第49話 魔王戦


 この屋敷の主はかなりご立腹のようだ。

 木目が美しさを奏でる綺麗なテーブルが、突如として大きな悲鳴をあげて真っ二つになった。

 その見た目から察するに、きっと、相当に高価な品であるのだろう。丹精込めた細工や材質から、それが見て取れる。

 しかし、その品位と美しさを持ったテーブルも、今となっては唯のクズだ。

 そして、その言葉はテーブルを砕いた者にも言える。

 まあ、こいつがクズなことは、初めから知っているのだ。だが、いいさ。力を貸してやろう。

 どうにも、あのユウスケという男は、これからやろうとしていることの邪魔となりそうだからな。


「なにゆえ、それほどに荒れておるのだ?」


「おお~、其方であったか、待っておったぞ。今までどこに行っておったのだ」


 隠匿いんとくを解除して姿を露わにすると、デストーラは驚きつつも、さも待ち侘びたかのような口振りで近づいてくる。


 ふん、その態度さえも、私を利用しようとしてのことだと、気付かれていないとでも思っているのだろうか。


 デストーラの思惑おもわくを心中でさげすんでいると、奴は己の心境を吐露しはじめた。


「いやな、こたびの邪竜討伐で、魔王は討ち死にするとばかり思っておったのだが、なんと、戻ってきおった。それも邪竜を討伐したというし、ワシは信じられん」


 ああ、そのことか。確かに邪竜、いや、トロアラットは死んだ。

 それもユウスケの手でな。何とも忌々しいことだ。

 どうやら、奴はエルソルが寄こした神族みたいだ。

 やはり早めに芽を摘んでおいたほうが良さそうだな。


「確かに、邪竜は死んでおるぞ」


「ま、まことか!」


「うむ」


 魔王の言葉が真実だと知り、奴は渋い表情で黙り込んだ。


 さて、どうやって踊らせるかな。


「お主が荒れておった理由は、それか?」


「いや、てっきり死んだと思って、ワシが魔王になる腹積もりでいたら、のこのこと帰ってきた上に、ワシを見咎めたのだ。更には、謹慎と罰金を言い渡されたのだ。くそ忌々しい小娘め。おまけに誰とも知れぬ男を次の魔王とするなどと言い出しおった。きっと、あの男に誑し込まれたのであろう」


 くくくっ、本当に馬鹿な魔人だな。自分の愚かさに全く気付いておらなんだ。

 それにしても、奴が魔王か……それは、少しばかり面白くない展開だな。


「ふむ。それで新魔王を認めてきたのか?」


「だれが認めるものか! 大反対してやったわ」


 そんなに大きな声を出さずとも聞こえるというに……これだから、脳筋魔人は好かん。


「では、どうするのだ?」


「うむ、魔王決めで揉めた時は、魔王戦を行う仕来しきたりとなっておる」


 さすがというか、本当に脳筋な人種だな。


「その魔王戦とは、なんだ?」


「異を唱える者達が挑戦者を出し、魔王候補がそれを倒すのだ。全ての挑戦者を倒さなければ、魔王として認められぬ」


 ちっ、詰まらん。邪竜を倒した奴ならば、いとも簡単に終わらせるだろうな。

 それが、仮に国民全員だとしてもだ。


「それで、お主はどうするのだ?」


「当然、配下の者で最強の男を参戦させるさ。それで駄目なら……ふふふ」


 そうか……であるならば、少しばかり小細工をするとしようか。

 くくくっ、精々派手に踊ってもらいたいものだな。

 ユウスケよ。アルベルツでは見逃してやったが、今回は少し痛い目に遭ってもらおうか。









 昨夜は、家族会議で酷い目にあった。

 その内容を話すと、評価がさらに急降下しそうなので、割愛させてもらうとしよう。


 クルシュが魔王を交代すると言い出したのは、昨日のことであり、そのあと、エルザ達――四人の嫁がやって来て、ワイワイガヤガヤと作戦を立てたのだが、俺の考えからすれば、作戦なんて立てるだけ無駄だと思える。

 なにしろ、余程でない限り負けることなんてないのだ。

 ただ、倒すと魔王になってしまうので、是非とも遠慮させて頂きたい。だが、それは許さないと強く念を押されてしまった。

 もちろん、念を押してきたのはクルシュだが、彼女のみならず、ここに集まった嫁達全員も頷いていた。


 なんで、王なんかにさせたがるかな~。のんびりと暮らしたいのに……王様なんて大変なだけだろ?


 周囲でのんびりとする嫁達をぼんやりと眺めつつ、頻りに俺を王にさせようとする彼女達の想いに不満を抱いていると、そこにクルシュがやってきた。


「おはようなのじゃ。ラティ」


 彼女は向かいの席に腰をおろすと、ラティを呼んで自分の膝の上に座らせた。

 ラティの方もニコニコと言われるがままにしているところを見ると、よほど嬉しいのだろう。その満面の笑みは、見ているこっちも微笑ましくさせる。

 クルシュの方も嬉しいのか、優しげな微笑みを見せてラティの頭を撫でている。

 そんなクルシュが何のために来たのかと思いきや、彼女は膝の上に座るラティから視線をはずして、こちらに向けてきた。


「ユウスケは、もう少し威厳を持った方が良いと思うのじゃ」


 行き成りの発言に、思わず戸惑ってしまう。

 だが、俺の動揺など知らぬとばかりに、彼女は続ける。


「昨夜は黙っておったが、すっかりエルザの尻に敷かれておるではないか。戦っていた時の勇ましさは、いったいどこに行ったのじゃ?」


 うぐっ、それを言われると返す言葉がねえ……


 全く以てその通りなだけに、返事をすることなく溜息をこぼした。

 すると、少しばかり顔を顰めたエルザが、彼女に物申した。


「クルシュ。それは家庭内の問題だから、口を出してはダメよ」


「しかしのう、あれでは、あんまりじゃなかろうか」


 クルシュも負けじと首を横に振って反論した。


 クルシュの呼び名と敬称の件だが、昨夜の家族会議で彼女を嫁とすることは、据え置きされた。しかし、仲間、いや、ファミリーとして迎えることに異議は出なかった。その時に、ファミリーなら敬称なんて不要だろうというクルシュの言葉で、それぞれが名前を呼び捨てにするようになったのだ。

 もちろん、俺のことも呼び捨てにさせるようにした。


 だって、嫁から様付けや殿付けて呼ばれるのは、ちょっと気持ち悪いよな?


 そうしてクルシュもファミリーとなった訳だが、行き成り彼女とエルザが火花を散らしている。

 すると、見兼ねた麗しき脳筋……失礼、アンジェが話に割り込む。


「エルザ。少し黙ってろ」


「ですが、お姉様……」


「いや、ちょっとオレにも話をさせろ」


「……」


 珍しく、アンジェが姉としての立場を押し込んだ。


「ユウスケ。クルシュのいうことも尤もだ。少しシャキッとしろ! 戦っている時のお前はハッキリ言ってスゲーし、カッコイイと思う。だが、ちょっと自分の嫁に翻弄され過ぎだろ! もう少し威厳を持て!」


 ぐさっときたぜ……確かに、女慣れしてなかった所為で、ここ最近はヘタレ根性丸出しなんだよな……というか、脳筋のお前に言われるとショックだ……


 アンジェからも言及されたことで、どっぷりと落ち込むのだが、そこに麗華が割って入った。


「そうですわ、日本に居た時のユウスケは……柏木くんは、もっと凛々りりしかったと思いますわ。誰にも媚びずに我が道を行く。そんな男子でしたわ。わたくしはそんな姿に……」


 最後の方は尻すぼみとなったが、彼女の言いたいことは理解できる。

 あの頃の俺は、唯我独尊を突き進んでいたからな。

 何時からこんなヘタレになったのだろうか。少し自分を見直す必要があるかもしれない。


「そうだな、俺ってこんなんじゃないよな。ありがとう。アンジェ、麗華」


 自分を見つめ直すことを決意し、それを口にすると、ロココまでもが賛成してきた。


「そうニャ、ユウスケは強くて素敵だったニャ」


 そうだな。お前を虐めから助けた時も、めっちゃヒールだったよな。うむ、ちょっとヘタレ過ぎてたみたいだ。つ~か、みんなに前世のことを話してないのに、いいのか?


 昔のことを思い出しつつ、自分らしくなかったと反省していると、エルザが慌ててクレームを入れてきた。


「ちょ、ちょっと、あなた達、何を言っているのよ。折角、私が頑張って調教しているのに――」


 頬を膨らませるエルザの物言いが気に入らなかったのか、アンジェの静かな叱責を放った。


「エルザ。お前は少し調子に乗り過ぎだ。こんな調子なら婦人会も妻宣言もオレがぶち壊すぞ。だいたい、お前はあのババアのようになりたいのか?」


 あのババアとは、間違いなく彼女達の母親であるカトリーヌのことを言っているのだろう。

 確かに、あれは俺も頂けない。あんな嫁なら要らんわ。


「でも、お姉様……」


「うるさい、少し反省しろ」


 エルザは食い下がろうとするが、アンジェに一蹴された。


「……」


 一気にションボリと項垂れたエルザがブツブツと愚痴をこぼしているのだが、ここは放置するしかない。

 ただ、これはエルザ一人が悪い訳ではないのだ。

 そう、その原因は、間違いなく俺なのだ。


「アンジェ、もういい。エルザが悪い訳じゃない。俺が悪いんだ。みんなのことを大切だと思うばかりに、少し言い成りになり過ぎていたみたいだ。だから、これからは、もっと威厳を持った自分で居られるように成長してみせるさ。エルザもそれでいいな」


 フォローしつつも復活を宣言すると、誰もが黙ったまま頷く。

 エルザも渋々ながら頷いている。


 おいおい、エルザ。まるで、欲しい物を買ってもらえなかった子供みたいだぞ? つ~か、少し自分を見つめ直すだけで、みんなの印象も随分と変わるんだな。


「ただ、勘違いしないで欲しい。みんなのことを大切に思っているし、これからも仲間であり、家族だからな」


「分かったちゃ。こっちのユウスケの方がカッコええっちゃ」


「そうよ。軟弱なユウスケなんて、ユウスケじゃないわよね」


 誤解のないように補足すると、ラティが笑顔で頷く。

 それに続いて、ロココも己が心情を口にするのだが……ロココ、ニャがないぞー! 語尾、語尾! ラティ以外のみんなが凍ってるぞ?


 しゃ~ない。話を逸らしてやるか。


「それと嫁の件だが、その話を白紙に戻したりはしないが、もっときちんとした形で結婚の意思を決めたいんだが、良いだろうか。俺的には、なんか流されてここまできたから、ケジメをつけたいんだ」


 この言葉で、ロココのニャ無し発言なんて、全員の脳裏から消し飛んだだろう。

 なんて軽く見ていたのだが、俺の発言はそんなレベルではなかったようだ。ここにいるエルザ、ラティ、ロココ、麗華、マルセル、アンジェが目を丸くして凍っている。


 いや、そこまで驚かなくてもいいじゃないか……やっぱり……いやいや、駄目だ! ここで弱気になったら元の木阿弥もくあみだ。


 あまりの反響を目にして、内心でおどおどしつつも強気で堪えていると、エルザがおずおずと口を開いた。


「わ、分かったわ。でも、白紙にはしないのよね?」


「ああ」


 恐々といった様子で尋ねてきたエルザに即答してやる。

 すると、他のメンツが一気に息を吐き出した。なんとか、復帰できたようだ。


「お、お、お、オレも構わないぞ」


 声を震わせてはいるが、アンジェも納得してくれたようだ。


「うちは、構わんっちゃ」


 正気に戻ったラティも同意してくれた。


「了解ニャ。でも、捨てたら、呪いのダガーで刺すニャ」


 ロココだけでなく、語尾も復帰した。でも、もの凄い形相で睨まれた。


「わたくしはこっちのユウスケの方がいいから問題ないわ。いえ、絶対に結婚してくれと言わせてみせますわ」


 なかなか強気な麗華。


 俺としても、デレ麗華より少し気の強い彼女の方が好みだ。


「私は全てを捧げておりますので、一向に構いません」


 最後にマルセルの「私はあなたのもの」発言で、全員の同意を得ることになった。

 ただ、締め括ったのは、なぜかクルシュだった。


「どうやら、妾は本当の大魔王を起こしたようじゃな」


 こうして、完全復帰にはまだまだ時間が掛かると思うが、軟弱な自分を捨てた俺が復活することになるのだった……多分……









 朝からバタバタしたが、なんとか収束したところで、これからについて話すことにした。

 というのも、俺は現アルベルツ国の法王であり、ジパング国を託されている身だ。

 それを考慮すると、さすがに、ここで魔王として君臨する訳にもいかない。


「クルシュ、魔王の件なんだが――」


 自分の名前を呼ばれたクルシュが、何事かと少し驚きの混じる視線を向けてくる。

 それを気にしたら元に逆戻りなので、平静を装って話を進める。


「悪いが、魔王になる気はない」


「そ、それは、ダメじゃ。この魔国を導くのは、お主しかおらぬのじゃ」


 魔王となることを拒否したら、クルシュの顔色が変わった。

 何が何でも、俺に魔王をやらせたいみたいだ。

 だが、そうは問屋が卸さない。というか、願い下げだ。

 それに、俺には目的があるのだ。


「俺の目的はミストニアの討滅だ。いや、ミストニア王族の撲滅だ。始めのうちはミストニア王族、貴族、騎士を全て葬るつもりでいたが、致し方なく従っている者も居るだろう。だから、悪い芽だけを摘むことにした」


「それなら、ここに居ても、なんら問題ないと思うがのう」


 多分、王とはクルシュのような考え方をするのだろう。いつも先陣に立って戦う王なんて、普通では考えられないからな。だが、俺の考えは違う。


「いや、俺は自分の手で決着をつけるつもりだ。だから、ここに座って誰かにやらせるなんてできんし、やりたくもない」


「そうか……」


 クルシュはそのラティとよく似た眼差しを伏せて、ガックリと肩を落としている。

 それでも、ここでフォローは入れない。俺の想いをきちんと認識して欲しのだ。


「そもそも、俺はジパング国で国王になることを願われている。それに、暫定だが、アルベルツ国の現法王だ。それに加えて魔王なんて、どう考えても無理だ」


「な、なんと……」


 どうやら、クルシュは度肝を抜かれたようだ。

 まあ、それも当然だな。これまでこの大陸で二国を股にかけるような王なんて存在しなかったみたいだからな。

 ところが、彼女は瞳の輝きを取り戻すと、怪しげな視線を投げつけてきた。


「分かったのじゃ。それならば、妾が魔王代理となろう。そして、ラティとユウスケの子供が出来たら王位につけるとしよう。ああ、妾との子供でもよいぞ?」


「ちょ、ちょっとまて!」


 諦めてくれたかと思いきや、行き成り明後日の方向に展開しやがった。

 もちろん、異論を口にせざるを得ない。


「クルシュ、生まれてくる子供の未来を、親の身勝手で決めるようなことはできんよ」


「うん、うちもそう思っちゃ」


 即座に、ラティが賛成してくれた。よかった。さすがはラティだ。

 賛同してくるラティを心中で褒め称えたのだが、話には続きがあった。


「でも、沢山作るけ~、魔王になりたいって思う子供もおるかもしれんね」


 ラティはいったい何人の子供を作るつもりだろうか。てか、魔王って、そんなんでいいのか?


 予想外の言葉に動揺していると、今度は麗華が己の案を口にする。


「そんな事を気にする必要はないと思いますわ。国が分かれているから王がそれぞれに存在する必要があるのですわ。一つの国になれば、現在の国が州や県に変わるだけ。ユウスケが複数の国を一つに纏めてしまえば、ここは魔王州、アルベルツ国もアルベルツ州となるだけですわよ?」


 確かに理屈ではそうなるが、そんな容易いことではないだろう。

 それに、そんな大国の王なんて……嫌だからな。


「確かに、その通りじゃ。あとは国民感情だけじゃな」


「国民をないがしろにするつもりはないけど、国民は国さえ良くなれば文句なんて言わないわ」


 クルシュの懸念に、エルザが酷い物言いで答えた。

 確かに、この世界の生活レベルならそうなるだろう。

 国民には申し訳ないが、所詮、国民なんて現金なものだ。安定と安全がもたらされるなら、国王なんて誰でも良いだろう。

 エルザの意見に納得していると、他の面子も賛成しはじめる。


「そうですね。ユウスケ様の国を作りたいです。きっと、国民が幸せに暮らせる国となるのでしょう」


 臣下クリスが、夢見るような表情で語る。

 ああ、クリスだけは、何度言っても、私は臣下ですからと言って様付けを止めてくれない。


「うちも賛成なんちゃ。みんなで楽しい国にしたいっちゃ」


「そうニャ。親や子供が理不尽な死を迎える国なんて、ぶち壊して新しい国を作り直すのニャ」


 ラティとロココも賛成してくれるが、きっと、こいつらの作り直すは、国を興すではなくて、俺に世界征服しろということなんだろうな……


「私もユウスケなら成せると思います」


 いつもブレないマルセルが、心酔したかのようにウットリとした表情になっている。


「よっしゃ、それで決まりだな! だったら、オレ達はその手助けをするべきだ。まずは魔王戦で不敬な奴等をぶっ飛ばすぜ」


「いやいや、お前がぶっ飛ばしたら、何もかもが台無しだからな」


「なんでだ? オレは出られないのか?」


 アンジェが、またまた明後日の方向に進んだので釘を刺す。

 どうやら、アンジェは魔王戦のことをきちんと聞いていなかったようだ。

 まあ、ある意味、アンジェが対戦相手をぶっ倒したら、魔王も彼女のモノとなるだろうし、俺としては万々歳なんだが……


「なんだと~~~~! オレは暴れたいぞ!」


 くはっ~。やっぱり、こいつは脳筋だった。少しだけ見直していたのに……


「そういえば、魔王戦なんだけど」


 暴れるというキーワードで何かを思い出したのか、エルザが顔を顰めた。


「クルシュの話を聞いた限りじゃ、例のデストーラという貴族が魔王戦の結果で、大人しく引き下がると思えないわ」


「確かにそうじゃな。もしかして、何か企んでおるやもしれん」


 エルザの懸念に、クルシュは力強く首肯しながら賛同した。

 彼女達の考えは分からなくもないが、ぶっちゃけ大した影響などないように思う。


「あるとしてもクーデターくらいだろ。みんなを呼び寄せておくか?」


「それは拙いわ。現在の状況だと、どこが襲われるか分からないし」


 確かに、エルザの言う通りか……


 トルセンア枢機卿の件もあるし、ミストニアの密偵もあちこちで暗躍している。どこも気を抜ける状況ではない。

 それを認識しているが故に、仲間を各国に配置している。

 ジパング国には、サクラと綾香を配置している。ルアル王国にはエミリアとアレット。残りのメンバーは教国本部とテルン砦だ。


「でも、大丈夫ですわ。クーデターなんて、このメンバーなら問題なく対処できますわ。いえ、わたくし一人でも蹴散らしてみせますわ」


 自慢するかのように豊かな胸を張った麗華が、自信ありげな表情で懸念を一蹴する。


 こいつも、随分と元に戻ってきたな。なかなか良い傾向だ。


 実をいうと、俺の好み的にはアンジェがダントツなのだが、あの残念極まりない男っぷりの災いして恋愛感情が起こらない。

 そして、次点が麗華なのだが、ここ最近のデレは頂けない。まるで違う人間のようだった。

 きっと周囲から見れば、俺もそんな状態だったのだろう。

 それ以外の成人女性だと、クリスは彼女の方も臣下として振る舞うので、そこまでの感情に至っていないし、サクラは従妹なので恋愛に関しては少し抵抗がある。綾香も嫌いではないのだが、趣味の壁が……脱走トリオに関しても日本での印象があるので、イマイチ恋愛感情には辿り着かない。ミレアについては余り考えたくない……

 それ以外の未成年者になると、どうしても未成年というキーワードが、俺に歯止めを掛けていて、恋愛というより妹的な感情を持ってしまうのだ。

 特にラティとか、とても可愛いく大好きなのだが、ロリコンではないこともあって、恋愛に抵抗を持ってしまう。

 ロココについては、日本での付き合いもあるので、心情的には恋愛に近い位置にいる。だが、いかせん十一歳だと、現時点では食指が動かない。


 少し脱線している内に、結局、なんだかんだで俺が魔王になるというオチになってしまった。なぜこうなった?









 人々の歓声が響き渡る。

 直径が百メートルはあろうかという円状の広場は、周囲を人の背丈くらい壁で覆われ、その上には等間隔で柱が立っている。

 クルシュの話では、その柱は特殊な魔道具とのことだった。階段状の観客席に魔法が飛び火しないように、魔法障壁が展開される仕組みとなっているらしい。

 その観客席はといえば、街の者が全員参加したのではないかと思うほどに、人で埋め尽くされている。

 観客が丸い形をした広場を囲む光景は、例えるなら野球場のような雰囲気だが、そこで行われるのは、決してスポーツなどではない。

 そう、これこそが魔国が誇る闘技場なのだ。


「凄いじゃろ、これは我が国で一番の闘技場じゃ」


「いや、それはいいんだが、完全に見世物になってね~か?」


 闘技場を自慢するクルシュに異議を申し立てるが、全く聞いていないようだ。

 現在は、その闘技場に設置された特等観覧席に居座っている訳だが、まわりには貴族などが並び、周囲は兵士が厳重に警護をしている状態だ。


 こりゃ、完全にコロシアムだな……てか、魔人って、血の気が多いのか? もしかして、アンジェにも魔人の血が流れてたりして……ほんとに残念だ……


 いつまでも自分も戦いたいと不平を漏らしているアンジェを見やり、呆れて肩を竦めていると、開催を知らせる花火の音が鳴り響いた。


 花火か? まるで運動会だな。


 その原理は不明だが、花火のような炸裂音が鳴り響くと、入場門から十人の魔人が現れた。

 参加者の誰もがピリピリとした雰囲気を漂わせている。


「あれが対戦相手ですか。強そうには見えませんね」


「みんなショボイニャ」


「それ以前に、ユウスケに勝てる相手なんて、この世に居るとも思えないけど――」


「そうですわ。わたくしの夫こそが、世界最強ですわ」


「そうなんちゃ。ユウスケが最強なんちゃ」


「いいから、オレに戦わせろ!」


「アンジェさん……」


 入場した対戦相手を見た途端、クリスとロココが対戦相手をコキおろすと、エルザが呆れた様子で肩を竦め、麗華が自分の事のように自慢し、ラティがそれに頷いた。

 麗しき脳筋アンジェは、いまだに不満らしく、腕を組んだまま不平を漏らしている。

 マルセルはといえば、残念なアンジェを見て溜息を吐いている。

 そんな中、対戦者が闘技場の真ん中に整列すると、現魔王であるクルシュが立ち上がって挨拶を始める。

 俺的には、クルシュの挨拶を聞いても仕方ないので、広場に立つ男達を観察している。

 クルシュから聞かされた話だと、魔人族の戦士は例外なく魔法戦士らしい。

 身体能力のみならず魔法能力が異常に高いらしく、魔法と武技を併用した戦い方をしてくるだろうと言っていた。


 それで、魔法がつかえないラティを蔑むんだな。愚かなことだ……


 少しだけ魔人族のありように落胆していると、クルシュが俺の名を口にした。


「最強の戦士であり、最高の勇気を持った者。次の魔王となるユウスケじゃ」


 はぁ~、こういうのは好きじゃないんだが……


 不満を抱きながらも仕方なく立ち上がると、場内は揺れんばかりの歓声に包まれた。


「こら、ユウスケ。手の一つでも振らぬか」


 こそこそとクルシュが文句を言ってくるので、仕方なく手を振る。

 その途端、場内の歓声は爆発的に膨れ上がり、観客席が揺れ始めた。


 凄い歓声だな。つ~か、もういいだろ。さっさと始めようぜ。時間の無駄だ。


 歓声に驚きつつも、急かす気持ちを乗せた視線を向けると、クルシュが頷いて手を上げた。

 その動作に合わせて、現魔王の前から広場へと向かう直線上に、人垣の道が作り出された。


 なんか、別の意味で緊張するんだが……


 注目されることを苦手としているだけに、少しばかり緊張する。

 それでも、平静を装って人垣の道をゆっくりと進む。

 観衆は喝采を投げ掛けたり、魔国旗を振ったりしている。


 なんか、K-1やボクシングとかの登場シーンみたいだな。


 テレビで見た格闘番組の登場シーンを思い出しながら、広場の中央に立つ十人の男達の前へと辿り着く。

 すると、後ろから付いて来ていた魔人が、そそくさと前に出たかと思うと、ルールの説明を始める。


「私が審判を務めるフルターチです。よろしくお願いします。では、ルールですが――」


 ルールは簡単だ。相手を倒すだけだ。

 不殺といった制限もない。但し、降参した後に殺すことは禁じられている。

 それ以外は、武器の制約も魔法の制限もない。

 そして、魔王になるには、この十人を順番に倒す必要がある。いや、本当は魔王になんて成りたくないので、倒す必要はないのだが、もう約束してしまったので仕方ない……


「それでは、一番手はキリクル殿ですね。それ以外の方は待合室の方へどうぞ」


 キリクルと呼ばれた魔人と俺を残して、全員が広場から出て行く。

 そのタイミングで、キリクルという男が話し掛けてきた。


「邪竜を倒してと言うのは、本当ですか?」


「ああ、間違いない」


「私は、貴方が魔王になることに異議はないです。ただ、その力を感じたいと思って参加させて頂きました。宜しくお願いします」


 なかなか真面目そうな魔人だ。礼儀といい、その態度といい、好ましいと思えた。


「分かった。全力で掛かってこい」


 場の雰囲気に釣られたのか、俺の気分も高揚してくる。


「はい。全力で戦わせて頂きます」


『それでは、一戦目を開始します。両者、開始位置に着いてください』


 キリクルとの握手を終わらせると、フルターチの声でアナウンスが流れてきた。

 俺はキリクルと距離を取って向かい合う。その距離は、凡そ二十メートルくらいだ。


『それでは、はじめ!』


 両者が開始位置で向き合ったのを確認したのか、開始のアナウンスが発せられた。

 キリクルを見ると、まずは、遠距離から魔法で攻撃してくるつもりらしい。


「ウオーターランス!」


 奴が魔法を発動させると、水の槍が宙に生まれた。

 その数は三本。太さ的にも槍と言って差し支えない。


 まあ、普通、こんなもんだよな……


 今更ながらに、自分達の異常さに肩を竦める。

 なにしろ、エミリアと比べると、蟻と象の戦いみたいなものだ。

 向ってくる氷の槍をいとも容易く避けると、ゆっくりと歩いて前進する。

 魔法を避けられたことに驚きはしていたが、キリクルは直ぐに攻撃を切り替える。


「ウオータープレス!」


 この魔法もエミリアが得意とするものだ。いや、それ以前に、彼女のモノとは桁違いに貧弱だ。

 それもあって、隙を突かれない限りは、簡単に回避可能な魔法だ。


 そろそろ俺も攻撃するかな。


 魔法を躱して、一気に前進する速度を上げる。

 別段、瞬間移動などの能力は使っていないのだが、観客席からはどよめきが起こる。

 おそらく、俺の移動速度が信じられないのだろう。


 まあ、瞬間移動を使わなくても、今の俺が五十メートル走をしたら、一秒もかからないだろうからな。


「えっ!? うわっ!」


 キリクルが驚愕を顔に張り付ける。一瞬にして眼前に立ちはだかっているのだ。驚くのも当然だろう。

 一応、対戦者は臣下となるかもしれないので、不殺で倒すつもりだ。

 一瞬で相手の前に辿り着き、すかさず放たった高速上段回し蹴りが、キリクルの側頭部を捉える。

 無防備で蹴りを食らったキリクルは、錐揉み状態で吹き飛び、闘技場の地面で二転三転と転がっている。

 油断せずに様子を覗っていると、ピクピクと痙攣しているのが見て取れた。

 戦闘不能であることを確認し、審判であるフルターチに視線を送ると、直ぐに勝者のアナウンスがなされる。


「は、はやい。こ、これは何という速さ。勝者、ユウスケ様」


 一瞬の出来事に沈黙していた観衆だったが、勝者の名乗りが行われた途端、一斉に歓声を上げた。


 うおっ、なんか気分が高揚してきたぞ……よし、ちょっと、格闘メインでいくかな。


 乗り気ではなかったはずなのに、久々の格闘戦で熱が入り始める。

 それが良かったのか、対戦者を九人まで上段回し蹴りで倒した。登場時間を入れても、いまだ二十分と経っていない。

 ただ、場内は大興奮だった。


「ユウスケ様すげー!」


「あの蹴りはなんだ! 全く見えねぇ!」


「こ、これって、最強伝説だろ!?」


「新しい魔王は、世界最強だ」


「そもそも、相手は魔法で攻撃しているのに全く当たらないし、ユウスケ様は無手だぞ!」


「魔法すら使っていらっしゃらない。これで魔法を使ったらどれほどなのだろうか」


 観客席では、あまりの力の違いに、誰もが興奮しているようだ。


 まあ、魔法や能力を使ったら、対戦者どころかこの会場すら消えてなくなるがな。さて、次で終わりだな。


 最後の対戦者の名前がアナウンスされる。

 出て来たのは、大柄な魔人で右手に槍を持っていた。


 ふむ。筋肉は凄いが、綾香特製の金剛力士ほどの力があるのかな?


 最後の対戦者を観察していると、直ぐに開始の合図がなされる。


「ファイアーボム!」


 さすがは、魔人だな。どの対戦者も必ずレベル3以上の魔法を使ってきた。どうやら、この男も同じようだ。

 ただ、基本レベルは高くても五十に届かないくらいといったところか。

 うちの面子だと、負ける者はいないだろう。

 今なら、下手をするとダートルで保護した子供達の方が強いかもしれない。


 ファイアーボムか……俺の得意魔法の一つだ。まっ、こんなのには当たんね~よ。


 速度も威力も、俺の魔法に比べれば児戯と言えるものだ。

 これまでの対戦者同様、即座に間合いを詰めると上段回し蹴りで一撃必殺だ。

 槍を持っていても、俺の攻撃を止めることすらできないだろう。

 案の定、蹴りを食らった魔人は、他の者と同じようにぶっ倒れた。しかし、気絶することなく直ぐに起き上がった。

 どうやら、相当に身体を鍛えているようだ。


「ほ~。起きてきたか」


 少しばかり感心しつつも、ヨロヨロと立ち上がった相手に下段回し蹴りを叩き込み、バランスを崩したところに後ろ回し蹴りを食らわせる。

 その連撃を真面に頂戴した対戦者は、後ろに吹っ飛んで気を失ったようだ。


「よし。これで終わりだな」


 時折、ピクピクと痙攣しているのを見て、魔王戦が終わったと判断した。

 すると、フルターチがマイクを手に立ち上がった。


「勝者、ユウスケ様!……えっ!」


 勝者を告げようとしたフルターチだったが、途中で驚きを声にしていた。

 そう、痙攣していた男が立ち上がったのだ。

 場内もどよめきに包まれる。

 なかなかしぶといと言いたいところだが、どうも様子がおかしい。

 立ち上がった男は、立った状態でも身体をピクピクさせている。

 注意深く観察すると、その表情はどうみても意識を失っているようだ。なにしろ、白目を剥いたままなのだ。


 こりゃ、どういうことだ? 戦っている最中に意識がなくなることはあるだろうが、完全に落ちてる状態なんだが……


 魔人の様子を訝しんでいると、突如として異変が起こる。

 その男の身体がウネウネとうごめきだしたかと思うと、身体が膨張していく。


 おいおい。これじゃ、魔人じゃなくて、魔物だろ!?


 呆れている間にも、手足は植物のように伸び、首も同様に伸びていく。衣服や防具を引き裂くほどに大きく膨れ上がったお腹には、気色の悪い大きな口が現れた。


 こりゃ~、完全にモンスター化しているな。てか、どうやったらこうなるんだ?


 伸びあがった首の上には、緑色に変化した顔が醜悪な形相を張り付けている。おまけに、耳まで届くほどに裂けた口からは、意味の解らない呻き声が漏れている。


「これって、始末した方が良いのか? さすがに能力なんてもんじゃないよな?」


 対処を悩んでいると、モンスター化した魔人が長く伸びた右腕を振り下ろしてきた。

 その植物のような腕は、振りおろされながらも、物凄い速度でさらに伸びてくる。

 即座にそれを避けると、通り過ぎた腕からいばらのようなとげが伸びてきくる。

 その攻撃を察知するや否や、すぐさま距離を取って、アイテムボックスからもっくんを取り出す。


「うむ、今回の敵は植物か! それがしより千切りの方が喜びそうだな」


 そんなこと言わずに頑張れよ! 邪竜に受け止められたからって落ち込んでんのか?


 そう、もっくんは前回の戦いで、邪竜を倒せなかったことを気にしていて、ややナーバスな状態なのだ。


 面倒臭い神器たちだな……


 一本では避けられると思ったのか、奴は両手を振り下ろしてくる。

 だが、今度は襲い掛かってくるその両手をもっくんで切り裂く。


「ほら、楽勝だぜ! 元気出せよ!」


「そ、そうじゃな。なんか、調子が出てきたかも……」


 ナーバスになっているもっくんを元気づけてやると、少しばかり調子を取り戻したようだ。

 こうなると、こんな植物なんて敵ではない。

 元気になったもっくんで、その魔物を瞬時のうちに塵に変えた。


「口ほどにもない奴じゃ」


「うむ。見た目ほどの敵じゃなかったな。つ~か、なにも言ってなかったけどな」


 微塵となった植物人間を見下ろして肩を竦めていると、逃げずに見守っていた観客から爆発的な喝采が起こった。


 誰もが足踏みし、「まおう! まおう!」と俺を讃えるかのように連呼している。いや、間違いなく俺を讃えているのだろうな。嬉しいやら、恥ずかしいやらで照れくさい。

 嬉し恥ずかしで、右手にもっくんを持ったまま、左手で頭を掻くのだが、観客は大合唱を止めようとはしない。


 いつまで続けるつもりだ? てか、もう、戻ってもいいかな?


『手でも振ってやるのじゃ』


 ゆっくりと特等観覧席に視線を向けた途端、クルシュの念話が届いた。

 どうにも収まりが付きそうにないので、言われた通りにもっくんを持った右手を突き上げる。

 途端に、闘技場が大爆発をしたかのような喝采と称賛に包まれる。


 これで魔王戦は終わりだな。だが、まだやることが残ってるんだが、まあ、出しゃばると奴が怒りそうだな。なあ、アンジェ。出番だぞ!


 それは、この闘技場に入った時から分かっていたことだ。

 嫁達やクルシュを取り囲んだ守備兵を倒す必要があるのだ。

 そう、簡単なことだ。マップが謀反人達を全て捉えている。

 そして、これからそいつ等が行動を起こすはずなのだ。


 さてはて、どんな展開になるのかな?


 興味津々で特別観覧席を見やっていると、喝采を止めさせる声が上がった。


「静まれ! 静まらぬか!」


 ああ、あれは、確か、デストーラという魔人だったな。


 デストーラが仲間を使ってフルターチを拘束し、マイクを奪っていた。

 もちろん、その様子からして、のど自慢を始める訳ではないだろう。

 場内が静まると、デストーラが不敵な笑みを見せた。


「魔国はいつから魔人でない王を持つようになった! 魔国とは魔人が築き上げた王国だ。魔人こそが優れた種なのだ。よって、我々はこの魔王譲渡を認めない。そして、現魔王の在り方を変えるのだ」


 奴が高らかに宣うと、静かになった観客から声が上がった。


「オレ達が望んでいるのは、そんなことじゃない。お前みたいな貴族が居なくなることだ」


「そうだ! お前等こそ最悪なる種だ!」


「ユウスケ様こそ、我らが魔王に相応しい」


「そうだそうだ! 強大な強さと勇気を見せたユウスケ様こそ、真の魔王だ!」


 その声は観客席に伝搬し、批判や罵倒の声が止まらなくなる。

 こうなると、クーデターを起こしても国民はついてこない。


 ふむ。終わったな。あとは自滅に向かって進むだけか……


「喧しい! 今から現魔王とユウスケとやらの一味を拘束する。ユウスケとやら、そこから一歩でも動いてみろ、仲間を全員殺してやる」


「動くな? まあ、構わんが……そもそも、お前等にそれが出来るのか?」


 アイテムボックスから綾香製拡声器を取り出し、奴に嘲りを投げつける。

 すると、観客席からも毒が吐き出される。


「お前等貴族は、なんて卑怯なんだ」


「そうだ! お前等こそゴミだ」


「お前らこそ、極刑に値するぞ!」


 この国の民は、なかなか賢いな~。てか、そもそも貴族が嫌われてるのか?


 民衆の言葉を耳にしながら、デストーラに忠告する。


「警告はしておく。俺の仲間は、お前達が束になって襲い掛かっても、傷一つ負うことはないだろう。それでもやりたいならやれ! ただ、間違いなく後悔するだろう。いや、もう遅いな。お前等みたいに自分達こそ最高の存在だと思っている奴は、俺がこの世界から消し去ってやる。後悔は地獄でやるんだな」


 宣言が終わると、何を血迷ったのか、観衆からユースケコールが起こる。


 まあいいか……ここは観衆を仲間につけるべきだよな。


 再び『もっくん』を空に向けて突き上げる。

 その姿は、まるでこの国の幸せな未来を指し示すかのようだったと、語り継がれることになる。

 そして、暫くすると魔都の中央に木刀を天にかざす俺の銅像が建てられることになった。本当に勘弁してくれ。


 こうして魔国の事件が幕を閉じた。

 反乱分子たちは、嫁達を拘束しようとしたところで、逆に拘束される破目に遭う。

 アンジェが嬉々として暴れたのは、言うまでもないだろう。

 嫁達の強さを目にした観衆たちは、その美しさと強さに感服し、街では魔王の戦乙女と称賛され、多くの女性が憧れるようになった。

 その後、主犯のデストーラは極刑となり、奴に与した全員が重罪を課せられた。

 また、魔王となった俺には、やることが沢山あるので、現魔王であるクルシュをそのまま魔王代理として置いている。


 ふ~っ、これで少しは落ち着くだろう。

 ラウラル王国、アルベルツ教国、テルン平原の戦、邪竜討伐と、立て続けに起こった事件に巻き込まれた所為で、ここ最近は全くゆっくり出来ていない。


 そろそろ、休息しても良いような気がするのだが……


 ところが、世の中とは儘ならないものだ。そんな甘い考えがフラグとなったのか、新たな問題が起こった。

 行き成り、慌てた様子で現れたクルシュが、緊張した面持ちで声を発した。


「ユウスケ、大変じゃ! ミストニアがローデス王国に宣戦布告したのじゃ!」


 なんとか魔国の問題が片付いたと思った矢先に、新たな問題が告げられ、またまた家族会議を行うとなるのだった。

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