第58話 仕方ないじゃん!

 ある日の夜、俺と里奈は人気FPS「コールオブダーティー モダンヤーキー2」を一緒にプレイしていた。いつもなら、ブラックアースにログインしている所だが、昨日あんなやり取りをした後じゃ、とてもログインしたいという気持ちにはならなかった。


 たぶん姉貴も同じ気持ちだったのかもしれない。俺が帰宅すると、コールオブダーティーをやろうとすぐに持ちかけてきたからな。たぶん何かをしていないとずっと落ち着かなかったんだろうと思う。


 そしてしばらくゲームをやっていると燈色ひいろからメッセージが来た。


「ログインしたらブラッチしかいません。先輩ヘルプ」


「ぶっ!」


 俺はスマホの画面を見て思わず吹き出していた。あいつログインしてたのかよ!すげえな燈色先生!あとブラッチはさすがとしか言いようが無いな。


「どうしたのよ?変な顔して」


 俺が携帯をいじりながら吹き出したのを見て里奈がそんな事を言ってきた。変な顔は生まれつきだ!ほっとけ。


「いや、燈色の奴ブラックアースにログインしてるらしい」


「・・・へ?ホントに?」


 さすがの姉貴も目を丸くして驚いている。燈色さんの行動力にはびっくりだぜ。


「で、ブラッチと二人きりなのでヘルプ要請が来た」


「え!?ブラッチもログインしてるの?さすがと言うか何と言うか・・・」


「だよなあ」


 里奈の奴も俺と同じ感想を持ったらしい。そりゃそうだ。


「まあ、さすがにその状況は燈色がかわいそうだし、ログインしようかしら」


「だな」


 姉貴のブラッチに対する失礼な意見に同意し、そして俺はやっていたコールオブダーティーを終了、ブラックアースのログイン画面を起動させた。この画面を見ると、嫌でも昨日の出来事が思い浮かんでくるぜ・・・。


 昨晩、団長がヒカリさんに法的手段も辞さないと宣言した直後から、ギルドチャットが凍り付いたように固まってしまった。言われたヒカリさん本人はもちろん、それを聞いていた俺達も次に発する言葉を失っていた。


 まあ俺は今回の件の被害者張本人なわけだが、まさか情報公開請求とか、小難しい言葉が出てくるような状況になるとは微塵みじんも思っていなかったわけで。


 利久りくも自分が考えていた状況よりも大事になっているからか、それとも被害者だと思っていたヒカリさんが実は加害者だった事がわかったショックからか、全く何の発言もしてこない。さっきまでだったら全力でヒカリさんを擁護していただろう。


 ギルドのチャット欄は時が止まったかのように団長の発した言葉が画面に表示されたままだった。


「だって仕方ないじゃん!」


 しかしそんな沈黙の時間を破ったのは、俺ではないもう一人の当事者であるヒカリさんだった。そして衝撃の言葉を放った。


「こうでもしないと、桐菜きりな先輩は私の所へ来てくれないし!」


 ・・・・・・・。


 そしてまたチャット欄は無言のまま静止したかのようになってしまった。


 いや、なんとなくだが予想はしてたんだよ。自由同盟の面子でヒカリさんの先輩に該当しそうなのは千隼ちはやさんの中の人である桐菜さんしかいないって。姉貴は違うし明海あけみさんだって違うだろう。だとすると千隼さんしかいないんだ。そしてヒカリさんはさらに続けた。


「このゲームを先輩が始めてからというもの、あんまり私と絡まなくなったし、ゲームさえ辞めればまた私の所へ戻ってくれると思ったんだもん!」


 「だもん」て・・・。お前の精神年齢はお子ちゃまか!しかも異様なほど千隼さんに依存してないか?一体どうなってんの?


「君がどう考えていようが知らないけど、君がやらなきゃいけない事は自分の気持ちを先輩に伝える事であって、こんな迷惑行為をする事ではないよね?君の行動は我々だけじゃなく、その君が尊敬する先輩にも迷惑をかけているんだ。それがわからないのかい?」


「うるさいうるさいうるさい!」


 団長が冷静にヒカリさんにそう諭すが、ヒカリさんの方は興奮しまくっていて、とても聞き入れてもらえるような状況じゃないようだ。これ、どうにもならないんじゃね?俺が今の状況にうんざりしている時だった。


【千隼がログアウトしました】


 そんなシステムメッセージが画面に表示された。


「あ、千隼さんが・・・」


 スカイポ越しに燈色の声が聞こえた。


「まじかよ・・・」


 そして俺が燈色の言葉に返事をしたと思ったら


【ヒカリがログアウトしました】


 間髪入れずにヒカリさんもログアウトしてしまった。そしてさらに・・・。


【ライデンがログアウトしました】


「あ!利久の野郎も落ちやがった!」


「落ちましたね・・・」


 いや、お前は何か言ってからログアウトしろよ!特に俺に!俺はヒカリさんがログアウトした直後に同じように落ちて行った利久に一人で突っ込んでいた。


「なんか今回の当事者、先輩以外みんなログアウトしちゃいましたね。千隼さんは巻き込まれた感じですけど」


「だなあ。これどうなるんだろうなあ」


「想像もつきません」


団長「あー、ちょっと当事者が居なくなっちゃったんで、今日はこれで終了したいと思います。今後の対応については、ちょっと考えさせてもらっていい?」


 俺達がそんな会話をしていると、団長がそんな事を言ってきた。


エリナ「まあ仕方ないんじゃない?ライデンは・・・ほっとくとして、ヒカリが落ちるのは予想してたけど、千隼も居なくなるとは思ってなかったもん」


団長「まあ、そうだね」


 そうなんだよなあ。あの千隼さんが何も言わずにログアウトってのは、割と衝撃的だったぜ。なんせ人に気を使わせない事に関しては右に出る人居ないんじゃね?ってくらいの気配り屋さんなのに。


 そもそも里奈だって、桐菜さんに気を使ってか「K先輩」としか言ってなかったのに。ヒカリさんが千隼さんだってばらすからこんな事になったんじゃねーの?


 そして利久の奴は自分勝手にログアウトするし!つーか、明日どんな顔してあいつと接すりゃいいんだよ・・・。


「はぁぁ」


 俺は無意識の内にでっかいため息をついていたらしい。


「先輩も大変ですね」


 燈色からそんな慰めの言葉を頂いてしまった。

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