03 旅立ち
第20話 不幸の始まり?
キャイン! キャイン! キャイン!
「どんなもんだい! あたいの属性攻撃は一味違うだろ。そら、食らいな!」
はい。今日もルミアでスタートです。
現在、ドロアダンジョン地下三十九階を回遊中だ。
新たな目標を掲げ、ドロアを後にすると決めたのだが、更新したスキルを試したいという話になり、アレットと鈴木をワープで屋敷に戻し、残った面子で少しだけ戦って帰ることにしたのだ。
なぜだろう。原因は分からないが、少し嫌な予感がする。いや、今は忘れよう。戦いに集中しないと……
初っ端から景気のよいルミアだが、スキルを更新した事もあって絶好調だ。
●=新規/▲=上昇
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[ユウスケ]
生活魔法
火属性魔法Lv3
[ファイアーボール]
[ファイアーアロー]
[ファイアーボム]
神聖魔法Lv2
[スモールヒール]
[ミドルヒール]
剣術強化Lv5▲
身体強化Lv5
回避力向上Lv5▲
防御力向上Lv3●
気配察知Lv4
体力回復向上Lv5●
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俺に関しては、後衛が充実したこともあって、完全に前衛仕様にシフトしている。
どうせ、最悪の場合には『空牙』があるので、魔法については先送りにした。
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[ラティーシャ]
生活魔法
剣術強化Lv5▲
弓術強化Lv5
身体強化Lv5▲
回避力向上Lv5▲
危機察知Lv5▲
気配察知Lv5▲
視覚向上Lv4▲
体力回復向上Lv5
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ラティは相変わらず魔法が嫌いだという理由で、肉体派のスキル構成となっている。そんな訳で、いまだに模擬戦で勝てなかったりする。
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[マルセル]
生活魔法
神聖魔法Lv4
[スモールヒール]
[ミドルヒール]
[ハイヒール]
[エリアヒール]
[ホーリーシールド]
[ホーリーウォール]
[毒解除]
[石化解除]
身体強化Lv5▲
防御力向上Lv5▲
体力回復向上Lv2●
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これまで支援スキルを重点的に上げてきたマルセルだが、深い階層で狩りをするようになって自分の体力不足を痛感したらしい。今回は身体系のスキルを上げた。
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[ルミア]
生活魔法
付与魔法
[基本付与]
[付与成功率Lv5]▲
[付与効果率Lv5]▲
[火属性付与]
気配察知Lv5▲
視覚向上Lv5▲
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トリガーハッピールミアに関しては、攻撃力不足を属性付与で補うために、成功率と効果率をMAXまで上げた。そのお蔭で、現在では属性付与攻撃を失敗することはない。
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[ロココ]
剣術強化Lv3▲
身体強化Lv5▲
回避力向上Lv5▲
気配察知Lv3▲
視覚向上Lv3▲
聴覚向上Lv3▲
嗅覚向上Lv1
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ロココはというと、獣人特有の魔法に対する適正が低い問題があることから、自ずと身体系や知覚系のスキルを上げることになった。ただ、嗅覚向上を上げなかったのは、獣人族は人間族にくらべ、そもそも鼻が利くらしく、これ以上あげるとヤバいことになるらしい。
まあ、毎晩のように俺のベッドに潜り込んでくるし、あまり臭いを嗅がれるのも気持ちの良いものではないので、素直に頷くことにした。
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[クリス]
槍術強化Lv1
盾術強化Lv5▲
身体強化Lv5▲
防御力向上Lv4▲
気配察知Lv1●
視覚向上Lv1●
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クリスは、どうも鉄壁の女を目指しているらしく、攻撃よりも防御を重視している。なので、身体系でも特に防御系に傾倒している。
余りにも傾倒しているので、その理由を聞いてみたのだが「みんな恐ろしいほどの攻撃力を持っているので、私くらいは肉壁でもよいかと……」と、頬を染めた。こいつは、もしかしたらマゾなのかもしれない。
頷くクリスの周りには、かなりヤバい空気が漂っていたように思う。
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[エミリア]
生活魔法
水属性魔法Lv4
[ウオーターボール]
[ウオーターランス]
[ウオータープレス]
[アイスジャベリン]●
魔法攻撃力強化Lv2●
身体強化Lv3▲
防御力向上Lv2▲
マナ回復向上Lv5▲
消費マナ減少Lv5●
詠唱短縮Lv5●
発動後硬直減少Lv5●
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最後にエミリアだが、昨日の戦闘において、高レベルの魔物に対する攻撃力のなさを痛感したらしく、魔法や魔法補助系のスキルをメインで上げた。そのお蔭で、エルザも含め、うちのパーティーで一番初めにLv4魔法保持者となった。
因みに、今回取得した魔法攻撃力強化のスキルは、前提条件が属性魔法Lv4となっている。
「アイスジャベリン!」
エミリアの放った氷の槍がハウンドドッグを串刺しにする。直径二十センチ、長さ一メートルくらいの氷の槍なんて、恐ろしく痛そうだ。
この攻撃を食らうと、さすがのハウンドドッグも身動きできないほどのダメージを受けることになる。というか、ここまできたら、もはや唯の犬だな。
う~ん。動物虐待のような気がして罪悪感を抱いてしまう。それもあって、これはモンスターだと、自分に何度も言い聞かせる。
「おらおらおら! 食らいな!」
ルミアが火属性を付与した『銃』で属性弾を撃ち出す。これがまた過激だ。炎の弾が飛ぶだけではなく、ナパーム弾のように着弾と同時に発火し、対象だけではなく周りまで燃やしている。
これって、なんとかに凶器じゃね? 街中では使わないように言っとこう。てか、そういえば……
改めて攻撃制限について考えていたのだが、そこで、あることを思い出す。
確か、アイテムボックスに銃というか、ショットガンがあったはずだ。当時はマナ量の関係で使用できなかったが、今なら使えるかもしれない。
丁度、戦闘が終わったところだし、ルミアを呼び寄せる。
呼ばれた理由が分からず、首を傾げつつやって来たルミアだったが、眼前に例の箱を取り出と、それが何かに気付いたのだろう。彼女の表情が一気に華やいだ。
「ユウスケの旦那、こ、こ、これは……」
「ああ、ショットガンだ」
箱の蓋を開くと、ルミアが絶叫する。
「うひょーーー! これ、使っていいのか?」
「ああ、使えるのなら好きにしろ」
「旦那、愛してるぜ」
俺にどう反応しろっていうんだ? お前、まだ十歳だろ。
ショットガンを取り出したルミアの目は、「早く撃ちたい! 早く撃ちたい! 早く撃ちたい!」と言っている。
まあ、何もないところで発砲するのもあれだし、少し進むことにする。
ああ、そういえばケルベロスだが、階層ボスは一度倒すと、一週間くらいは発現しないので、現在はハウンドドッグオンリーだ。
「前方から犬が三匹きたぞ」
「アイアイサ~~! 撃ち
三匹の犬が見えた途端、ルミアはポンプアクションでマナを充填しながらショットガンを撃ち放った。
「逝っちまいな!」
ダーーーン! ガチャガチャ! ダーーーン! ガチャガチャ!
ルミアが軽快な音を鳴らしながら発砲する。
すると、三匹の犬は、体中を穴だらけにしたうえに、受けた傷から炎を吹き出していた。
こりゃ~生き地獄だな。あまりにも惨いぞ。やっぱり使わせるのを止めようかな……
その光景を目にした時、暫く犬を見かけたら可愛がってやろうと決めた。
結局、なんだかんだ言って、二日間ほどいつもの七人で狩りをした。そして、切りの良いところで打ち切り、ワープで屋敷に戻った。
基本レベルはといえば、もう人外魔境と化してきた。というのも、ラティがついに基本レベル90を突破した。
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ユウスケ レベル87 ランクA
ラティ レベル92 ランクS
マルセル レベル74
ルミア レベル73 ランクB
ロココ レベル63 ランクC
クリス レベル64
エミリア レベル63
アヤカ レベル53
アレット レベル45
ベルニス レベル45
ドロシー レベル45
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S級ですよ。S級。もう人外だよな?
エル――ヘルプ機能の話では、現在の大陸最強の戦士が基本レベル86らしい。そして、冒険者の平均レベルは30台だそうだ。
末端の冒険者の方が多いことは理解できるが、少し平均が低過ぎるような気がする。
もしかすると、スキルを自由に取得できないことが、成長に大きく影響しているのかもしれない。そう考えると、やはり俺のチート能力は半端ないと思える。
ワープを使って屋敷に帰ったこともあり、玄関を開ける必要はない。
当然、部屋のワープポイントに戻ることになる。
ただ、部屋に戻ったところで違和感を抱いた。
「ああ、そ、そうか。窓の透明感が半端ないんだな……でも、なんでだ?」
独り言を口にしつつ、窓に近付いて手を触れると、その手は窓枠を通り過ぎた。
「ガラスがないニャ」
ロココさん、正解です。というか、なにゆえ窓ガラスがなくなっている?
「みんな、手分けして各部屋の窓ガラスを確認してくれるか?」
みんなにお願いして、自分は窓から中庭を眺めてみる。
そして、驚きと呆れで固まってしまう。
俺の記憶が確かなら、あれって軍用装甲車だよな? 鈴木か! また遣りやがったな!
「お帰りなさいピョン」
慌てて一階に下りると、アレットが笑顔で迎えてくれたが、のんびりと挨拶を交わしている場合ではない。
「ただいま、それより二階の窓ガラスがないぞ」
「それなら、アヤカピョンが取り外してましたピョン?」
やはり、犯人は鈴木か! あの野郎、何を考えてるんだ!? つ~か、何で黙って好きにさせてるんだ?
「おいおい。アレット、止めろよな」
「え? ユウスケピョンから許可はもらってるって言ってたピョン」
「アレット。お前は、騙されてるぞ」
「まじピョン?」
「まじまじだ!」
アレットが驚いているが、既に時遅しだ。腹に入った料理が、何をしても元に戻らないのと同じ原理だ。
「ごめんなさいピョン」
「いや、いいんだ。奴が狡猾なだけだからな。気にするな。それよりも――」
恐縮しているアレットを置き去りにして中庭に出る。すると、鈴木が何事もなかったかのように近づいてきた。なにやら、とても自慢げだ。
「お帰り、どうですか? 凄いでしょう、これ!」
いやいや、そこでそう言えるお前の神経が凄いわ。
「装甲車はいい。いいんだが、窓ガラスをどうした!」
「てへっ」
可愛くね~~~~~~! 誰がテヘペロしろって言ったーーーー!
「それで誤魔化してるつもりか?」
「ごめんなさい。でも、早く作りたくて……」
「いや、いいんだ。乗り物を作ることについては反対しない。それが装甲車であろうともだ。だが、これはなんだ!?」
俺が驚愕した理由は他にある。
それが何かというと、装甲車の正面には、某時空要塞アニメの歌姫が描かれている。おまけに、側面には『戦車道』という文字まで……
なんで、なんで、装甲車に歌姫が? 確か、あのアニメでメインになる乗り物って、ヴァルキリーだよな? それに、なんで戦車道なんだ? これは装甲車だろ? それなら、『装甲車道』じゃね~のか?
もうツッコミどころ満載だ。つ~か、あうあうとしか声にならない。
「えへっ、素晴らしい出来でしょ。我ながら自信作なんです」
その装甲車は、自衛隊あたりで使用している八輪の『装輪装甲車』と呼ばれる装甲車で、搭乗口が上と後ろにあった。
見た目は格好いいんだが、痛いんだ。本当に痛いんだ。痛すぎだ。多分、分娩通よりも痛いはずだ。
「窓ガラスが装甲車のガラスになったのは分かった。しかし、他の素材はどこから持ってきた?」
「ん? 柏木君がくれた材木と盗賊から奪った剣や防具ですが?」
「どう見ても、それじゃ、鉄が足らないだろう?」
誰でも感じるはずの疑問を投げかけると、ふふふっと言いながら鈴木が不敵な笑みを見せた。
「これは、木製ですよ? 凄いでしょ」
いや、それは、既に装甲車じゃないから……ハリボテっていうんだぞ? 思いっきり見た目だけじゃね~か。
諦めの溜息を吐くが、鈴木は気にすることなく解説を始めた。
「一応、搭乗口は後ろですが、上部にも二カ所あります。但し、外からは開けられません。では、後ろの搭乗口にどうぞ」
どうぞじゃね~! いつかシメてやる。
腹の底から込み上げてくる鬱憤を無理やり押さえつけていると、窓ガラスをチェックしてきた面々が集まってきた。
「ガラスがなくなっているのは、あの部屋だけでした。全部で八枚です」
マルセルが正確に報告してくれた。
この辺りが、几帳面な性格の成せる業だろう。
それはそうと、恐らく、装甲車だとそれほどガラスを必要としていなかった所為だろう。被害が少なくて助かった。
ただ、俺の部屋というのが気に入らない。
「装甲車ニャ、おまけに痛車ニャ」
遅れて出てきたロココが、尻尾をピンッと伸ばしたまま驚愕している。
彼女の言動を目の当たりにした鈴木が、首を傾げる。
なにしろ、この世界の者が、装甲車以前に、痛車なんて知るはずがないからだ。だが、敢えて見なかったことする。
「それじゃ、みなさん中に入りましょう」
色々とクレームを入れた訳だが、奴は気にした様子もなく、というより、上機嫌で後部ハッチを開けた。
装甲車の後部ハッチから中に入ると、そこはリビングだった。
またか~~~~~! テントの時と同じかよ、キタこれ!
そう、外見は変われども、結局は4LDKだった。
お前、どんだけ4LDKが好きなんだ?
ところが、今回は前回と違って玄関のドアが開く。ドアというよりハッチだな。
ただ、なぜか玄関のハッチは、手前引きだった。
その理由は、開けてみて初めて理解できた。
そう、玄関の先には運転席があったからだ。おそらく、運転席が狭いのが理由だろう。もう好きにしてくれ……
結局、全てを諦め、肩をすくめることで完結させのだが、そういう訳にもいかない存在が居た。
「あんねぇ~、これ、うちが引くん?」
ラティが俺の服を引っ張りながら不安そうにしている。
そうだ、これって自走するんだよな? これが馬車代わりだったら、ラティが可哀想すぎるぞ。ウチの可愛いラティに装甲車なんてけん引させられるか!
「鈴木、これ自走するのか?」
「もちろんです」
「動力やエネルギーは?」
この質問が拙かった。ここから鈴木のウンチクが始まってしまった。
長い長い説明を頭の中で整理する。
エネルギーはマナだという。運転席に置かれた魔石に手を
運転席を調べてみると、ハンドル、ブレーキ、アクセル、シフトノブがある。それ以外では、照明スイッチやマナゲージはあるが、速度メータやウインカーノブなどはない。日本でいうところの保安基準は、完全に無視である。
まあ、道路交通法もないし、それは問題ないだろう。
「ラティ、引かなくていいらしいぞ」
「よかったっちゃ~~」
ラティは安心したのか、おれの背中に乗っかってきた。さすがに天井が低くて、ここでは肩車はできないからな。
「それより、一つだけ頼みがある」
「なんですか?」
「痛いのは止めてくれ、それだけは勘弁してくれ。ガラスの件は目を
鈴木はかなり渋い顔をしてゴネていたが、「どうしても飲めないなら、この装甲車を亜空間に放り込んでやる!」と言うと、ビクビクしながらも痛い絵は消してくれた。
それにしても、毎度思うんだが、俺の周りには、普通の奴はおらんのか?
ヒューヒューという風切り音と共に、楽しそうな幼女少女の声が耳に届く。
「気持ちええっちゃ~~~」
「ニャハ~~~ッ」
ラティとロココが上部ハッチから上半身を出して
お子ちゃまは、お手軽でいいよね。まあ、可愛いから許す。可愛いは正義だ。
ああ、俺はというと、当然ながら運転中だ。そして、これを動かしているエネルギーも俺のマナだ。
因みに、現在の俺のマナ量は3640だ。そして、この魔石を満タンにすると2500ほど持っていかれる。ただ、エコモードだと、満タンで距離にして400キロ走れるというから、俺がフルにマナを消費すると一日で800キロくらいは進めることになる。凡そ馬車の走行距離の八倍だ。
そういう意味では、もの凄い優れモノだ。
そんな装甲車でドロアを出発して、現在はルアル王国領に入っている。そして、ルト村まで、あと二日で辿り着けるところまで来ている。
ああ、このルト村は、ミレア、マルセル、ルミア、三人の故郷だ。
ただ、残念なことに、これまでの旅でマップに盗賊らしき反応はなかった。
俺のランクは『A』になっているので、マップ機能の索敵範囲は15キロに拡張されている。だから、盗賊が誰かを襲っていなくても、その範囲にアジトがあれば当りを付けることができたりする。
「なんも出んね~。退屈なんちゃ」
「平和でいいニャ」
ロココの言う通りだ。何もないのが一番さ。拙い、これってフラグだったか?
平和を望んだ途端に、マップが異変を知らせてきた。
まだ盗賊と決定した訳ではないが、十人の人間が街道に表示される。ただ、それ以外の三十人は街道から外れた辺りに表示されている。
周囲を包囲している構図からしても、まあ、間違いなく十人を狙う盗賊だろう。
『盗賊のお出ましだ~』
勝手に盗賊と断定して、伝心で全員に知らせる。
『やったっちゃ~』
『
『絶対に逃がしません』
ラティが嬉しそうに叫ぶと、ルミアとマルセルが心中の想いを声にした。
特に普段は大人しくて優しいマルセルなだけに、その気迫が本物であることが分かる。
『少し飛ばすぞ』
この
ああ、装甲車に見えて、木製だからな。敢えて木甲車と呼んでいたりする。
対象の距離と現在の速度から計算すると、恐らく十分弱で到着するだろう。
十人の獲物が無事に生きていてくれると良いが……
少しばかり不安を抱きながら現場に到着すると、マップの様子から分かってはいたが、やはり戦闘が始まっていた。
騎士らしき存在が豪華な馬車を囲むように守っているが、盗賊らしき存在がそれを取り囲んでいる。
既に騎士らしき存在が二人、盗賊らしき存在が四人ほど倒れている。そして、チートマップは、その存在が他界していることを示している。
俺達が到着するや否や、先程まで争っていた面々が、木甲車を目にして双方とも動きを止める。
まあ、それも仕方ないだろう。こんな代物は、この世界に一台しかないだろうからな。
ただ、手を止めたのは、こちらにとっても好都合だ。
すぐさま、全員が装甲車から出動する。
丁度いい、ここで宣言するか。
「え~~~、盗賊は死すべし! 悪党は土に還れ。いや、違うな……うむ。地獄に落ちろ!」
「援軍か!?」
俺の宣言を聞いた途端、騎士らしき者の表情が期待で華やぐ。
「ど、ど、どうする?」
「ガキと娘ばっかりじゃね~か、ビビんなよ。みんな捕まえて売っちまおう」
逆に、盗賊らしき薄汚れた男達が、己が存在を証明するかのような台詞を吐く。
「盗賊は死んでもいい、騎士に当てるなよ」
ゴミを冷たい視線で射ぬきつつ、戦闘方針を仲間に告げると、まずはルミアが吠えた。
「くそゴミ虫どもが~~~! 簡単に死ねると思うなよ。その汚いピーをてめ~の口に突っ込んでやる」
普段から銃を持つと性格が変わるルミアだが、今日は格別だ。恐ろしく下品だ。
おいおい、見えてもないのに、汚いピーはね~だろ? てか、お前、本当に十歳か?
ピシュ! ピシュ! ピシュ!
ラティは、吠えているルミアが撃ち出す前に、木甲車の上で速射を始めている。
「うっ!」
「がっ!」
「くそっ」
『頼むから、フレンドリーファイアーはやるなよ。もう、当たって痛いじゃ済まないんだからな』
ラティの放った矢に射抜かれた盗賊達が呻き声を上げる中、ルミアに釘を刺し、刀を抜いて盗賊に斬りかかる。
俺達が参戦したことで、騎士らしき集団は、一気に盛り返し始めた。
逆に盗賊達は形勢が逆転したことから、逃げ出す者も現れ始めたが、それを逃がすほど、ラティは温い幼女ではない。
『ラティとルミアは、逃亡した奴を優先して始末しろ』
『あいよ、旦那~!』
『わかったっちゃ』
一気に盗賊の数が減ったところで、例の透明君に気付いた。
『ラティ、俺のフォローを頼む』
透明君は戦闘に加わらず、街道脇の草むらに居るようだ。
というか、草むらに潜むなんて、動くと音や草の動きでバレるだろうに、アフォな奴だ。
相手が透明人間なだけに、接近戦を避けファイアーアローを撃ち込む。
すると、ラティが魔法の着弾先に速射で矢を飛ばす。
うむ。透明君には弾幕をくれてやれば安パイだ。呆気なく始末できた。
周りを確認すると、既に戦闘も終わりを告げたようだ。数人の盗賊が捕まっていたが、戦っている者はいなかった。
周囲の確認を行っていると、騎士らしき存在の中から、見るからに屈強そうな男がこっちにやってきた。
「助太刀、
粗暴そうな見た目と違って、まるで武士のような態度で、感謝の気持ちを伝えてきた。
「いや、偶々通りかかったんでね。盗賊を見かけたら駆除すると決めてるんだ」
その男は、「がははは!」と豪快な笑い声と共に、ニヒルな笑みを浮かべて右手を出してきた。
「いやいや、その齢で恐ろしいほどの腕前だった。オレはマルブラン伯爵家の私設騎士団十人長アレックスだ。アルと呼んでくれ」
「俺はユウスケだ。よろしく……」
アレックスという清々しさが心地よい男が自己紹介をしてきたので、俺も名前を告げて握手をしたのだが、少しばかり嫌な予感を抱く。
「それにしても、あの乗り物はなんだ? どうやって動いてる?」
まあ、気になるわな。確かに痛い絵は消させたが、なぜかシャークマウスとノーズアートが描かれているからな。まるで戦闘機のノリだ。
おまけに、ノーズアートの方は、結局のところ歌姫だった。背中に羽を生やし、セクシーなポーズを決めている。これと痛車の線引きってどこなんだ?
「まあ、魔道具のようなものだから、気にしないでくれ」
アルとそんな会話をしていると、彼の後方が騒がしくなってきた。
「お、お嬢様、危険で御座います」
侍女らしき女性の静止する声が聞こえる。そして、そちらを見た瞬間、その場で凍り付いてしまう。
「助けて頂いて、本当に有難うございます」
なにやってんだ、エルザ! ん? 胸が大きい……別人か?
声をかけてきたのはエルザだった。いや、五年後を見るかのようだった。
だって、顔はよく似ているが、胸のボリュームが違い過ぎる。
きっと、この感想をエルザが聞いたら発狂するだろう。
「いや、偶々だ。気にしないでくれ」
遠慮と言うよりは、あまり関わりたくないというのが本音だ。
「私は、セレスティーヌ=マルブランと申します」
マルブラン……やはり、エルザの身内か。
道理で見た目の雰囲気が良く似ている。というよりスタイル以外はそっくりだ。
ただ、いつまでも驚いている訳にもいかない。
嘘を言っても後々困りそうだったので、仕方なく正直に名前を告げる。
「俺は、ユウスケだ」
「えっ!? ユウスケ様? もしかして、エルザを救ってくれた勇者様ですか?」
俺の名前を聞いた五年後のエルザ、もとい、セレスティーヌがいきなり勇者呼ばわりした。
しまった……偽名を使うんだった……なんて後悔しても後の祭りだ。
「いや、勇者じゃない――」
「本当に有難うございます。勇者様。エルザだけではなく、私まで救って頂けるなんて」
このお嬢さん、人の話を全然きかね~。
「セレスティーヌ様、それじゃ~、この坊主が、エルザ様を救った勇者ですか?」
「いや、勇者じゃないから――」
「このご恩にどうやって報いましょうか。ぜ、是非とも我が家にお越しください」
やはり、人の話を聞かね~~~。つ~か、なんか、ここで助けたのが運の尽きのような気がしてきた。
「いや、取り敢えず盗賊のアジトを潰したいんで、お宅にお邪魔するのは、またの機会にしてくれ」
そう、俺はノーと言える男だ。
「そんな、駄目ですわ。命の恩人をそのまま行かせるなんて、母にどんな目に遭わされるか」
セレスティーヌは俺の腕を取って、強引に馬車に戻ろうとする。
や、ヤバい。腕に大きな胸が当たって、気持ちええんちゃ~~!
「ユウスケニャ! なにしてるニャ」
「だめっちゃ」
「このエロ犬! エルザ様に電話するわよ」
ロココとラティの台詞は良いとして、鈴木、お前はチクリかよ。
最終的に盗賊のアジトを潰したら、必ずマルブラン家に訪れるという約束を交わして、この場を収めることに成功するが、どうしたものかと頭を悩ませることになってしまう。
結局のところ、デコ電でエルザに相談することにした。
ところが、これが大失敗の始まりだった。
『元気か? その後、変わりはないか?』
『ええ。こっちは、大丈夫よ』
『本当か? 無双とかしてないだろうな』
『うっ……』
案の定、俺が居ないと、やりたい放題なわけだな。本当にお仕置きが必要だろ、こいつ。
それは良いとして、現在の状況をエルザに説明した。そして、第一声が次の通りだ。
『どうして、どうして、そんな楽しそうな旅に、私を誘わないのよ!』
お前には、学校があるだろ!
『もう習うこともなくなったわ』
相変わらずの先読みで、現在の状況を教えてくれた。
エルザにスキルを取得させたことや魔法に関する仕様を教えた所為で、もはや、学校で学ぶことがなくなってしまったようだ。
俺が原因か。俺が悪いのか。ううっ、後悔が尽きない。
今更、後悔しても始まらない。ポジティブに行こう。気を取り直して、今後について相談する。
『それはそうと、お前の実家に呼ばれてるんだが、どうすればいい?』
『それは、行くべきね』
『なぜだ?』
『行かないと、母から指名手配されるわよ』
どんな母親だ。命の恩人を指名手配かよ。さすがは、お前の母親だな。
『そんなことよりも、今直ぐワープで迎えにきなさいよ』
『いやだ』
『どうしてよ』
『ワープポイントを変更したくない。というか、変更したらドロアに戻れなくなる』
悪いが、嘘を吐くことなんてへっちゃらだ。火の粉を被るくらいなら嘘なんて幾らでも並べてやる。だって、今以上に問題児を抱え込みたくないのだ。
そんな訳で、サクッと嘘を吐いた。
『それ、嘘ね』
うそぉ~~~ん! 呆気なく嘘がバレた。顔が見えないから表情は読めないはずなのに。こいつ、本当の魔女じゃないのか? いや、ここは押し切るしかない。
『な、なんでそう思うんだ?』
『そのセリフが既に嘘だという証だけど……まあいいわ。教えてあげる。アヤカが、貴方のランクが上がったことを教えてくれたの』
ぶ、ぶっ殺す。あの女、絶対にぶっ殺す。
最後は折れた……折れるしかなかった。敵には容赦しないが、仲間には弱いのだ。
『盗賊のアジトを潰したら迎えに行くから、それまでに準備を終わらせろよ』
『え~~、私も盗賊の討伐に参加したいわ』
『それくらいは我慢しろ』
『仕方ないわね。分かったわ』
この後、盗賊のアジトを潰してお宝を頂いたあと、エルザを迎えに行くことにした。
それにしても、この先の展開が全く読めない。何が起こるのだろうか。
あと、エルザやセレスティーヌの『母』というキーワードが気になる。普通であれば、権力を持っているのは父だと思うのだが、マルブラン伯爵家とは一体どんな家なのだろうか。
そんな不安に怯えつつ、嫌々ながらもワープを発動させた。
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