄貴・・・すまん。」


「・・・いや、謝るのは私の方だ。すまない。」


 劉備は震える張飛の肩に手をやることしか出来なかった。

 関羽もまた同様だった。


 時は夕暮。3人の渡り鳥が夕日に照らされている。

 しかし、渡り鳥はその場で立ち尽くすしか出来なかった。


 渡り鳥はどこへ行く。

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