第9話 激突、風魔小太郎!!
孫市を守ると決めた俺は、そもそもここはどういう場所なのかから聞いてみた。
「ここは、雑賀衆が独自に編み出した拷問施設なんだ」
「拷問施設とは……またえげつないもんだな」
「情報を引き出すのも仕事の1つだったから」
「なるほど、それであんな趣味に目覚めたと」
「うぅ……亮輔くんは意地悪だよ」
そんなことを話ながら移動していたら、長政さんたちと合流できた。
「あれ、信長さんは?」
「さっき縛られてる所は見付けました」
「いや、助けてあげようよ……」
「触れないのにどう助ければいいのー?」
あまりに普通すぎて、二人が幽霊で基本物触れないの忘れてた……。
「で、信長さんはどの部屋に?」
「この先の部屋ですが、それより……」
「りょーちゃん、それは一体どういうことかな?」
香菜が何故か物凄い、怒気のこもった声で聞いてきた。
「いや、ただ説得して仲間になってもらっただけなんだけど……」
「"ただ説得しただけ"なら、腕を組むなんて事態にはならないはずです!」
「なに?ボクが亮輔くんとイチャイチャしてたら都合が悪いの?」
そう言ってますます距離を詰めてくる孫市、それを見てますますヒートアップする二人、そろそろ収拾がつかなくなって来たので、俺は強引に話を断ち切ることにした。
「取り敢えず、信長さん助けて脱出するぞ、文句はその後で全部聞く」
「わかりました……」
「りょーちゃんがそう言うなら……」
「ここは、亮輔くんの顔を立てることにするよ」
3人ともしぶしぶと言う感じではあったが、一端矛を収めてくれた。
「それに、今ここは、風魔小太郎に襲われてるらしいし」
「え?風魔小太郎って、あの風魔小太郎ですか?」
「あのも何も、風魔小太郎って言ったら1人しか居ないだろ?」
当然の事だろうに、長政さんは何を言ってるのだろう、それともまさか……。
「もしかして風魔小太郎も女なのか?」
「そうではないのですが……」
「んじゃどういうことなんだ?」
すると、長政さんは一拍置いてから話始めた。
「風魔小太郎は、そもそも人間ですら無いんです」
「は?」
「風魔小太郎は
「待ってくれ、オーバーテクノロジーが過ぎるだろ!?」
「そうでも無いよ?当時はお茶汲み人形とかは作っていたし、それの規模を大きくしただけだし」
「そこに陰陽師の血を引く者が影夜叉を憑依させただけですから」
「驚き慣れたと思ってたけど、まだまだ底が知れないな、戦国時代……」
「ちなみに、風魔小太郎の率いた風魔忍群は全て風魔小太郎なんです」
「もう、スケールが違いすぎて呆れるわ……」
***
そんなことを話している間に、信長さんが捕まってる部屋に辿り着いた。
「信長さん助けに来たよ……って、うわぁ……」
信長さんは、太い丸太に縛り付けられ、延々とブツブツ何事かを呟いていた。
「……どうせ私は、メインヒロインじゃないですよーだ……どうせ耳年増の、生娘ですよーだ…………」
「まてぇぇぇい!ネガティブ、ダメ絶対ぃぃぃ!」
俺はすぐさま、信長さんに駆け寄って縛りつけてある縄をほどいた。
「信長さん遅くなってごめん、後でなんでも言うこと聞くから機嫌直してよ」
「……今、なんでもって言ったわよね?」
しまった……まさか、孔明の罠だったか……!?
「あぁ、うん俺に出来ることなら」
「……わかったわ、それでさっきからなんかうるさいみたいだけど何かあったの?」
「実は、今ここに風魔小太郎が襲撃に来てるらしいんだ」
「なんでよ?亮輔あんた、何かしたの?」
「まあ、俺がしたといえばしたんだけど」
「それは、ボクにかけられてた暗示が解けたからなんだ」
「ふーんそうなの、ところで……なによそのハレンチな恰好恥ずかしくないわけ!?」
「だってこれがボクの正装だから、そんなこと言われても」
風魔小太郎が迫っているというのに、なんだか気の抜ける会話しかしてないんだが、大丈夫なんだろうか。
そんなことを思いながら、孫市の拷問施設の入り口に向かっていった。
***
俺は、入り口に向かう途中でひとつ気になったことを孫市に聞いてみることにした。
「ところで、どうして孫市は催眠暗示なんてかけられてたんだ?」
「それはねボクに体を貸してくれてる一華ちゃんにも関係があることだと思うんだ」
「そうなのか?」
俺がそう聞くと、孫市は静かに頷いて話始めた。
***
一華ちゃんと出会ったのはもう2年くらい前だと思う。
その頃のボクはまだ他の幽霊なんかと同じで、ふわふわ漂っているだけだったんだ。
ある日、今の世界のことを知りたくてふわふわ浮かびながら街を散策してたら、1人の女の子がじーっと、ボクを見つめてきたんだ。
そう、それが一華ちゃんだったんだ。
一華ちゃんは亮輔くんみたいに幽霊やボク達戦国武将の魂が見える女の子だったんだ。
ボクのことが見える人に会ったのは初めてだったから、ついついはしゃいじゃってそれからは毎日のように一華ちゃんとお話したんだ。
お話の内容は本当に他愛無いことだったよ、その日は何を食べたとか、今日は学校でこんなことがあったとか、でもそんな日々は長く続かなかった……。
ある日突然、一華ちゃんが倒れたんだ、原因は白血病だった。
もう、倒れた時にはかなり進行していたみたいで、一華ちゃんの余命は3ヶ月だった……。
それから、ボクは一華ちゃんがなんとか生きられる方法を必死で探したんだ。
もう一度一華ちゃんの笑うところが見たい……、その一心でありとあらゆる情報を調べた、そんなある時ボクはある組織に出会ったんだ……。
その組織は、ボクが一華ちゃんに憑依すれば一華ちゃんの命を永らえさせることが出来る、そう言って生きた人間に憑依出来るようになる薬だと言ってとある粉を渡して来たんだ。
結論的に言えばその薬はそんな生易しいものでは無かったんだ、薬を飲んだ人間の自我を強制的に押さえ込み、新しい自我としてボク達のような魂を植え付けるそして植え付けた魂は組織の意向には逆らえないよう体の奥底に暗示を刻まれる……まさに悪魔のような薬だよ。
そしてボクのようにそういう暗示が効かない魂には、更に強力な暗示をかけられる……そうしてボクの様な操り人形が量産される……。
一華ちゃんを助けるつもりが、逆に一華ちゃんを苦しめるような結末になる、なんて皮肉にも程があるよね……。
***
孫市の口から語られた事実に俺は、強く拳を握り締めた。
そんな非道が許されていいのか、そんなことあってはいけない……!
宿主の意識を押し込めて無理やり別の意識を上書きする、それだけでもあってはならない事だ、そこに更に上書きした人格を暗示で無理やり従わせる……?倫理観の冒涜にも程がある、人間のやっていい所業じゃない。
風魔小太郎襲撃の際、孫市が苦しんでいた所を見るに暗示など生ぬるい……それこそ鬼畜の所業、隷属とでも言えるのでは無いだろうか?
怒りに震える俺の隣で、敵の接近に気付いたらしい孫市が臨戦態勢をとる。
「亮輔くん、風魔がもう来ちゃったみたいだ」
「ここで負けたら孫市がまた辛い目に合うんだ……絶対に負けられない!」
すると、俺の想いに呼応する様にSCCが淡い光を放ち戦う為の新しい力を与えてくれた。
「着装!!」
『クロスオン!マ・ゴ・イ・チ!疾風!迅雷!ヤタガラス!』
夜を駆ける、傭兵集団頭領の黒い外套と二挺の短銃……そして、闇夜に煌めく白銀の投げナイフを帯刀した、暗殺者の様な風貌へと変化した俺は、変身すると同時に一体の風魔小太郎の脳天に風穴をブチ開けていた。
「さあ、孫市の苦痛を何倍にもして返してやるよ」
戦国ブシドー霊衣(クロス) 霞羅(しあら) @xest1852
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