第18話 里奈とブラックアウト

「ホント!ブラックアウトは凄いわね!」


 里奈の奴、さっきからそれしか言ってねえ。


「立ち回り方があんたとは全然違うし」


「ほっとけよ!あんなギルドと比較されたら大抵の奴は勝てねーよ!」


「でも、あんたの友達のエバーラングだっけ?あの子もめちゃくちゃ上手かったわよ」


「うっ・・・」


「最初ブラックアウトと一緒に行かないか?って言われた時は頭が真っ白になっちゃったけど、なんかやる気が出て来たわ!」


「さいですか・・・」


さっきブラックアウトの連中と一緒に神秘の塔から帰ってきてから、ずーっとこんな調子だ。余程楽しかったんだろう。


 里奈のゲームに対するマンネリ打破の為に、神秘の塔や罪人達の流刑場へ行ったらどうか?と、提案してから1週間ほど経った。


 最初は千隼さんに頼んだんだが、シャイニングマスターは出せないと断られ、色々考えた結果利久の妹の利香に、姉貴と一緒に行ける奴がいないか聞いてみたんだ。


「ペアですか?」


「うん。姉貴と一緒に行ける人はそっちのギルドにいないかな?」


「うーん、いると言えばいるんですけど・・・」


 いつもははっきり物を言ってくる利香が、奥歯にものが挟まったような言い方をしてきた。


「いやいや、なんか都合悪かったら無理にじゃなくていいよ?」


 俺は利香に慌ててそう言ったよ。

 こいつにはいつもお世話になっているし、なんか里奈の事を無理やり押し付けて困らせたいわけでも無いんだ。


「いえ、都合が悪いとかそういう事じゃないの」


 利香の奴も慌てた様子で返事をしてきた。


「あの、里奈さんは神秘の塔へ行かれたことはあるの?」


「いや、姉貴の奴は、そういった高レベルの狩場には行ったことが無いはずだ」


 だって自由同盟には、そんな狩場に一緒に行ける奴なんていないからな。


「んー、それだとね、ペアじゃなくてチームハントのほうがいいんじゃないかと思う」


「そうなの?」


「うん」


 利香の説明によれば、神秘の塔や罪人達の流刑場は「初見殺し」と言われていて、経験者と行動をしないと、あっさりやられてしまうような場所ばかりなんだそうだ。

 なので、初めて行くなら経験者複数名と一緒に参加して、勉強しながら狩りしたほうが良いらしい。


「なるほどねえ」


「そこで問題がありまして・・・」


「問題?」


「私達のギルドも、現在チーム員ほとんどが勉強中でして・・・」


「ああ・・・」


 なんでこいつが難しい顔をしているのかやっとわかった。

 お兄ちゃん大好きギルドも高レベル狩場での狩りはいっぱいいっぱいなんだろう。

 で、正直里奈を連れて行くような余裕はない。


「大変申し訳ないんだけど・・・」


「いやいや、こっちが無理言ってるわけだし、気にしないでよ。それにしてもそんなに高難易度なのか?」


「それはもう!私なんか、着いてすぐに「レッドドラゴン」のブレスをまともに受けちゃいましたからね!魔法防御と火耐性装備じゃなかったら一発で倒れてましたよ!」


 まじかよ・・・。確か利香の奴は体力型のステータスだったはず。その利香がやばかったって言う事は、INT型の里奈の体力だともっとやばいという事か。


「あの、一つ提案なんですけど」


「え?」


「黒乃さんに頼んでみてはどうでしょう?」


 黒乃さんって、ブラックアウトに頼んでは?って事か?


 うーん、黒乃さん個人になら頼みやすくはあるんだけど、チームに対してのお願いとなると、ちょっとやりにくいなあ。

 だってさ?すげえ個人的なお願いじゃんこれ。

 利香の場合リア友だし、ギルドも全く知らない仲というわけじゃあない。

 けどブラックアウトだよ?サーバーで1,2位を争う大手だよ?


「そんな悩むような事じゃないと思うんだけどなあ」


 俺がうーんと唸っていると、利香が苦笑いしながらそう話しかけて来た。


「いやだけどさ、俺、ブラックアウトの人達あまり知らないし、それなのにいきなり自由同盟のヒーラー1名を狩りに一緒に連れて行ってくれとか言えねーよ」


「とりあえず、黒乃さんに聞くだけ聞いてみたら?」


「そ、そうだな。聞くだけ聞いてみるか?」


 なので、早速その夜ゲーム内で黒乃さんに連絡をしてみた。

 わざわざ夜まで待ったのは黒乃さんの仕事の都合もあるし、ゲーム内の事なので、元々面識がある利香はともかく、ゲーム内の事はゲーム内でって思ったからなんだ。


 俺は黒乃さんに、今回連絡を入れた理由、つまり里奈を一緒に連れていくことは出来ないかを打診してみた。


「ふむ、いいだろう。その提案受けようじゃないか」


 黒乃さんはしばらく考えた後、そう答えてくれた。


「えっと、こちらから頼んでおいて何なんですが、本当にいいんですか?」


 だってさ、このお願いでブラックアウトが得するものなんて何も無いじゃん。

 こっちは黒乃さんやエバーとの繋がりだけでお願いしているだけで、ブラックアウトの連中からすれば関係ない話だからね。


「ん~、これは例えばの話だが・・・」


 一旦そう言ってから、黒乃さんは俺に理由を話してくれた。


「例えば、君がお願いしてきたのがヒイロ君だったら、私は断るしか無かったと思う。私個人は別に構わないが、ギルドの連中に説明する材料が無い」


 まあ、そりゃそうだろうな。

 わざわざ別のギルドの人間を連れていく義理はないからなあ。

 それだったら、自分の所の人間を一人でも多く連れていくだろう。


 あれ?だったら里奈はなんで良いんだ?


「えっと、なんでエリナはいいんです?その理屈でいくとエリナもダメな気がするんですが・・・」


「エリナ君は、こう言ってはなんだけど、自由同盟という、特に高レベル者が揃っているわけでも無いギルドで、あそこまでのレベルと装備を整えた人だ。しかも希少なINT型でもある。うちのギルドとしても得るものはあるだろう」


 なので、ギルド員を説得しやすいんだ。

 そう、黒乃さんは俺に答えてくれた。


「後は君の同盟に居た、シャイニングマスターだったら、皆もろ手を挙げて賛成してくれるだろうな」


「あははは・・・」


 その名前が出た途端、俺は冷や汗が出たぜ。

 実は、以前利香と実明さんとうちのギルドでローザ要塞を攻めた時、うちの同盟にシャイニングマスター、つまり千隼さんが居たことで、黒乃さん・・・というか、中の人である「一条美琴」さん本人からラインがバンバンきたんだよ。


「なんで!?なんでシャイニングマスターが真司君のとこにいるの!?ねえなんで!?」


 こんな感じですげえ聞かれたんだが、千隼さんからは「私がシャイニングマスターってのは内緒にしててね♪」って、可愛く念を押されていたので話せなかったんだよね。

 なので、申し訳ありませんが・・・ってお断りしてたのよ。

 そりゃあ、美琴さん文面からでもがっかりしてたのが伝わるくらい落ち込んでたんだよねえ。

 そりゃあ、黒乃さんからすればシャイニングマスターは憧れの人なわけだからなあ。


 なのでこの名前が出た時、俺はまた聞かれまくるんじゃないかと内心ひやひやしてたんだが、それ以上その件について触れられることは無かった。

 そして次の日、ブラックアウトから一緒に行きましょうというお誘いが来たわけだ。


 なので、俺は早速里奈の奴にそれを伝えたわけ。そしたら・・・。


「は?へ?ブラックアウト?へ???」


 里奈の奴、頭の上にクエスチョンマークが見えるんじゃないかってくらい、混乱してたな。


「ちょ、ちょっと!なんでブラックアウトなのよ!わけわかんないんですけど!」


 だよなあ。

 ちょっと前の俺だって、ブラックアウトなんか考えもしなかったからな。


「あーそれがさあ、ダメ元で聞いてみたら、OKくれたんだよ」


「ダメ元って・・・。あんた勇気あるわね・・・」


「やっぱそうだよな・・・」


「というか、ブラックアウトがよくOK出したわね・・・。そっちのほうが理解が追い付かないわ・・・」


 これについては、黒乃さんが言っていたことを、ほぼそのまま里奈に伝えた。

 INT型な事とか、独力で装備やレベル上げをしていた事なんかだな。


「ブラックアウトの人に言われると、なんか逆にプレッシャーになるんだけど・・・」


「プレッシャー?」


「そりゃそうよ!あんな大手がOK出したって事は、私と行く事で何か得るものが有るって判断したからでしょ?」


「ああ、確かにそんな事を黒乃さんも言ってたな」


「でしょ?だからプレッシャーだ!って言ってるの!」


 まあでも、ブラックアウトにはINT型はいないみたいだし、普段自分がどういう感じで狩りしてるかとか、どういう基準で装備を考えているかとか、それを聞きたいんじゃないかなあ。と、思うんだけどね。


「まあでも、せっかく神秘の塔にいけるわけだし、このチャンスを逃す手も無いんじゃない?」


「そ、そうなのよね・・・。超大手のギルドのスキルを間近で見れるチャンスでもあるし・・・」


 里奈の奴、腕を組んでぶつぶつ言いながら考え込んでいるな。

 一押しすれば決まりそうな気がする。


「なあ、一度行ってみて、それから今後の事は考えたら?」


「そうね!一度体験してみないとなにもわからないわよね!」


 そしてその日のうちに黒乃さんに連絡し、ブラックアウトのギルドハントへの里奈の参加が決定した。

 里奈としても、ブラックアウトの狩りスキルがどんなものか凄く興味はあったんだろうなあ。

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