第6話 まじ勘弁してくれよ

団長「やあセンジンさん久しぶり!」


センジン「どうもご無沙汰ぶさたしています」


 完全に固まってしまった俺達をよそに、団長とセンジンさんがごくあたりまえの挨拶を交わしていた。


ダーク「こんにちはー」


 それを見た俺も慌ててセンジンさんに挨拶をした。

 やべえ、一瞬マジで思考停止してたわ。


 そして俺の挨拶をきっかけに、皆も続々と挨拶を始める。

 直接の現場を見た皆の立場を考えると、俺以上に動揺してたんじゃないかなあと思う。


 あ!そういえば里奈の奴が全く喋ってねえ!

 俺は急いで隣の里奈の部屋へと走っていった。


「おい里奈!」


 部屋に飛び込むと、椅子に座って、モニターをのぞき込む姿勢で完全に固まってしまっている姉貴がいた。


「おい、里奈!大丈夫か!」


 俺がそう声を掛けると、はっとした表情でこっちを振り向いた。

 自分の部屋に弟が入って来たのにも気付かないくらい思考が停止していたっぽい。


「あ、挨拶しなきゃ!」


 そう言いながら、キーボードに向かって挨拶を打ち込んでいる。

 そして大きなため息をついた。


「なんでこんなタイミングでログインしてくるのよ・・・」


 里奈の言うタイミングってのは、こいつが「ブラックアースを再開し始めたタイミング」って事だろう。

 まあ、気持ちはわからんでもないな。


 そもそもセンジンさんて、1か月、へたしたら数か月はログインしない事とかあるんだよ。

 でも今回は、前回のログインから数週間くらいだと思う。

 あんな事があったら、里奈のようにログインしにくくなるのが普通だと思うんだが、センジンさんの場合、今回は普段よりもログイン間隔が完全に短い。


 なんかもう、二人が仲悪いの通り越して、逆に相性いいんじゃね?とかおもってしまうわ。


「とりあえずしばらくは喋らなくていいから、普通にゲームしてろよ。それと、あんまり難易度の高い所は行くなよ?」


「そんな心配しなくてもお金稼ぎでもしとくわよ」


「そっか」


 そして俺はとりあえず自分の部屋のPCまで戻って来た。自キャラをいつまでもほったらかしにも出来ないからね。

 とか思ってたら、燈色ひいろからスカイポの着信履歴が残っていた。たぶん姉貴の事だろう。

 そう思って、俺は燈色にスカイポをかけなおした。


「あ、先輩、里奈さんは大丈夫?」


「ああ、とりあえず落ち着いてる。わざわざありがとな」


「良かった。それにしてもタイミング悪いと言うか何というか・・・」


「だよな」


「センジンさん、あまり喋ったことはないんだけど、あんな事があった後に、平気でログインできるようなタイプの人には見えなかったんですけどね」


「やっぱお前もそう思うか?」


「うん。周りの空気を読んだりすることには敏感なイメージ」


 そうなんだよなあ。

 普段のセンジンさんからすると、このまま引退しちゃうんじゃないかくらい思ってたんだよ。

 オフ会の時だって、その場の状況に耐えられず、先に帰宅したって聞いたしなあ。

 そんな人が、何も考えずにログインしたりするもんだろうか?


団長「えええええええええええええええええええええええええ!」


 燈色と話しながらそんな事を考えている時だった。

 突然団長の驚いた風の会話がギルドチャットに流れる。


ダーク「団長どうしたの!?」


団長「ごめん誤爆した><」


ダーク「えええ・・・」


アッキー「ちょっと勘弁してよ。ダーク君じゃあるまいし」


ダーク「なんで俺!?」


アッキー「なんとなく」


ダーク「なんじゃそりゃ!」


 いやもうマジでこんな時に誤爆とかやめてくれよ。

 心臓に悪いぜ・・・。


「ねえ、もしかしたら団長、センジンさんと話してたんじゃ」


「え?なんで!?」


 燈色が突然そんな事を言い出した。


「だって、センジンさん、理由もなくこんな時にログインしたりはしないと思う。なんか団長に話があったんじゃ」


「団長に話ってなんだよ」


「このタイミングで団長に話っていったら、脱退したいとか、その手の話しか思い浮かばない」


「・・・」


 言われてみれば、めちゃくちゃ常識人なイメージのセンジンさんが、あんな事件があったにも関わらずログインしてきたって事は、「ログインせざるを得ない何かがあるから」ってのは、凄く納得のいく話だった。


 え?ていうか、まじで引退とかの話してるの?

 そりゃダメでしょ!

 あーでも、今回は完全に部外者である俺がしゃしゃり出て良い話じゃない気がするし、どうすりゃいいんだ!


団長「えっとエリナちゃん、ちょっと時間取れるかな?」


 俺がPCの前で取り乱し、燈色から「お、落ち着いて先輩!」とか言われていると、団長が姉貴に話しかけていた。


「え?一体何でしょうか?」


「わからん!ちょっと姉貴の所へ行ってくる!」


「はい!」


 一旦燈色とのスカイポを中断して、俺は姉貴の部屋へとダッシュした。


「ど、どどどどどどどどどうしよう!」


「落ち着け!」


 俺が里奈の部屋へ入ると、里奈の奴、案の定パニック状態に陥っていた。

 つーか、どもりすぎだろこいつ。

 どんだけパニくってるんだよ・・・。


「落ち着けるわけないでしょ!団長から呼ばれたけど、絶対谷崎先生の事だから!」


「まあ、そうだろうな」


「私がずっと先生を避け続けてたから、直接ゲーム内で文句言うつもりなのね・・・」


「あほか!大の大人がそんな事するわけねーだろうが」


「じゃあなんで呼ばれてるのよ!」


「わからんけど、無視も出来んだろ?」


「ううっ・・・」


 俺にそう言われ、里奈は仕方なく返事を打ち込んでいた。


エリナ「わかりました。えっと、どこへ行けばいいですか?」


団長「あのね、屈強な冒険者の集い亭に来てくれる?」


エリナ「了解しました」


 里奈はそう返事をすると、でっかいため息をつきながら、集い亭へと移動を開始する。

 どんな話をするのか凄く興味はあるが、これは里奈のプライベートな話になるので、俺はとっとと自分の部屋へ戻ることにする。


「じゃあ俺は部屋に戻っ・・・ぐえっ!」


 部屋を出ていこうとしたら、いきなりえりの部分をひっぱられた。


「何するんだよ!」


「あんたどこ行くのよ!」


「いや、自分の部屋に戻ろうかと・・・」


「はあ!?自分の姉がピンチなのに、それをほおって行くわけ?」


 えええ?こいつは一体何を言ってんの?


「あのさ、お前とセンジンさん・・・谷崎先生の間の問題、プライベートな話を俺が聞くわけにもいかんだろう?」


「許す」


「は?」


「だーかーら!当事者の私が許すって言ってるの!」


 こいつ無茶苦茶だ。


「いや、お前が許しても先生は承諾しないかもだろ?」


「そんなの団長がいる時点で、私の承諾を得てないじゃない!」


「いや、それは・・・」


 確かにそうだが・・・むむむ。


「とにかくあんたも一緒に来るの!」


 結局俺も、里奈と一緒に集い亭に行く事になった。

 とは言っても、俺は里奈のPCから見てるだけで、ゲーム内で一緒に行くわけじゃない。

 ホントこいつへたれすぎだろ。


エリナ「こんにちは」


団長「やあエリナちゃんごめんね急に」


エリナ「いえ・・・」


 まあ、予想通りと言うか何というか、そこにはセンジンさんこと谷崎先生がいた。


センジン「やあ、エリナ君こんにちは」


エリナ「こんにちは」


 いやあ俺、センジンさんが姉貴の事を「君」付けで呼ぶの初めて見たわ。

 大体「エリナちゃん」だったからなあ。


団長「実はね、センジンさんからどうしてもエリナちゃんと話がしたいので、間に入ってくれないか?って言われてね」


センジン「本当は、ゲーム内というプライベートな場所でリアルな話をするのはフェアでは無いと思ったんだが、中々話せる機会が無かったものだから、申し訳ない」


「おい、お前が逃げ回ってたせいで、こんな事になってるみたいだぞ」


「う、うるさいわね!わかってるわよ!」


 ほんとかよ・・・。


エリナ「いえ、こちらこそ、ちゃんと話さなきゃとは思ってたんですが・・・」


 まああこれは本音だろう。

 わかってるなら、逃げ回らないでちゃんとはなしてれば良かったものを。


センジン「うーん、何から話せばいいのか迷う所なんだけど・・・」


 ゲーム内のセンジンさんは、何か話したいことがあって里奈を呼び出したはずなんだが、どこから話せばよいのか迷ってるようだ。

 そんな複雑な話なのか?


「なあ、なんかセンジンさん、どう切りだしていいか迷ってるっぽいけど、お前なんかやらかしたの?」


「何もしてないわよ!・・・たぶん・・・」


「おい」


「だって最近会話してないから、何もやらかしようがないじゃない」


 あ、そりゃそうか。


センジン「あの、誤解しないでほしいんだけど」


エリナ「え?」


センジン「実は、自由同盟を脱退する事にしたんだ」


 うわあ・・・。やっぱりそういう話だったのか・・・。

 燈色が言ってた通りだったな。

 

 俺はさっきから何のアクションも起こさない姉貴の方をちらっと見てみた。

 里奈は、一体何を言われたのかわからないような顔でモニターを見つめていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る