ぴったり

 海外研修から帰ってきた彼の横には、知らない女がぴったりとくっついていた。女は彼と腕を組み、彼の手はあろうことか女の腰に回されている。


「ちょっと、離れなさいよ」


 むっとした私の言葉に反応して、女は私の横に来て腕をつかんできた。


「なに、こいつ?」


「きみにも見えるのか」


 やつれた顔で彼は言う。


「向こうで厄介なものに取り憑かれてしまったんだ。すまない。でもおかげで楽になったよ」


 女は私にぐっと体を寄せ、顔を近づけてくる。その口は不気味な笑みの形に歪められていた。


「ひっ」


「ああ、ちゃんと腰のところに手を当てて支えてあげないと」


 私の首に手を回してくる女が気持ち悪くて、彼の注意はあまり耳に入っていなかった。


「そうして、ぴったりくっつけておかなくちゃ」


 何を、と聞き返す前に、女の下半身がずるりと滑り落ち、私の体には上半身だけとなった女がぶら下がる形になった。

 女は耳元でささやく。


「あなたの体は抱き心地がいいわね。ねえ、私たちの相性ってぴったりだと思わない?」


 思わない。

 その証拠に、大量の冷や汗で服が私の肌にぴったりと張りついていた。

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