第34話

ナツミさんは、すっと息を吸って私に告げた。

「胸を張りなさい。堂々と。好きな男に想いを告げられた。それは誇るべきことよ。あなたはかっこいいわ。」

「ナツミさん…。」

「結末がどうなるか。それはあんたとユキが選ぶ未来。けれどもあなたは告げた。それだけで前に進む術を得ることができたの。停滞は寂しいわ。私は告げられなかったのよ。…今でも後悔してる。彼には大切な人ができて、それを失って。そのざまをずっと見てたのよ。私は。」

ナツミさんが一つの方向を見ているのを察して私は思わず告げる。

「それってもしかして…。」

「…巧には内緒ね。」

ナツミさんの視線は、巧さんのほうをじっと見つめていた。二人の年のころは同じに見える。巧さんが時々敬語が落ちる唯一の人であることもあり、二人に昔から関係があったことはわかっていた。

「私の家も巧の家も結構なお家柄でね…。元婚約者なの。いろいろあって微妙な感じになっちゃってるけど。私は彼のことを誰より知ってるし、誰より近くにいるわ。それでも満たされないの。告げることは出来ないし、許されないから。早く、律花に代わる、彼を救える存在を、私の彼も待っているの。」

いろいろなことがあったのだろう。ナツミさんがここまで過去を話すことは今までに一度もなかった。

「この店は逃げ場なのよ。私と巧はもちろん澪やリクにとっても。澪は私を大切に想ってくれているけれど、私は巧のことをちゃんと吹っ切らないと。彼の幸せを見送らないと私は前に進めないの。」

ナツミさんは憂いを帯びた顔をする。

「だから、つぐな。あんたは堂々と胸を張って前を向きなさい。それでいいの。」

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