第45話

「タキ。」

「…つぐな先輩。」

拓真に言ってしまった以上、後輩に義理は通しに行かなくてはならない。相当いやいやながらも、私たちにとっては放課後、一学年下の彼女たちにとっては昼休みに二年を訪問する。

「タキ、有純、由紀奈。3人ともいるわね。…少しお昼の邪魔していいかしら?」

ちょうどな一緒にご飯を食べていた。私の記憶では3人とも違うクラスなのに、仲の良いことで。私たちの学年は一緒だったことは数えるほどしかない。それともこいつらほかに友達がいないのか。我が強いやつらだからその心配も多少あるが、今回に限っては都合がいいから見なかったことにする。

こいつらがいるのが、教室でなく、テラスであることも私に味方している。

「もちろんです。よろしければ。」

有純が場所を開けてくれるのが、ありがたく横に座る。彼女たちに無駄にプレッシャーをかける気はないし、私も正直さっさと帰りたいというのが本音なので、さっさと話を片付けることにする。

「拓真から色紙受け取りました。ありがとう。嬉しかった。…あなたたちも困ったでしょう?私の扱い?」

少しだけお茶らけた私に困り顔を向ける後輩たち。そんな露骨に困らなくても。そもそも私はもともとこいつらにどう思われていたのか初めて気になった。

「いえ、つぐな先輩も、大切な先輩ですから。」

一番冷静な由紀奈が私に言葉を返す。結論は知らないが、おそらく次の世代の副キャプテンを務める娘だ。首領はこいつだ。

「拓真に渡すとはあんたらほんといい度胸してる。おかげで私ももう一度あなたたちに会いに来た。…一応あんたたちに餞の言葉は言ったけれど、なんでか知らないが二度言うのが例年の決まりだから、私もそれに倣ってここで一席。」

黙りこくったままだったタキが、私を遮る。

「他の先輩たちと一緒に聞きたかったです。」

私はタキを軽く睨み付けて、受け流す。こいつ私に嫌味を言えるようになったか。頼もしい限りだ。こんだけ度胸の据わったやつらなら、未来に心配はなさそうだ。

「残念ながらそれはできない相談だったわね。まあ、こんな幕引きを迎えた私からの言葉だということを忘れずに聞いてくれるなら一つだけ。”後悔するな。”私みたいになるな。とは言ったけれど、私は自分の選択に後悔は一つもない。もしかしたらもっといい方法があったのかもしれないけれど、その時の私には思いつかなかったんだから、それはないも同然。だから私は後悔してない。それは胸を張って言えるわ。」

嘘。本当は後悔しているのかもしれない。でも、これくらいの虚勢を張ることくらい許してほしい。私が帰ろうと、無言で立ち上がると、3人も同時に立ち上がる。

「え?」

三人は一斉に私に頭を下げる。正直度肝を抜かれはしたが、体育会系の礼儀だ。それにそむくことを決めた私はくるりと背を向けて、片手をあげて去ることにする。

「頑張れよ。後輩たち。」

私のかけてしまった呪いは、解けないかもしれない。もしかしたら解けてるのかもしれないし、彼女たち自身の力でとくものかもしれない。

私にできることはやった。あとは彼女たちに任せよう。

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