第72話
「拓真?」
「正解。お前ん家の前にいるんだけど。」
「ストーカー。」
眠気は吹っ飛びながらも不機嫌な自覚はある。窓を開けると、確かに拓真が見える。
「亜哉君から連絡が来たんだよ。」
「亜哉…。」
「とりあえずお前が出てくるか、俺が入るか二択だ。」
「そこで待ってろ。」
もともと着替えてはいたから、そう時間はかからない。拓真の電話をガチャギリして、一応鏡だけは見て外に出る。
「なに?」
「早かったな。」
「着替えてはいたからね。面倒だからさぼろうかと思ってたけど。」
昨日のことをけろりと忘れたような拓真に怒りがわく。でも、この目は忘れてないのもわかる。
「亜哉君から、”あの姉ちゃんは絶対に動かない”って連絡が来たんでね、俺が迎えに来た次第だよ…でも、つぐ。もしかしてお前本当に調子悪い?」
拓真が熱をわかるように額に手を当ててくる。私はその手をパンと払う。
「大丈夫よ、頭は尋常じゃないくらい痛むけれど。」
「嫌味を放つ余裕はあるんだな。…お望み通り休むか?看病くらいならできるぞ。」
「ハイスペックで素晴らしいこった。…お断りよ。」
体調不良は自覚したら負け、気づかなければこっちの勝ちだ。
「言っとくけど拓真。今の私の機嫌は最高に悪いわよ。」
「見ればわかる。それにつぐがご機嫌な時なんてほとんどないだろう。」
拓真は笑う。こういう時に下に二人いる拓真のほうが兄貴ぶるのが腹立たしい。私だって姉なのに。
「ほら、行こう、つぐ。」
差し出された手をいくら寝ぼけていても腹立たしくて、無視する。ちょっとだけ胸の奥がもったいないと訴えるけれど。
「危なっかしいんだよ。」
そう言って律儀に車道側を歩き出す拓真。
基本は自分のことを大切にしているやつなのに、こういうことがさらりとできてしまうのが厭味ったらしい。
「ほら、つぐ。しっかりして。」
「…。」
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