第17話 誤算

「里奈、今ちょっといいか?」


 俺は利香と話をした後、姉貴が帰って来たのを確認してあいつの部屋をノックした。


「いいわよ。というか何よ、あらたまって」


 里奈の奴、俺の事を何か気持ち悪い物を見るかのような目で見てやがる。

 ノックもせずに部屋に入ると、マジギレするくせに・・・。


「ああ実はさ、今後の俺達のブラックアース内での活動について、ちょっと相談があってさ」


「活動についての相談?」


「うん。今後どこの狩場を主戦場としていくかとか、装備をどうするかとかそんな所」


 ホント言うと、姉貴に「神秘の塔」や「罪人たちの流刑場」のような高レベル帯の狩場へ行ってもらうよう説得するのが目的なんだけどな。

 でも、ストレートに「行け」と言っていくような奴じゃあない。

 なので、ギルドの「活性化」とか「スキル向上」に絡めて話すことにしたわけ。


「そんなもの、ゲーム内でみんなで話せばいいじゃない」


「そうなんだけど、ある程度俺達で方向性を考えとけば、話し合いもスムーズにいくだろ?」


「そう?」


 里奈の奴半信半疑ではあるが、ギルドの活性化みたいなものには積極的な面があるので、この提案事態を拒否ることはなさそうだ。


「で、こんな話を持ってくるからには、何か提案でもあるのよね?」


 ふっ、こいつがそう言ってくるのは織り込み済みだぜ。


「一応考えている事はあるよ」


「ふーん。まあ、一応聞いてあげるわ」


 里奈の奴、椅子に腕と足を組んだ状態で座って、ふんぞり返った態度で俺の話を聞こうとしてやがる。

 なんでこいつはこんなに上から目線なんだ・・・。

 いやまあいい。今はそんな事を気にしてる場合じゃない。


「まあ、俺達も以前に比べてスキルもレベルも上がってきてるだろ?」


「あんた全然じゃない」


「うるせーよ!ほっとけ!」


「話し合いをするなら正確なデータが必要に決まってるじゃない!今のあんたの発言は正確じゃないわ!」


「あーわかったよ!ギルド全般の話!これならいいだろ?」


「まあ仕方ないわね」


 かあああああああっ!くっそ腹が立つぜ!

 でもここで喧嘩して、話し合いを中断するわけにはいかんので、何事も無かったかのように俺は話を進めた。


「今俺達が主戦場にしてるのって、深淵の森とかクリスタルの塔とかじゃん?」


「まあ、今のあんた達ならそこら辺が妥当でしょ」


「まあな。でもさ、ずっとそこで狩りするわけじゃないだろ?」


「レベルが上がったり装備が整ったりしたら、狩場のランクもアップする事はあるでしょうね」


「そこなんだよ問題は」


「どういう事よ?」


「今現在、レベルや装備は整っているのに、俺達に合わせて数段ランクが下がる狩場で狩りをしている姉貴達がいるって事だよ」


「別に私がどこで狩りをしようと私の勝手でしょ!」


「まあまて。別に批判してるんじゃねーよ!」


「む?」


 握りこぶしを作って、ブンブン腕を振り回す姉貴に叩かれながら、俺は言葉を続けた。人をグーで叩こうとするんじゃねーよ。


「今、自由同盟のブログって、凄いお客さん多いじゃん。団長とアッキーさんのせいで」


「う・・・」


 自分のブログにも訪問者が増えてしまった事を思い出したのか、グーを作ったまま若干表情が硬くなる里奈。


「それが何よ」


「だとすると、今後自由同盟への参加希望の人も出てくると思うんだよね」


「それはあるでしょうね」


「その時にさ、高レベルのINT型ヒーラーが、深淵やクリスタルで狩りをしている事実を、どう新人さんに伝えれば良いのか俺にはわからん」


「うっ・・・」


 少しだけだが、里奈の表情が曇る。

 一応ちょっとは気にはしてたのか。


「せっかくINTヒーラーと一緒に高レベル帯の狩場へ行けると思ったら、実は深淵の森でしたーなんて、新しく入ってきた人たちがっかりしちゃうんじゃない?」


「でも仕方ないじゃない!あんた達だけじゃ危なっかしいし!」


 里奈の奴、俺の事をびしっ!と指さしながらそう断言しやがった。

 そこまで酷くないと思うが、まあ、こいつからしたらそう見えるのかもしれん。

 なので、そこは否定せずに、話しを続けることを優先する事にしよう。


「それはまあ、否定はしないけどな。けど、それはちょっと過保護すぎないか?」


「む?」


「考えてみろよ?ずーっとお前の元でプレイしてても、成長は見込めないんじゃないか?」


「どういう事よ?」


「誰か強い奴に守ってもらうだけじゃなく、自分達で出来ることも増やさなきゃいけないんじゃないかって事だよ」


「・・あ」


「大抵、それなりの狩場に行くときはお前がついてるからさ、たぶん、無自覚に頼ってる部分があると思うんだよな」


 そうなんだよなあ。

 こいつがいると、認めたくないが俺も含めて、みんな安心しきってる部分はあると思う。

 でも、それじゃあダメだと思うんだよな。

 やっぱ、ゲームが上手くなるためには、自分達で何とかする事も考えるべきだと思うんだよ。


 そしてそれは里奈にも同じことが言える。

 今行ってる狩場は、こいつからしたら「超イージーモード」の狩場なんだ。

 もう一つ上のレベルに行くには、やはり里奈にとってもハードな狩場が必要だと思う。


「どうかな?」


「あんたの言いたい事はわかった」


 しばらくウデと足を組んだえらそうな姿勢で考えた後、里奈は俺にそう返事をした。


「けど」


「けど?」


 なんだ?何か問題があるか?


「けど、それは無理ね」


「なんでだよ!」


 今の話の流れから無理って単語は出てこないだろ!

 思わず突っ込んじまったよ・・・。


「だって高レベル帯の狩場に行くにも、一緒に行ける人がいないじゃない!」


「ああ・・・」


 まあ確かに。

 今の自由同盟には、神秘の塔なんかにほいほいっといけるような人材はいないように見える。

 が、実は一人だけいるんだよ。

 どう考えてもうちのギルドにいるのが不思議で仕方ないくらいの逸材がな!


「里奈、その件は俺に任せとけ!」


「はあ?」


 思い切り胸を張って言い切る俺を、里奈は変な物でも見るかのような目つきで見ていた。

 ふっ、まあ見てるがいいさ。



「ごめん!無理!」


 あっれええええええ!?


 俺は今、自由同盟のギルドメンバーであり、俺が最も頼りにしている千隼さんこと、桐菜さんとスカイポをしていた所だ。

 そして、俺からの依頼を断られた所でもある・・・。


 俺は、里奈の相方として桐菜さんを考えていた。

 桐菜さんの今のメインは「千隼」だが、レベル100目前の「シャイニングマスター」の中の人でもある。

 当然、神秘の塔などの高レベル帯の狩場にも詳しく、桐菜さんも里奈と一緒ならOKしてくれるだろうと俺は踏んでいた。

 俺の予想では、


「え?里奈ちゃんと神秘の塔?いいよ~おっけーおっけー!お姉さんが手取り足取り案内してあげるからね♪」


 って感じになる予定だったんだが・・・。

 なんでダメなんだろ?


「えーっと、理由を聞かせて頂いても?」


「あのね?・・・」


 俺の問いかけに対し、桐菜さんはその理由を話してくれた。


 シャイニングマスターでログインすると、いちいちチャットなどでシャイニングマスターのログイン報告をしてくる奴がいたり、勧誘のチャットやメールを送ってきたり、狩りの邪魔をする嫌がらせを受けたりと、かなり面倒らしい。

 神秘の塔で邪魔してくる人は居ないかもだけど、迷惑かけることになるかもしれないし、それは避けたいとの事だった。


 まじかよ・・・。桐菜さんも大変だな。

 そういえば、以前「シャイニングマスター」でゲームした時も、結構な騒ぎになってたもんなあ。

 あれを考えると無理は言えないな・・・。


「ホントごめんねえ」


「いえいえ、こちらこそ急に無理をお願いしてすみませんでした」


 しかし桐菜さんがダメとなると・・・。

 どうしよう!?他の案を全然考えて無かった!

 だって桐菜さんに断られるとは思わなかったんだよ!


 と、とりあえず、自由同盟以外の人に相談してみるか・・・。

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