第6話 狩人の鉄則 その六
太陽が爛々と照りつける砂原はどこまでも広がり、干上がるような静謐さを保っている。
が、今ここだけは、がやがやと騒がしかった。
変声前の少年たちの話し声が、双子砂丘の間で飛び交っている。
戦闘中の緊張感はやや薄れ、狩りの成果を拾得する彼らの様子は終始にぎやかだ。
巨大な硬岩蜥蜴に群がり、蟻のように速やかに死体を解体していく。
「ルシアド! 首の血、止まった!」
頭を切り落とされ、断面図のようになった太い首を縄で縛り、クランクを回してさらに締めつけを強化していた少年が力みながら叫ぶ。
「よし、動脈に採血管ぶっ刺して抜き取れ。空気に触れさせるなよ。加工前の血はすぐ劣化するからな!」
「アイアイサー!」
「血が口に入らないように気をつけろよ! ババアのところで希釈して龍の血と混ぜて薬にしてもらわねぇと、ただの毒だからな!」
死んだ硬岩蜥蜴の身体は戦闘中と違ってゆるんでいるが、それでも解体作業は重労働だ。
的確に指示を出さなければ、いつまで経ってもこの巨大な肉の塊を解体できない。
ルシアドは大きな背中を歩き回りながら、解体作業中の少年たちに指示を飛ばしていく。
「ルシアド、鱗はどうする? こんな重いの、荷台に全部は積めないぞ」
「外側の岩鱗は垢みたいなもんだ。一度剥いで裏側を見てみろ。透明で柔らかい膜があるだろ。そう、その翡翠色のやつ、それが本当の鱗だ。気をつけろよ。熱処理しないとかなり脆いからな」
「ルシアド、バギー直った! 石ころ噛んでただけだった!」
「よし、良いぞ。荷台に繋いだら尻尾の解体作業を手伝ってくれ。筋繊維を回収するんだ」
「了解!」
「ルシアド、頭はどうするんだ? バラすのか?」
「硬岩蜥蜴は脳みそ小さいからな。頭悪ィし。分厚い頭蓋骨を割ってまで手に入れるのは時間と釣り合わねえ。目玉だけほじくりだしとけ。頭殻も今回はいい。依頼にはなかったからな」
「ルシアド!」
「ルシアド!」
左右から、双子の少年少女が飛び跳ねながらルシアドを呼ぶ。
「なんだよ! 俺にばっか聞くな! ニトとナグロにも聞けよ!」
「ニトは説明が抽象的すぎて、何を言ってるのかわかんない」
「ナグロは喋るの下手すぎて、何が言いたいのかわかんない」
「~~~ったく、うちのツートップは、戦闘以外はクソの役にも立たねえな! 解体作業も狩りのうちだぞ!」
ルシアドはメモ書きを走らせまくった書類を片手に、ボリボリとターバンを巻いた頭をかいた。
周囲を見渡せば、ナグロは日陰に腰掛けてタバコをふかしているし、ニトは硬岩蜥蜴の頭の上でぼんやりと空を眺めている。
「ナグロ! おい! 一服やめろ! こっちで鱗剥ぐの手伝ってくれ! その後は内臓とり出すからな」
「わかった。任せろ」
「ニトはそっちでチビ達と一緒に荷物運びの手伝いだ。分かったな?」
「うん、任せてよ」
そう言いながらも二人の動きはのろい。
戦闘が終わって、完全に気が抜けている。
「駆け足ィっ!!」
怠け者二人を怒鳴りながら、ルシアドも解体作業を手伝う。
「急げよみんな! 死体の匂いに惹かれて他の獣が集まってくる前に、回収できるだけ回収するぞ! 狩人の鉄則その六だ!」
「「「『獲った獣は速やかに解体しろ。半分は大地に返せ』!!」」」
「良い返事じゃねえか! 大地に返せってのは、死体を囮にして獣たちがそれに群がってる間に去れってことだからな! 宗教的な意味じゃないぞ! ってそうじゃない! 喋ってないで働け働け!!」
やけくそに怒鳴りながら、ルシアドは損な役回りをこなす。
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