第19話 アップデート

 ブラックアウトと一緒に神秘の塔へいった里奈は、余程楽しかったのか、聞いてもいないのに、どんどん狩りの事を話してくれた。


 神秘の塔っていうのは200階建ての塔なんだけど、1~200階全部が繋がっているわけじゃないらしい。

 1階~50階は階段で繋がっているけど、それ以上の階へ行くには「神秘の石」という、モンスターが落とすアイテムが必要になる。


 51階~70階は石が1個、71階~90階は石が5個、91階~100階は石が10個、それ以降は10階ごとに区分けされて、階層が上がる度にプラス10個の意思が必要だ。

 つまり191階~200階での狩りをするには、110個の石が必要になる。


 しかも、1~50階層では4~5時間の狩りで石が1個出ればラッキー程度なので、まずはここで石をゲットして、すぐに51階層に移るのが得策なんだと。

 なんでかというと、上の階層へ行くほど石が出やすいからだ。

 191階層なんかは、2~3時間いれば、もう一度191階層へこれるくらい石が出るらしい。


 当然里奈の奴は石なんか持ってなかったので、ブラックアウトの人から購入したらしい。で、ブラックアウトのヒーラーさん達ともいろいろ情報交換も出来て、かなり有意義な時間を過ごせたみたいだ。


「もうね、これが同じブラックアースのギルドなの?ってくらい、異次元の領域だったわ」


「まあ、そうなんだろうなあ」


「でもまた一緒に行こう!って誘われちゃった!」


「良かったじゃないか。やっぱブラックアウトにお願いして正解だったな」


「ま、まあ、あんたの頑張りも少しはあったかもね。・・・・ありがと・・・」


「なんだって?」


「な、なんでもないわよ!・・・あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


「突然大声出すんじゃねえ!うるせーよ!」


 なんだよこいつ急に大声出しやがって!

 思わず耳を塞いじまった。


「ちょっと聞いてよ!向こうでむかつく事あったの思い出した!」


 里奈の奴、ムキーなんて擬音が聞こえてきそうな勢いで、手を振り回して怒り出した。さっきまでめっちゃご機嫌だったのに。忙しい奴だな。


「なんだよムカつく事って」


「向こうであいつに会ったの!」


「あいつ?」


「ワールドよワールド!」


 ワールド?ワールドワールド・・・あーーーーー!


「ワールドってあの、シャイニングナイトのワールド?」


「そう!」


 うわあ、なんか久々に名前聞いた気がする。


 ワールドってのは、シャイニングナイトって大手の要塞ギルドのマスターで「ワールドマスター」って言うんだ。

 ちょっと前に、自由同盟とシャイニングナイトが揉めた時に、一度だけ見たことがある。正直友達になりたいとは思わないタイプの奴だったね。


「それで、なんか黒乃さんと話し始めたんだけど・・・」


 まあ、数少ないレベル100同士だし、要塞戦でライバルでもあるから、面識はあるだろうな。


「なんか、噂がどうのこうのって話してたのよね」


「噂?」


「うん。オリオンサーバーがどうのこうのって」


「オリオンサーバー?」


 オリオンサーバーと言えば、カシオペアと同じPKがOKなサーバーなんだけど、割と平和なカシオペアと違い、PKサーバーである事を最大限に活用して、ダンジョンの占領や要塞ギルド同士のPKも活発だと聞くな。


「前、オリオンの噂がカシオペアで流れた事あったじゃない?覚えてる?」


 そういえば、以前ちょっとしたうわさが流れたんだよな・・・。


「なあ里奈、二人は一体どんな話してたの?」


「んなんか、オリオンの人達がカシオペアに入ってきてるみたいな、そんな会話を黒乃さんとワールドがしてたのよね」


「まじかよ・・・」


 実は以前オリオンの奴らが、カシオペアサーバーで要塞ギルドを設立して、こちらでも要塞戦に参加するって噂が流れたんだ。

 それ自体は特に問題ない気もするが、さっきも言った通り、オリオンってのはPK上等なサーバーだ。

 PKサーバーなのに、まるでノーPKサーバーのような雰囲気を持つカシオペアの住人は、オリオンの要塞ギルドが引っ越してくることに、かなり不安に思う所もある。


 でも俺ら以上に、サーバートップの要塞ギルドの人達は、この話には敏感になってるだろうなあ。

 しかしまあ、俺達があれこれ考えても仕方ない事だしな。


「まあでも、俺らが今どうこう言っても仕方なくね?」


「それもそうね。あんたに何かできるとは思えないし」


「うるせえよ!」


 その後は、ワールドが相変わらずカッコつけた奴だったとか、ひとしきりワールドの悪口をいってから、里奈は自分の部屋へと戻っていった。



次の日。


「聞いたかいダーク君!」


 ブラックアースにログインするや否や、いきなり団長からそう話しかけられた。


「いえ、聞いてません」


「なんだい、遅れてるなあw」


「そもそも何を聞いているかもわからないのに!?」


 さっきのセリフだけで色々理解出来たら凄すぎるわ!

 とはいえ、団長の言葉は文字だけとは言え、かなり浮かれてるのが読み取れる。


「えっと、何かあったんですか?」


団長「え?本当に知らないの?」


ヒイロ「先輩本当に知らないんですか?」


アッキー「うわー、黒を制する者なのにひくわー」


ダーク「黒を制するは関係ないでしょうが!」


 なんか最近、明海さんが毎回黒を制する者いじりをして、俺が突っ込むのが定番になってる気がする。不本意だ・・・。

 しかしそれにしても、一体何があったんだ?


ヒイロ「先輩、ブラックアース公式サイトは見ましたか?」


ダーク「いや、見て無いよ」


ヒイロ「今すぐ見てきてください」


ダーク「そんなにか!?」


ヒイロ「うん」


 いつも感情を露わにしないヒイロさんも、心なしか興奮しているように見える・・・。一体何があるんだ?

 そういうわけで、スマホで公式サイトへと飛んでみた。


【ブラックアース アップデートのお知らせ」


 ほうほう、アップデートか。


【新要塞と新大陸実装のお知らせ】


 今回のアップデート実施により、新大陸「オルビナ」と「オルビナ要塞」そして、都市オルビナを実装いたします。

 新大陸には、新たな狩場も実装予定です。この狩場は、高レベルの冒険者向けとなる予定です。


 以下略。


 ・・・。

 ええええええええええええええええええええええっ!

 新要塞!?新都市?新狩場?

 まじかよ・・・。


ダーク「戻りました。びっくりした」


団長「でしょ?」


ヒイロ「特に新要塞が気になりますね」


 ヒイロはすっかり要塞戦マニアになってしまったな。

 今や毎週の要塞戦をチェックし、暇があれば見学にも行ってるらしい。

 まあ、そういう俺も新しい要塞は気になるけどね。


団長「実装直後は人も多いだろうから、これは新人さんの勧誘チャンスだよ!」


ダーク「ああ、確かにそうかもしれませんね」


 ブラックアースは、新しいマップやストーリー等の、大規模なアップデートの前後に、必ず大々的な宣伝やキャンペーンをするんだ。

 なので、アップデート直後は人がかなり増えているのを実感できる。


団長「まあそう考えると、このまえブラックアースニュースに、僕たちの書いたギルド日記が取り上げられたのはタイミング的に良かったかもね」


ダーク「うっ、嫌な事思い出した・・・」


ヒイロ「偶然ですね先輩、私も妙に頭が痛いです」


アッキー「え?大丈夫?そんな時は、私と礼君のらぶらぶ狩り日記見るといいよ!」


ダーク「結構です」


ヒイロ「お断りします」


アッキー「なんでこんな時だけタイミング揃うのよ!」


 実はノリに乗った団長とアッキーさんが2週連続で「らぶらぶ日記」を書いてたんだ。もう正直あの日記は見たくないです。


【ライデンがログインしました」


ライデン「みんな見た!?アップデート見た!?」


 利久は入って来るなりいきなりテンションMAXで話してきた。


団長「やあライデン、新要塞の話でいま盛り上がってたとこだよ」


ライデン「あーやっぱり!?うをおおおおおおお!めっちゃテンション上がる!」


 まあ、利久の奴、要塞戦大好きだからなあ。とはいえ、まだきちんと参加した事は無いんだよな。

 レベルが足りないのと、装備が基準に届いてないからだ。

 

まあこいつは、俺と一緒にブラックアースを始めたものの、しばらく幽霊部員になってたからなあ。


団長「そうだライデン。次の要塞戦、いつになるかはわからないけど参加してみるかい?」


ライデン「え!?まじで!?やるやる!絶対参加する!」 


団長「オッケー。じゃあ、それまでに色々準備はしといてね」


ダーク「良かったなライデン!」


ライデン「おう!ついに俺の真の実力を見せるときが来たぜ!」


 まあ、こいつの真の実力はともかく、長い付き合いのこいつと一緒に要塞戦を出来るのは単純に嬉しいとは思う。

 利久の奴も最近は、ヨーチューブでの映像化を意識してか、レベルや装備も急速に整いだしてきたしな。

 俺も負けてられないぜ!

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