決別1
「……たまにしか使わないくせに、やたら頑丈だな」
シオンは傷だらけになった鉄格子に背中を預け、度重なる衝撃に血が滲んで痺れた手のひらを揉みほぐし、息を整えながら、思わず愚痴をこぼした。
(あの剣ならこんな鉄格子くらい簡単に切れるんだろうな――)
今年の騎士競技会の決勝で対戦した時にシオンの肩当てを果物でも切るようにさっくりと切り落としてくれた国宝の剣・ドラゴンキラーに想いを馳せ、刃こぼれした愛剣を撫でて力なく溜息をつく。
どれだけ世界を恨んで泣き喚いても、ないものをねだっても仕方のないことだが、ほかになにもできることがないのだった。
(サラは――どうなった……?)
そう思うと焦燥ともどかしさに目眩がして、しばし目を瞑った。
「……ゃん! 坊ちゃん、大変です!!」
慌てて駆け下りてくる足音と声に、シオンははっと目を開けて身構えた。
「はやく…ひ、避難を! 竜が、街を……!!」
恐慌状態でまともな伝令ではなかったが、それでもおおよその状況は掴めたし、震える手で鍵を開けてくれただけでも天の助けだ。
「ありがとう。お前は早く避難しろよ」
「坊ちゃん!」
早口に礼を言うと、引き留めようとする伝令を押しのけて駆け出した。
あの丘まで、全力疾走すれば5分程度のはずだった。
その5分の道のりが、無限回廊のように長かった。
どれだけ必死に足を動かしても、もっと、もっと早くと気持ちだけが焦ってもどかしい。
(竜が――サラを助けに? それとも、人間を粛清するために?)
走りながら、そんな考えが断片的に脳裏に閃いた。
けれどサラの安否を思う不安の波に呑まれて消えていった。
しばらく走り中央廊下に出ると、城に避難してくる人々の波にぶつかった。
「道を開けてくれ!」
迂回する時間が惜しく、その波をかき分けて流れに逆らいながらシオンは叫ぶ。けれど恐慌状態で逃げまどう人々の耳にその叫びはなかなか届かなかった。
避難の指示や誘導をしているのはアゼルとセオスの兄二人。アゼル兄は一瞬シオンをギロリと睨んだが、その顔を見ると軽く目を伏せ――
「……皆、シオンに道を開けてやってくれ」
そして、なにも言わずにシオンのために道を開けるように指示を出した。静かな、けれどよく通る命令にはっとした人々がシオンの存在を認め、一様に哀れむような顔を向けてから俯けた。
「ありがとう」
その反応にサラの状況がどうなっているのかを想像しそうになるが、想像すると気が狂いそうで思考から閉め出す。小さく礼を言うと、再び駆け出す。
ただただ駆けることだけに意識を集中していようと思うのに、溢れる不安はとめようがない。
(……サラ……サラ、どうか――生きていてくれ!!)
不安を打ち消すためにそれだけを強く願いながら無我夢中で走り抜けた。
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