第六章 Who Will Build A Utopia? 日ノ本のゆくえ
第六章 1 熊元城潜入作戦
おいらは遅くまで寝ていられた。
リョウマが帰ってきたのは明け方近くで、気をつかったサナコさんがおいらとワガハイもいっしょに放っておいてくれたからだ。
表通りからは移動する兵の声や大砲を引く音がひっきりなしに聞こえてくるが、奥まった部屋ではさほどうるさくはなかった。
ふすまが音もなく開き、身についた忍び足の人物が入ってくる。
おいらが眼を覚ましたことに気づいて、こっちの枕元に来た。
「龍馬さんはだいぶお疲れのようだな」
つぶやくような小声でいったのはヒジカタだった。
例のニンジャ装束だ。
「サイゴウのとこへ……」
ヒジカタは万事承知しているらしく、おいらがいいかけただけでうなずいた。
リョウマがくったくのない寝顔をしているのを見て、ニヤリと笑う。
「では、なんとかうまくいったのだな。……おれのほうは二八見つけた。あんたが聞いた三三個まで、あと五つだ。城も緊張が高まっていて警戒が厳しいが、今夜じゅうにはケリをつけるつもりだといっといてくれ」
ヒジカタはリョウマに頼まれ、
「サナコさんには会っていかんのか?」
おいらがそっと身体を起こしていうと、出ていきかけていたヒジカタが足を止めた。
「ああ。なんだかんだ聞かれては、いちいち答えるのが面倒だ。別れ際がまた長くなるのもたまらん。今日は来なかったことにしといてくれ」
「そういわんで会っていけよ……」
リョウマがゴロリと寝返りをうっていった。
「チェッ。起こしてしまいましたね」
「うむ……」
とうなるようにいって、リョウマは起き上がった。
「残りの爆薬は、人の出入りがあったり、奥まっとったりして油断のならない場所にあるじゃろう。何が起こらんともかぎらん。後悔せんようにしとくことじゃ」
「そうですね。では、ちょっと顔を見ていきましょう」
気軽な風をよそおっていったが、ヒジカタはいつまでたっても照れ臭そうだ。
「こんどはわしも城に行くぞ」
「エッ。リョウマもか?」
「いや、ぶきっちょでガサツなわしには爆弾探しは無理じゃ。わしは、司令官の
リョウマが会議でいっていた〝大逆転する画期的な計画〟のことだ。
西豪のところへいっしょに行けなかったおいらには、どういうことかわからない。
「いったいどんな計画なんじゃ?」
「いや。実は、確実なことはひとつも決まっちょらんのじゃ。考えついたわし自身も、あんまり夢みたいな計画なんで、そもそも計画といえるかどうかも怪しい」
「まあ、いつものことじゃな」
おいらはあきれて、ため息混じりにいった。
「おまえにそういわれると妙に安心するのは、どういうわけかのう。とにかく、西豪さんにはわしの思っちょるところを全部ぶちまけて、『こうやってくれ、こうなったらこうしてほしい』と、一方的に要望をしゃべりたててきただけじゃ。西豪さんは何もいわんし、連れてってくれた
「つまり、熊元城におれといっしょに忍びこもうというのですね?」
「まずは谿一人に話してからじゃと思ったからな。しかし、
「城からは当然撃ってきますよ。薩磨だって撃ち返すでしょうし、だいいち城門を開いてくれはせんでしょう」
「じゃな。では、テンペストで舞い降りたらどうじゃろう?」
おいらは首を横に振った。
「ハチの巣にされるのがオチじゃ。着陸のときの猛烈な噴煙を浴びたら、だれだって攻撃だと思って、びっくりして撃ちまくってくるにきまってるぞ」
「そうか。ダメかのう……」
そのとき、ガラリとふすまが開き、いきなりサナコさんが入ってきた。
「なんですか! 隠れて何かこそこそと相談してると思えば、お城に忍びこむだなんて。歳さん、わたしに黙って、毎晩そんな危険な任務に出てたんですのね!」
「あ、いや……」
サナコさんの勢いに、ヒジカタはたじたじとなった。
「なんじゃ。いうちょらんかったのか?」
「はあ、まあ。心配するかと……」
「殿方は、どうしてみんなそうなんでしょ。心配させると思うなら、いっしょに連れて行けばいいじゃありませんか。サナコはそのために来たのですからね!」
いかにもサナコさんらしい意見だが、いくらなんでもスパイのまねはさせられないだろう。
ヒジカタは肩をすくめ、サナコさんはふくれっ面になった。
「なあ、だったらさあ、こういうアイデアはどうだい?」
布団にくるまったまま、首だけ出してそういったのは、眠っているとばかり思っていたワガハイだった――。
「大変だ。
おいらはテンペストから飛び降りると、作業場にいるリョウマのところへ急いで報告に行った。
「ほう、それはよかった。では、イグランドやフランセやラメリカが、独立国として承認してくれたんじゃな」
リョウマはさほど驚きもせず、安心したようにうなずいただけだった。
おいらたちは、ワガハイのアイデアをギエモンさんに相談するために、テンペストで
熊元の近くでは政府軍の眼があるし、城下を通る線は遮断されて役に立たなかったからだ。
リョウマの反応においらは拍子抜けしたが、いっしょに行ったワガハイも平然としたものだった。
「だからわが輩が前にいったろ。
「そうだったっけ……」
おいらは、てっきりカイシュウ先生はミサトさんを連れもどすためで、リョウマはショウザン先生の武器をもらい受けに行くためだとばかり思いこんでいたのだ。
オグリが
「すべて予定どおりうまくいったってさ。屯田兵は
ワガハイはまるで見てきたようにスラスラと説明し、リョウマはいちいち納得顔でうなずいた。
それが本当なら、アインの人々やミサトさんたちの悩みは解決するし、ヒジカタもきっと喜ぶことだろう。
「『北斗国』は、今の日ノ本の騒乱には不介入の意志も表明したはずじゃな。騒乱が民主的に解決したのちには、日ノ本と対等合併する用意もある、と」
リョウマは、カイシュウ先生たちとその準備をしてもどってきたらしい。
「じゃあ、オオクボはさぞあわてふためいてることじゃろうな」
とおいらがいうと、意外にもリョウマは首をかしげた。
「列強が『北斗国』を承認したのは、オルシアに対する牽制になるからじゃ。オオクボとすれば、薩磨との戦いに専念できることになって、かえって喜んどるかもしれん。そんなことより、わしらが今すべきは熊元城に乗り込むことじゃ」
すると、リョウマの代わりにテンペストに乗っていったダイキチがいった。
「
電信でやり取りしながら描いた図面を広げて見せた。
「ようし。これをなんとか明日までに完成させよう。政府軍との市街戦が始まるのはあさってじゃ。がんばらんと!」
リョウマはそう叫んで後ろをふり返った。
広い作業場いっぱいに何十人という女の人たちが散らばり、忙しく立ち働いている。
近郷に避難していた人たちに呼びかけ、手伝いに来てもらったのだ。
そのおかげで、おいらの眼の前にはとてつもないものが出来上がりつつあった――。
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