第14話 俺と姉貴がパソコンショップに行った話

「うわあ、久しぶりに来たけど、相変わらず人が多いなあ」


 俺は隣町の中央通り駅に降り立っていた。確か以前にここに来たときは、友達と一緒に中央通巡りをした時だと思う。金も無いのにPCパーツやゲームを見まくってたなあ。


 団長こと桐原さんの家もこの街にあるんだけど、2個前の駅で降りるので、ここまで来る事ってあんまりないんだよな。中央通りはこの辺りじゃ一番の繁華街なので、クラスでも服とかにうるさい奴は結構きてるっぽい。


「私は、毎日のように大学に通ってるから慣れた光景だけどね」


 隣で俺と同じように駅から出て来たのは、俺の姉である「黒部里奈」だ。そういや、こいつの通ってる大学はここにあったんだった。慣れた手つきでSuika定期券を改札口でかざしてた。


 今日、姉貴と中央通りに来たのは、姉貴のPCの下見のためだ。前も言ったかもしれないが、里奈のゲーミングノートは、3Dゲームをやるためのグラフィックボードが搭載されて無いタイプなんだ。


 けど、AMG社のパソコンは、グラフィックボード無しでもある程度の3D表示が可能なので、3D設定を低めにしてなんとか遊ぶことが出来ている。


 ところが、ちょっと前に俺のMVIDIA製グラボ搭載PCで、ブラックアースの映像を見た里奈が、自分のパソコンの映像なんかより格段に美麗だった事にショックを受けわけだ。


 それで、新たなPCを購入する事を決意して、今日はその下見に来た。それに今後のゲームのアップデートなんかで、ノートPCじゃゲームできなくなるって可能性もあるかもだしな。


 下見なら、Amazono通販で見ればいいんじゃね?って言ったんだけど、現物を見ないと気が済まないらしい。まあ気持ちはわかる。


 で、当然燈色ひいろも誘ったわけだが、「お二人のデートの邪魔をするわけにはいきません」などと、わけのわからない理由により辞退。


 それに対して里奈の奴が「べ、別にそんなんじゃないわよ!」って、すげえ顔真っ赤にして怒ってたのが一昨日の事だ。


 「それにしても、何度来てもここは興奮するな!」


 俺はPC販売大手の「ツクネショップ」にて、大量にディスプレイされたパソコンを前に大興奮状態だった。何度見てもテンション上がるわあ。


 そんな俺をよそに、里奈の奴は食い入るように陳列されたパソコンを見ていた。すっげえ可愛いタブレット型PCを。


「おい」


「な、何?」


「それは関係ないよな」


「え、でもすごく可愛いよ?」


「それでブラックアースは出来ますか?」


「で、出来ません・・・」


「とりあえず先にお目当てのPCを探そうぜ。その後ゆっくり見て回ればいいじゃん」


「え?いいの!?」


「良いも何も、せっかくPCショップ来たんだし、色々見て回ろうぜ」


「うん!」


 いやあ、里奈の奴すげえ楽しそうだ。いつもこう素直に反応してくれると可愛いんだけどなあ。


 しかしそんな里奈の楽しい時間は、すぐに冷酷な現実によってぶち壊されてしまった。


「な、なんでこんなに高いのよ・・・」


「そりゃあ、グラフィックを強化したパソコンだからなあ」


 里奈によれば、自分のノートPCが8万円程だったので、液晶画面が付いてないのと、グラフィックボードが乗ってるのをプラマイして、同じくらいで買えると思ってたらしい。


「どうしよう、ブラックアース推奨パソコンって15万くらいする・・・」


 まあ、快適に動かそうとしたらなあ。だって俺のパソコンもそれくらいしたもん。あ、貯金ほとんど使ってしまったの思い出して、軽くブルーだぜ・・・。


 里奈が出せる限界が10万くらいつってたから、妥協すれば今よりは性能の良いパソコンは買えると思う。けど、長く使う事を考えると、出来るだけ性能は妥協しない方が良いと思うんだよねえ。


「何かお困りですか?」


 俺がPCコーナーで唸っていると、店員さんがニコニコ笑顔で声を掛けて来てくれた。TSUKUNEとプリントされた黒いエプロンが似合う、可愛いお姉さんだった。


 案の定、突然現れた店員に対して挙動不審になる里奈に代わり、俺が対応しようとしたところで、俺は名案を閃いた。


「あの、ちょっと相談があるんですが・・・」


 そうだよ!手持ちの軍資金とノートPCの性能をお姉さんに伝えて、これで購入できる最善手のパソコンを考えてもらえば良くねえ?こういう買い物に慣れてないから失念していたが、スタッフに聞くのが一番いいだろう。


 俺は早速こちらの資金と今持ってるノートPCの性能を伝え、ブラックアースで遊びたいと言う事を伝えてみた。


「ブラックアース!なるほど・・・。少々お待ち頂けますか?」


 お姉さんはそう言うと、スタッフルームにダッシュして、一台のノートPCを抱えて戻って来た。そして、がばっと液晶を開くと、あーでもないこーでもないとぶつぶつ言いながら、物凄い勢いで何かを打ち込み始める。


「ちょっと真司、この人大丈夫なの?」


 すっげえ小声で里奈が俺に聞いてくる。


「い、いや、大丈夫だろ?」


 そう言いながら、俺も若干の不安は感じていた。何て言うか、目がすげえ怖いことになってるんだが・・・。


「これでどうです!?」


 何やら打ち込み終わったお姉さんが、どや顔で俺たちにPCの画面を見せてくる。そこにはスタッフ専用のソフトか何かに、お姉さんが考えたカスタマイズされたパソコン構成が表示されていた。


 ちなみに俺たちが考えていた構成はこうだ。


CPU(パソコンの頭脳)→そこそこ

メモリ(記憶領域)→そこそこ

GPU(グラフィック)→そこそこ

電源→そこそこ


 まあ、将来性はいまいちだけど、いますぐノートPC以上のグラフィックでブラックアースを遊べる構成だ。


 で、お姉さんが見せて来たのはこうだ。


CPU→かなり良い

メモリ→そこそこ

GPU→今よりは良い程度

電源→かなり良い


 つまり、CPUと電源にコストを掛けて、肝心のグラフィックボードはそこそこというカスタマイズ内容となっている。


 う、うーん、確かにCPU性能は良いし、電源も申し分ないけど、子のグラフィックボードじゃ正直、COU性能をもてあまs・・・・。


「あーーーーー!」


「ちょ、何よ急に!」


「そっか、そういう事か!」


「お分かりいただけました?」


 そう言ってにっこり微笑む店員さん。


「どういう事?」


 まったく状況がわかってない里奈に、俺は丁寧に説明する事にする。


「パソコンのグラフィックボードってさ、悪いCPUには悪いグラフィックボードしか取り付けできないんだよ」


「うん?」


「でもね?良いCPUには良いグラフィックボードも悪い物も取り付けられるわけ」


「それがどうしたのよ」


「つまり、とりあえず良いCPUに低性能なグラフィックボードを取りつけといて、お金がたまったら、性能の良いグラフィックボードに替えれば良いんだよ」


「そういう事になります」


 最初は大丈夫かこの人とか思ってたけど、さすが店員さん!頼りになるわあ。


「あの、でも、性能の良いグラフィックボードって高いんじゃ・・・」


 「そうですね。今ご利用の環境と比較して、明らかなグラフィックの向上を目指しておられるなら、2万円台のグラフィックボードがおすすめです」


「え!2万円台であるんですか!?」


「はい。もし、ブラックアースの最高設定でヌルヌルサクサクで遊びたいのなら、4~5万円台のグラフィックボードをおすすめします」


「うっ、そっちはきついかも・・・」


「ならば、とりあえずは2万円台のグラフィックボードを設置して、その後グレードの高い物に交換されては如何でしょう?そうすれば、負担も少なく済みますし、当店もお買い物して頂けるのでお互い幸せになれるかと」


 ちょ!思わず吹きそうになったじゃないかw


 いやあ、里奈の顔がパーッと明るくなるのがすぐにわかったわ。やっぱ店員さんに聞いて正解だった。俺もグラボを交換できるのわかってたはずなのに、咄嗟に思い浮かばなかったもん。


「ブラックアースは、半年前にPC性能アップを要求するアップデートがあったばかりですから、しばらくは今日ご説明した構成でも大丈夫だと思いますよ」


「店員さん、ブラックアース詳しいの!?」


 里奈が食いついた。俺もさっきから気にはなってたんだ。だってブラックアースの最高設定うんたらとか、すぐには普通出て来ないからな。


「はい。実は、カシオペアサーバーで遊ばせてもらってるんですよ」


「ええ!ホントに?私たちもカシオペアサーバーなの!」


「ホントですか!?凄い偶然ですね!」


 まじかよ・・・。いやまあ、国内最大級のプレイ人口を誇るブラックアースだから、こういう事もあるのか・・・。ましてや、PCショップの店員さんだしな。


「でも、恋人同士でブラックアースをされてるなんてうらやましいです」


 お約束の展開が来ちゃったぜ・・・。昔から里奈と一緒に行動するといつもこれだ。まあ、俺達顔があんまり似てないからなあ。まあでも、早々に訂正しといた方がいいだろう。里奈の奴も顔真っ赤にして固まってるしな。


「いや、実は僕ら姉弟なんですよ。こっちが姉で俺が弟です」


「ええ!?ごめんなさい、あまりにお似合いだったので、てっきり恋人かと・・・」


「いえいえ、慣れてますから」


「でも、ご姉弟でゲームとかいいですね!私一人っ子なんでうらやましいです」


 いやいや、姉弟でプレーしててて良いことなんて、数えるほどもありませんよ?声を大にしてそう言いたかったが、言うと里奈が怒りそうなのでそこは我慢してやった。


「あ、じゃあ、ゲーム内で見かけたら声をかけてよ!私は「エリナ」ってキャラで、こっちが「ダークマスター」って名前だから!」


 おいこら!いきなり名前バレさせるんじゃねえ!こんな公共の場でダークマスターとか大きな声で言いやがって、はずかしい・・・あれ?


「・・・・・・・・」


 そんな事を考えながら店員さんを見ると、なんかフリーズしてるんですけど。


「あの、店員さん・・・?」


「・・・・・・・・え?」


 いや、どっちかって言うと俺たちの方が「え?」って感じなんだけど、なんでこの人フリーズしてんの?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る