第18話 生産チート、マジパネェ
寝苦しい……体が動かない、それに暑い。なんだ、この苦痛は……呪いか。俺のやってきたことの報いか……それなら仕方ないか……
寝苦しさから、夜中にふと目を覚ます。
横たわる俺の胸には、ラティが張り付いている。これは毎度のことなので理解できるのだが、どうも背中も圧迫されている。
ゆっくり振り返ると、丸くなった鈴木が背中に体重をかけスヤスヤと眠っている。
ん~、三人部屋を借りた意味がね~! つ~か、なんて無防備な奴なんだ。やっちゃうぞ。こんにゃろ。ぶっちゃけ、そんな度胸はないけど……
人殺し論で決裂したはずの鈴木は、俺達と別れた後に、街で四人の男に襲われたらしい。
この四人というのが、鈴木がエルザ達と出会った切っ掛けとなった男達だという。
鈴木が初めてロマールに来た時に襲ってきたこの男達は、ミレアによって撃退された。
ただ、その時のことを逆恨みしていたらしく、鈴木が一人になるのを狙っていたようだ。
お礼参りとか、なんとも世知辛い世の中だ。
「悪い奴らは、息の根を止めます。情けをかけるなんて無意味です。悪は根絶やしにするべきです」
戻って来た鈴木は、こう
おい! ほんの三十分前と言ってることが正反対じゃね~か! お前の道徳心や倫理観は軽すぎだろ。もっと葛藤しろよな。
という訳で、それまでの非殺論を、まるで半焼けのサンマでもひっくり返すかのように覆した。
そんな鈴木が仲間になることを願ったので、仕方なく宿を共にしたのだが、一人部屋は怖いと言い始め、渋々ながら三人部屋にした。
ところが、気が付くと、いつの間にか俺のベッドに潜り込んでいる。
実際、俺も十五歳の男だ。ラティくらいの幼女ならまだしも、同じ年頃の女の子が同じベッドで寝ていれば、さすがにムラムラとしてくる。だから、絶対に止めて欲しい。たとえ、胸の薄い女だとしてもだ。
こうして性欲と激闘を繰り広げ、悶々とした一夜を過ごしたことで、結果的に不眠の状態で朝を迎えることになった。
声色とは裏腹に、その言葉は温かな空気を作り出した。
「はぁ~、結局は、助けたのね。なんだかんだ言っても、ほんと、お人好しだわ」
やかましい。そのお陰で、お前も助かったんだから、もっと感謝しろよな。
翌日、冒険者学校の女子寮に再び訪れると、腕を組んだエルザがニヤニヤしていた。実に腹立たし光景だ。
その顔はあからさまにニヤケていて、「やっぱり甘ちゃんなのよね」と言いたそうな表情だ。しかし、どこか嬉しそうに見えなくもない。だから、今回は許してやることにした。
「ごめんなさい。私が間違ってました」
「分かれば良いのよ」
「良かったですね」
頭を下げた鈴木に、勝ち誇るエルザとニコニコしているミレアが頷いてみせた。
まあ、鈴木の立場もあるので、経緯については話さないでおく。
今日、再びエルザの所に訪れたのは、スキル取得のためだ。
鈴木は、既にスキルの取得を終わらせているので、今日はエルザとミレアがスキルの取得をする予定だ。
ああ、鈴木に関しては、固有能力が『妄想錬成』というチート級の強者なので、戦闘より生産を頑張ってもらうことにして、武器はルミアの『銃』みたいな飛び道具を自作してもらうことにした。
●=新規/▲=上昇
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
名前:アヤカ
種族:人間族
年齢:十六歳
階級:召喚者
-------------------
Lv:28
HP:505
MP:455
SP:24
-------------------
<固有能力>
妄想錬成:E [初級素材錬成][低級鉱物錬成]●
<スキル>
生活魔法
火属性魔法Lv1
[ファイアーボール]
付与魔法●
[基本付与]●
[付与成功率Lv3]●
[付与効果率Lv2]●
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
養殖で基本レベルを上げ捲ったお蔭で、なんと、固有能力ランクが『F』を飛び越して『E』まで上がった。
妄想錬成の能力に関しては、次の通りだ。
[初級素材錬成] 布や木などを使った錬成
[低級鉱物錬成] 鉄や銅などの低級鉱物を使った錬成
因みに、レベルで素材が変わっていくのだが、作成できるサイズも制限があり、Eランクだと二メートルまでとなっている。また将来的には潜水物や飛行物まで作れるのだが、潜水物はBランク以上であり、飛行物はAランク以上となっている。
次に、エルザに関してだが、当初の目的である毒や呪い耐性を上げるのも当然だが、やはり魔法の発動速度などを向上させて、魔術師の欠点を埋めることにした。
●=新規/▲=上昇
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
名前:エルザ=マルブラン
種族:人間族
年齢:十三歳
階級:マルブラン伯爵家三女
-------------------
Lv:51
HP:560
MP:1080
SP:14
-------------------
<スキル>
生活魔法
風属性魔法Lv3
[エアーアタック]
[エアーカッター]
[エアープレス]
身体強化Lv3▲
防御力向上Lv2
毒耐性向上Lv3●
呪い耐性向上Lv3●
危機察知Lv3
気配察知Lv2
マナ回復向上Lv5
消費マナ減少Lv5
詠唱短縮Lv5●
発動後硬直減少Lv5●
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
毒や呪い耐性に関しては良いとして、『詠唱短縮』と『発動後硬直減少』だが、詠唱短縮はキャストタイムを短くし、発動後硬直減少はキャストディレイを短くすることができる。
どちらもMAXレベルまで取得したエルザは、魔法発動後にほぼノータイムで詠唱を開始できるようになった。次回はいよいよ、無詠唱の取得となる。
最早、最強魔法少女に向けて一直線だ。
ミレアに関してはブレることなく、エルザの補助に徹する気でいるので、予定通りに毒や呪い耐性のスキルを取得したのと、上級回復や魔法盾を取得した。
●=新規/▲=上昇
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
名前:ミレア
種族:人間族
年齢:二十歳
階級:マルブラン伯爵家メイド
-------------------
Lv:52
HP:590
MP:1120
SP:4
-------------------
<スキル>
生活魔法
神聖魔法Lv3
[スモールヒール]
[ミドルヒール]
[ハイヒール]●
[ホーリーシールド]●
[ホーリーウォール]●
槍術強化Lv3
身体強化Lv3
回避力向上Lv1
毒耐性向上Lv5●
呪い耐性向上Lv5●
危機察知Lv3
気配察知Lv2
視覚向上Lv2
聴覚向上Lv2
嗅覚向上Lv2
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
俺とラティに関しては、基本レベルが60を突破しているが、今はあまり時間もないので、ドロアに戻ってからゆっくりとスキルの取得を行おうと思っている。
こうしてエルザとミレアのスキルを無事に取得したところで、鈴木に約束を果たしてもらうことにした。
約束とは経験値を吸わせる代わりに――、という当初の約束である。その時、鈴木に二つの物を作ってもらう約束をした。
「う~~~~~ん! う~~~~~~~っ!」
目を
「や~~~~~っ!」
最後の掛け声と同時にテーブルの上に置かれた素材が、目視できないくらいに発光する。そして、光が収まると、ピンク色の可愛い巾着袋と紫のお洒落な巾着袋がテーブルの上に置かれていた。
「「「おおお~~~!!!」」」
「すごいっちゃ」
俺、エルザ、ミレアが感嘆し、ラティは褒めながらはしゃぎ回っている。
「大丈夫だと思いますが、ちょっと試してもらえますか」
鈴木がやたらと不安そうだ。どうやら、自身がないらしい。
それもあって、アイテムボックスから、幾つかの適当なアイテムを取り出して試してみる。
試した内容は、袋より大きい物が入るか、同じ物が何個入るか、何種類の物が入るか、大きく三点の確認だ。
その結果、二十種類の物が各二十個入ることが分かった。そして、アイテムボックスと同様に袋に入れたものは、一つとしてカウントされることも確認できた。
ただ、アイテムボックスと違うのは、全く同じ袋でないと別の物としてカウントされることだ。
アイテムボックスの場合、袋は袋なので種類が違おうが、大きさが違おうが、どんな袋でも同じ種類でカウントされるのだ。
ただ、少し気になることがある。素材の布や紐は、その素材の原色だったはずなのに、出来上がった巾着袋は着色されていたことだ。特にピンク色の巾着袋なんて、柄まで入っている。それも二次元キャラの痛い柄だ。
こんなイタ巾着袋を作ったところを見ると、お前はアレだな。俗にいう厨二って奴だな。それに着色料は、どこから湧き出たんだか。
俺の生ぬるい視線に気付いたのか、鈴木がアワアワしながら否定してくる。
「わ、わ、わ、私は、オタクや厨二じゃないです」
その言葉を溜息混じりに黙殺する。そして、確認の終わった二つの巾着袋をエルザとミレアに投げ渡す。
「え、えっ?」
巾着袋を受け取ったエルザとミレアが
「エルザとミレアにやるよ。大切にしろよ」
「いいの?」
「良いのですか?」
「ああ」
エルザは瞳を輝かせ、興奮気味に尋ねてくるが、あっさり承諾する。
ミレアに関しては、こういう時に注視すると「このご恩は身体で」というパターンに嵌るので、敢えて視線を向けない。
「これって、アイテム袋よね?」
「そうだ」
「やはり召喚者って、異常だわ」
「今更だな」
エルザが溜息を吐くが、召喚者がチートなのは、本当に今更なことだ。
場が少し落ち着いたところで、材木と魔石を取り出し、我がことながら、錬成に成功して驚き戸惑っている鈴木に、次の依頼をする。
「次は、難しいぞ」
「わ、分ってます」
動揺しつつも、鈴木はテーブルの上に置かれた長さ三十センチで直径がニ十センチくらいの材木と魔石五個に手を翳す。
「う~~~~~ん! う~~~~~~~っ! うううう~~~~~!」
今回はかなり時間が掛かっている。というより、これではまるで便秘に苦しむ小娘みたいだ。
「えいや~~~~!」
理解不能な掛け声が響き渡ると、再びテーブルの上が発光した。そして、発光が終わったテーブルの上に、五つの四角い物体があった。
「これは、さすがに自信がないのですが、試してもらえますか?」
二つの物体を取り上げ、一つを鈴木に渡す。そして、使い方を尋ねる。
鈴木が教えてくれた使い方は、至って簡単だった。
対象の名前と通話開始を告げる音声コードを発すると起動し、会話が終了して切断したい時は、会話終了の音声コードを告げることで切れるらしい。
そう、これは携帯電話だ。
ただ、この音声コードは、いったい何なんだ! 通話開始の音声コードは「に永遠の愛を込めて!」、会話終了の音声コードが「いつまでも変わらぬ愛を!」ってアフォだろ!
嫌すぎだろ! なんで電話する度に愛を込めるんだよ! 込めるのはマナだろ。これで複数人に電話したら、それだけでジゴロ認定されるぞ!
ジト目を鈴木に向けると、モジモジしながら小さくなっていく。
「だって、寂しかったんです……」
「それは分かるが、これはないよな?」
ということで、もっと当り障りのない
「鈴木、通話開始……?」
鈴木の名前を呼んで、通話を開始してみたのだが、無反応だった。
「繋がらないぞ?」
「ステータスを教えてもらった時に思ったのですが、おそらく私や柏木くんの苗字はこの世界で認識されないようですね」
なるほど、そういうことか、今度は「アヤカ、通話開始!」と告げてみた。
これ、変更前だと「アヤカに永遠の愛を込めて!」になるんだよな……マジでドン引きだぞ。
少しばかり顔を引き攣らせている間に、鈴木が持っている物体から音楽が流れ始めた。ただ、その音楽に聞き覚えがある。ん~、これアニソンだろ!「もってっけ~~!」とか聞こえるんだが……まさか、お前をお持ち帰りしろってことか? マジで勘弁してくれ。流線散らしてデートなんてしたくないんだ。
「おい、これマナーモードはないのか? これじゃ二次元族丸出しだぞ!」
「うぐっ! うっ……マナーモード設定!」
要求を突きつけられた鈴木は、呻きながらもマナーモードを設定したようだ。今度は無音でブルブル震えている。
「あなたを愛してるわ!」
鈴木が訳の分からんセリフを吐いて受電した。
まだ続きがあったのか! 侮れん奴だ……
結局、全ての音声コードをチェックし、不適切な音声コードは変更してもらった。だって、恐ろしくて使えんぞ。こんな携帯電話。毎回ラブコールになっちまう。
それでも、なんとか問題なく通話できることを確かめて、試運転は終了となった。
それにしても、魔石を使って固有認識と魔力供給の機能を盛り込んだはずなのだが、パッと見で魔石が見当たらない。
鈴木に聞いてみると、魔石を小さく分割して使ったらしい。その結果が、このデコ電なのか!
そう、このアホタレが作った携帯電話は、裏側にキラキラとした粒でアニメキャラを模したデコレーション携帯電話だった。
これぞ、とても便利で画期的なアイテムになるはずが、結果的には、とっても使いたくない残念な代物になってしまった。
最終的に、エルザ達にもデコ電を渡し、できるだけ離れた場所から通話を試みて使用可能だと判断した。
その後で、エルザの部屋に入れてもらい、ワープのマーキングを行って女子寮をあとにした。
ワープのマーキングの時に、「ワープって、どんだけチートなんですか」とか、「覗きに使うのは止めてちょうだい」とか、鈴木とエルザから文句を頂いたが、それは割愛することにしよう。
ミレアに関しては、何か邪なことを考えているようだったが、これは見て見ぬ振りを決め込む方が得策だ。
こうして、俺、ラティ、鈴木の三人は冒険者学校を後にして、途中で冒険者ギルドに寄り、鈴木の冒険者登録を済ませ、ドロアに戻るべくロマールを出発した。
ロマールを出発してからは、明るいうちはゆっくりと馬車を走らせ、暗くなって人目がなくなると、若気の至りを露わにするかのよう深夜爆走を開始した。
現在は、夜の十一時を回ったところだ。
「うっ、吐きそうです。ツワリってこんな感じなんですかね」
知らんわ。つ~か、知りたくもない。いや、体験したいのなら、協力するのは吝かじゃないぞ。いやまて、それだと、鈴木と夫婦ということに……やっぱりナシだ。
「お腹へったっちゃ」
そうだな。あれだけぶっ飛ばせば、腹も減るよな。
鈴木は激しく揺れる馬車の所為で、酷く酔ってしまったようだ。ラティは相変わらずの調子で空腹を主張してきた。
まあ、乗り物酔いは、そのうち慣れるだろう。というか、想像錬成は許すが、想像妊娠は勘弁な。やることもやってないのに、認知してくれと言われも困るからな。
アイテムボックスから取り出したハンバーガーを腹ペコラティに渡し、鈴木にも渡そうと視線を向ける。すると、彼女は気分を悪そうにしながらも、決意の眼差しを見せている。
「これは……急いで乗り物を錬成する必要がありますね」
お~、凄い発言がきた。異世界で自動車か? だが、先に釘を刺しておくべきだろうな。
「乗り物を作るのは良いが、痛車は勘弁な!」
「うぐっ……そんなものは作りません」
否定こそするが、かなり焦った表情だ。そもそも、前科があるので信用できない。
「それよりも、テントとかないのですか?」
「ん? あるぞ?」
始めの頃に購入したのだが、全く使う機会のなかったテントを取り出す。
取り出されたテントは、アイテムボックスの恩恵で、既に組みあがっている状態だ。
「普通のテントですね……というか、なんか臭いますよ。そう、イカ臭い……」
なんだ、その疑いの目は、俺は何もしてないぞ。
「しらね~よ。だいたい、使うのは初めてだ」
鈴木は取り出されたテントの外側や内部を何度も確認し、鼻をつまんで不平を述べた。
もちろん、独りエッチで使ったなどという事実はなし、今回初めて使うのは本当だ。本当だぞ。
正直に答えたのだが、奴は疑惑の視線を向けてきた。しかし、何を思ったのかテントに手を
「う~~~~~ん! う~~~~~~~っ! う~~~~~! うぎゅ~~~~~~~ん! うがががが!」
なぜか妄想の度に、奴の言動がヤバくなっているような気がする。
「そいや~~~~!」
お前は一世風靡セ○アか! なんじゃ、その掛け声は!
直視できないほどの発光が止むと、そこには、代わり映えのしない――いや、恐ろしく変化したテントがあった。
大きさや形はそのままだが、その見た目は大きく変化していた。痛い……痛い痛い痛い。
そう、なんの変哲もないテントをアニメのキャラクターが描かれた痛テントに変えやがった。
やっぱりやりやがったな、このバカちん。先に釘を刺しとけばよかった。やるなら、せめて迷彩とかにしろよな。
「あれ? あれ? あれ?」
混乱する鈴木。なぜかあたふたとしている。
もしかすると、自分でも痛いテントにするつもりではなかったのかもしれない。
だが、テントのどてっ腹には、デカデカとアニメキャラが描かれている。
いや、ある意味でこれは本能なのかもしれん。その方がかなりヤバいな。
「おい、こんなの恥ずかしくて取り出せないから、せめて迷彩とかに変更してくれ」
「お、おかしいです。普通の柄にしたはずが……」
そもそも、柄なんて要らんだろ。根本から間違えてるぞ!
想定外の事象に、本人も戸惑っていたものの、テントは無事に迷彩色になった。ただ、何を血迷ったのか、デジタル迷彩だ。ちょっとモザイクっぽい。
だが、問題は外見だけではない。だって、奴が妄想し、錬成したのだ。テント自体が規格外になっているはずだ。
外見が少しばかり真面になったところで、いよいよ本題に入る。
みんなで中を覗くと、中は二十畳くらいありそうなリビングだった。
すげ~~~~! 妄想錬成最強伝説じゃね? 実は、お前が主人公だろう!?
「どうですか? さあ、入ってください」
先に入った鈴木が手を広げている。
どうですかと問いつつも、かなり自慢げだ。
この場合、それも仕方ないだろう。なんてったって、テントの中は4LDKの間取りでトイレ、バス付きになってしいたからだ。
でも、どうしても気になることがある。
なんで玄関がある?
出入りする場所は、テントの入口が直接リビングに繋がっているし、玄関は要らないはずだ。
試しに玄関のドアを開けようとしてみたが、ピクリとも動かなかった。
その後も各部屋を確認してみたのだが、もっと気になることが思い浮かんだ。トイレは水洗で、台所には流行りのお洒落な
この水達は、どこから現れてどこに行くのだろうか。それにお湯がでるし、室内照明も問題なく点灯する。このエネルギーはどこから?
「鈴木、この部屋の光熱給排水の原理を教えてくれ」
「う~~~~~ん、分かりません。私はお湯が出たり、排水が流れたり、照明が点灯するのを妄想しただけなので……」
「それと、素材はテントのはずだが、この内装の素材はどこからきたんだ?」
「わかりません。私は妄想しただけです」
「じゃ~、最後に、所々で目に付くアニキャラなんだ?」
「うぐっ……」
「お前って――」
「違います!」
オタク認定してやろうと思ったら、上から被せて否定しやがった。
まあいい。このバカちんの二次元族は決定した。
それよりも、この妄想錬成のことだ。目にしたことから分析すると、外側には素材が必要だが、内部や機能、能力、原理についてはブラックボックスで、なんでもありだと思う。そうでないと、全く以て説明がつかん。
これって、もはやチートすら軽く超えて、神域だよな? 間違いなく創造神だよな?
ただただ驚くばかりだが、最後に、このテントの欠点を見つけた。それは、この部屋の中は、俺のマップが機能しないということだ。
ということは、俺自身はこのテントを使用する機会がないということになる。ダメじゃん。最悪じゃんか。
これを使う時は野外だろうし、そうなると、索敵をする必要がある。結論として、俺がこのテントを使うことはない。
俺にとっては、何とも無意味な高級アイテムなわけだ。まあ、風呂とトイレは使えるけどな。
この後、テントから出て、中にいる鈴木に電話をしてみたのだが、普通に通じた。恐らく、鈴木の妄想の中には、電話をすることが含まれていたのだろう。今度、時間がある時にマップを確認する妄想も追加してもらうことにしよう。
こうして、鈴木はテントの中で休み、なぜかラティは俺の膝の上で休んで、次の日を迎えることになった。
因みに、行きに盗賊を討伐したお蔭か、この夜は盗賊のとの字も現れなかった。それだけでも、討伐した甲斐があったというものだ。
翌日の朝から、鈴木は荷車に妄想錬成を掛けていたのだが、荷車が二メートルを超えていた所為か、発光すらしなかった。
さすがに無理だろうと思ったのだが、鈴木は諦めなかった。
その根性だけは認めてやる。なんて思ったのだが、なんと、車輪に妄想錬成を掛けて、衝撃吸収車輪にしてしまったのだ。俺的には衝撃吸収の車輪って、柔らかくなって走り辛くなるのでは? と思ったのだが、触ってみると硬いままだった。
それについて、鈴木曰く。
「軽量、硬質、原型維持、無音、衝撃吸収を妄想しました」
なんて都合のよい固有能力だ。これって衝撃吸収じゃなくて、矛盾すら吸収してるよな?やはり、鈴木、お前が最強伝説なんだな! ちっ、つまんね~。
少しばかり不満を抱く俺と、乗り心地に満足している鈴木を乗せた荷馬車がひた走る。もちろん、馬車を引いているのは、黒馬姿のラティだ。
衝撃を吸収する所為で、ゴトゴトと揺れなくなった荷車をラティは気持ち良さそうに引いている。
乗り心地が良くなった馬車を、ラティがのんびり引いている。
時々、尻尾でハエを叩き落としているのが印象的だ。
現在は、陽もかなり高くなり、爆走する訳にもいかないので、普通の馬車と同じペースで走らせている。
時刻はというと、正午というところだ。そして、鈴木が口を開いたのは、そろそろ食事にしようかと言いかけた時だった。
「そろそろ飯に――」
「柏木君、お願いがあるんですが」
「なんだ?」
「色々な素材が欲しいのですが――」
長々と説明された話の内容は、これから色々な物を作りたい。それは自分のための物あれば、仲間のための物もあり、ゆくゆくは、この世界に役立つ物を作りたいとのことだった。
おそろしく壮大な話だが、色々な素材が必要なのは納得できる。
「それで、まずは、何を作る気なんだ?」
「始めは自分自身が使う武器になるかと思います。その次にバイクや車を作りたいです。この荷馬車はラティさんが引いているし、もっと自由に使える移動手段が欲しいですよね」
「確かにそうだな」
確かに、俺にはワープとかあるが、現在は二か所であり、用事を済ませて戻ることを考えると、一カ所は必ず拠点に設置する必要がある。だから、現在はドロアの借家とエルザの女子寮の二カ所にしか設置できない。
「分かった。ドロアに着いたら、何とかしてみよう」
「ありがとう」
鈴木は素直に礼を述べるが、そこで気になったことを口にする。
「お前のその口調だけど、もっと普通に話しても構わないんだぞ」
「男子とあまり話したことがなくて……なので、あまり気にしないでください」
「まあ、お前が無理をしてないなら、それで構わんが――」
「はい。特に無理をしているわけではないです」
「わかった」
こうしてドロアへ戻る間、鈴木との
何事もなくドロアに戻ってきた。
見慣れた門を潜り、屋敷の玄関の扉を開いて中に入る。
もちろん、鈴木にとっては初見だ。
「これ、柏木君の家ですか?」
「いや、借家だ」
「凄い家賃になりそうですね」
鈴木はあまりにも立派な借家に驚いているようだ。
「お帰りなさいピョン。遅かったですピョン。何かあったピョン?」
中に入ると、家事をしていたアレットがピョンピョンとやってきた。
ああ、跳ねながらやって来たわけではない。
「うは~、ウサ耳だ~~!」
借家の時より驚いている。というより、恐ろしく感激している。
まあ、これに関しては、地球人なら誰でも感動するはずだ。
「こちらが、エルザ様から連絡のあった女の子ですかピョン?」
「そうだ。こっちは鈴木綾香――アヤカだ。仲良くしてやってくれ」
アレットに鈴木を紹介する。
「アヤカです。よろしく願いします」
鈴木は自分の名前を名乗ると、ペコリと頭を下げた。
「アレットピョン、よろしくピョン」
アレットがニコニコしながら挨拶を返すのだが、相変わらず紛らわしい語尾だ。
「あ、あ、あの~、失礼なのは分かってます。その耳と尻尾って本物ですか?」
どうやら、鈴木は獣人を見たことがなかったのだろう。確かにロマールではあまり見かけなかった。
「本物ピョン? 触ってみるピョン?」
アレットが頷き、追加で触る許可もだした。
くそっ、俺だって触ったことないのに……
「いいの? いいの? いいの?」
ダメ! ダメ! ダメ! 俺のうさ耳だぞ!
鈴木が壊れはじめた。いや、俺も壊れそうだ。
やはり、二次元族にとっての動物耳や尻尾は、一般人と違って価値が高いのだろう。
なにしろ、「この子達を守るためなら、大虐殺でも許容します」とか言いながら、好き放題にモフっている。
溜息を吐きつつ――少し羨ましいと思いつつ、鈴木とアレットを置いてリビングに向かう。さすがに疲れたのでゆっくりしたい。
ソファーで横になっていると、行き成りラティがお腹の上にダイブしてくる。
ぐふっ、勢いがあり過ぎて吐くかと思った。
「えへへへ」
なぜか、ラティは満面の笑みで喜んでいる。そんな彼女を見てしまうと、行き成りダイブした行為に「めっ!」とも言えない。いや、それ以前に、労ってやるべきだ。
「ラティ、お疲れさま。いつもありがとうな」
「うん」
頭を撫でながら感謝の言葉を口にすると、彼女は嬉しそうに頷く。ほんと、最高に可愛い奴だ。
いつまでもラティの頭を撫でながら、ソファーに寝そべったままマップを確認する。
どうやら、アレットしか居ないようだ。
他の五人はダンジョンにでも行っているのだろう。時間的にそろそろ戻ってくる頃かもしれない。
「お~い! いい加減にして、屋敷の中を案内してやってくれ」
「分かりましたピョン」
あれ? なんか忘れてないか? ん~、思い出せん……大事なことだったような気がするが……
何か大切なことを忘れているような気がした時だった。戦闘班が帰ってきた。
「ただいまニャ! あ、帰ってきてたニャ、ニャンて、ラティニャ、ずるいニャ」
帰宅の挨拶もそこそこに、ロココは腹上のラティを見てヤキモチを全開にする。
「「「「ただいま~」」」」
「お帰り~」
「お帰りっちゃ。ロココだめっちゃ」
他の面子と帰宅の挨拶を交わしているのだが、その間も腹の上では、ラティとロココが陣取り合戦を始めている。
帰宅したのは良いが、全く落ち着かない。
「思ったより帰りが遅かったのですが、どうでしたか、ロマールは」
この中では古株となるマルセルが笑顔で問いかけてくる。
「う~~~ん、エルザが約束を破って無双してやがった。だから、ちょっと危なっかしいんで、レベル上げしてたら帰りが遅れたんだ」
「そうですか、あの方なら……まあ、仕方ないですね」
遅れた理由を正直に話すと、マルセルが然も分かっていますと言いたげに頷いた。
「ん? 何か知ってるのか?」
「い、いえ、ただ、領内では、わりと有名で……」
なにやらエルザの情報持っていそうだったが、マルセルは困った表情で言葉を濁した。おそらく、エルザの奴、領内でもヤンチャで有名なのだろう。
「ところで、保護された女性は?」
マルセルの横に立ったクリスが、ロマールに行った根本原因について尋ねてくる。
「ああ、連れて帰ったぞ。今、屋敷の中を案内させてる」
「仲良くできそうな人ですか?」
クリスに頷くと、ルミアがとても気にしている。
「多分な」
これにはあまり自信はない。まあ、それほど問題も起きないだろう。
そんなことを考えていると、アレットと鈴木がリビングにやってきた。
その途端だった。今まででラティと争っていたロココの動きが止まった。
「す、す……」
ロココは何か言いたそうにしていたが、その言葉を飲み込んで、念話に切り替えてきた。
『ニャンで、鈴木ニャン!』
そうか、このことを忘れていたんだ。
ロココは怪しむように鈴木を見詰めている。当然ながら、鈴木の方はといえば、ロココが磯崎だと知らない。
磯崎としては、鈴木に思うところがあるのだろう。恐ろしく警戒している。
『まあ、言わなければ分からないんだから、どう対応するかは、お前に任せる』
『分かったニャ』
ロココは頷きながら一言だけ返してきたのだが、その後も鈴木に近付くことはなかった。
その状況からして、もう一波乱は起こりそうだと、頭を悩ませることになる。
話は代わるが、実のところ忘れていたことは、それだけではなかった。固有能力の試験のために、ドロアに戻りしだいロマールにワープするつもりだったのだ。
ただ、それを思い出したのが運の尽きだった。
慌ててドロアにワープポイントを設置し、ロマールにワープで移動したのだが、そこには、パンティに片足を通した状態で固まるエルザがいた。
まあ、俺も男だし、悪い気分ではない。ただ、もう少し育って欲しいというのが正直な気持ちだ。
だが、そんな悠長なことを考えている余裕はないみたいだ。
「なにガン見しているのよ。バカ! ヘンタイ! スケベ! 一度、死になさい!」
こうしてドロアに帰還した早々、なぜかロマールで頬に紅葉の痕をつけてDOGEZAをするのだった。
因みに、エルザがツルツルだったなんて……見てないんだからね!
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