第8話 呪詛

「本番一分前です」

TVスタジオに声が響く。


 テレビ局のスタジオ。司会者を中心に扇状の出演者たち。


司会者にむかってすぐ右に細村、左に幹事長の席があった。


(細村め、こんどは結界に隠れることはできんぞ)

 幹事長は司会者と談笑する細村をにらみ、タイピンに触れる。


 左鏡はその幹事長側の左端に座っていた。

背広姿の左鏡はスタジオ内を見回した。

「宗教学者 左鏡」のネームプレートが彼の前には置かれていた。


(細村はいつも内霊に守られているわけか)

 左鏡は細村を包み込む球を認めた。

 そしてスタジオの隅に、スタッフにまぎれこんでいる由香里を見つける。


(なんだあの女のオーラは)

サングラスをはずす左鏡。

 スタッフ達は彼女のオーラに阻まれるように、周囲を通りすぎている。

(だれも女の存在に気づいていないのか!)


 そこへ音もなく穂村が現れた。

「え、宗教学者の左鏡が!?」

「俊介から連絡があった」

 穂村と由香里は左鏡に初めて注目した。


 左鏡は鋭い眼光を二人に向けていた。

「わたしたちに気づいているみたいよ」

「ふむ、憑依能力だけではなさそうだが……」

 穂村は警戒を強めた。

「霊感があるほど奴に操られやすい。気をつけろ」

「わたしたちには通用しないわ」



(あの少年の姿は見えないようだが)

左鏡はニヤリと不敵な笑みをうかべた。

(どれ、験くらべといくか)

 左鏡は無意識に腹部に手を当てていた。

 その腹部はもぞもぞと動いていた。

(そろそろ弟子たちが魑魅魍魎を送りこんでくるはずだが……)



 護摩壇が焚かれ、左鏡の白装束の配下たちが、高く低く誦しはじめる。

 唱和した韻律が悪霊ども呼んだ。



「本番5秒前!4………」

 3からあとは指で合図するAD。


「こんばんは、今夜は細村総理をゲストにお迎えしてお送りいたします」

大型プロジェクターの画面に司会者が映る。

「今回のテーマはずばりテロです」




TV局に到着する俊介のバイク。瞳が背中にしがみついている。

「なんだこの雑霊の群れは?」


 大小様々な霊が建物に渦巻いていた。

「うえっ!まるで霊場か、怨霊塚みたい」

 瞳が正直な感想を述べた。


「きみたち、許可証は?」

 出入口で守衛がチェックする。

「おはようございまーす」

 俊介がキャバレーのチラシを見せる。

「美少年タレントの内刃俊介でーす」

「あ……ど、どうぞ……」

守衛は暗示にかかってしまった。


「恥ずかしげもなく、よく言うわね」

 バイクを発進させる俊介。

「瞬間催眠術はインパクトが大切なのさ」


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