ゲーム二年目

神の啓示

 二〇九八年 一月一日 零時


 一年前と同じ、全情報ルートがハッキングを受けてのジャックが世界中で起った。


 一年越しながら二度目となった今、これをイタズラだと思う者は一人としていなくなる。


 神は組んでいる脚に頬杖をついて画面を覗き、仮面の奥で高い声と低い声を同時に放つ。相変わらずの気持ち悪い声に、TVを見ている参加者達は嫌気が差した。


『全国のみなさん、あけましおめでとう。二〇九八年も、神捜索ゲームは続く。人類滅亡までのあと二年、悔いのないように過ごしてくれ』


 病院一階の待合室についているTVの目の前に、光輝こうきあやが座る。神はまるでそれを見たかのように仮面を手で覆い、肩を上下させて笑いだした。その理由は、本人からすぐに語られる。


『今、二六人の参加者がTVの前に立った。話をスムーズに進められる』


「全員……?」


 それは間接的に、意識を取り戻した清十郎せいじゅうろうや、行方不明となってる明海あかみがどこかのTVの前にいるということである。光輝は安堵の息を漏らし、頬を一筋の涙が伝った。


「光輝くん、まだ……」


「うん……わかってる。わかってるよ」


『まず、参加者の皆に知らせたいことがある。去年一二月二四日、八景島のコンサート会場によるゲーム、あれは……引き分けにしたい』


 神は言葉を溜めると、大きな溜め息をついて話し出した。悔しそうに、言葉には少しだけ力が入っている


『我の作戦は、爆弾による混乱に紛れて逃げ切る、余裕の勝利の予定だった。あの場にいた約半数を、殺すつもりだった……が、爆弾の大半は解除され、部下に無理矢理爆破させなければ逃げられなかった……これは、ギリギリの勝利だ。我は非常に、悔しく思う』


 神が取り出したケータイのボタンを叩くと、参加者数人のケータイやアイフォンが揺れた。ケータイを左右に振って、神が語る。


『引き分けに終わらせた参加者達に、ささやかながら健闘を称えての贈り物だ。有効に使うといい……さて、ではペナルティに行こうか』


「ペナルティ?」


 TVを見ている全員が、何だ何だと周囲を見回す。神は慌てる人達を見ているのか、また余裕を取り戻したかのように落ち着き始めた。


『ゲームをより過酷にするため、そして盛り上げるため……今から、人の成長を止める』


 大きく広げた神の指が、ゆっくり順に折られていく。そして全ての指が折られたそのとき、爆音と悲鳴が全世界を――星そのものを、一時包み込んだ。


『爆破したのは、全世界の高等学校と大学校に当たる施設だ。安心しろ、教職員はどこにもいない。故に、この爆破での死傷者は誰もいないということだ。だがこれで、人の成長は止められた。参加者諸君は、学校生活に時間を欠くことなく我を探せるな』


「ざけんじゃねぇっ!」


「お、お兄さん、まだ動いちゃダメだよ」


 暴れそうになる清十郎を、両腕を大きく広げて千尋ちひろが止める。構えた拳を、清十郎は壁に叩きつけた。


「んだってんだよぉ……」


『さて、参加者諸君。これからゲームはさらに激しくなるだろう。お互い、正々堂々勝負するとしようか。そして傍観者の諸君、君達は彼らに未来を託すしかない。是非応援してくれ、この……参加者二六名を!』


 TV画面いっぱいに並ぶ、参加者全二六名の顔写真。全世界に、参加者の顔がわかってしまった。


「あぁ……あぁ……」


結衣ゆい、落ち着きなさい。大丈夫だ」


 自分の顔がTVに出て絶望しきる結衣に、結衣父が言葉をかける。だがその言葉は1つとして届かず、結衣はその場に泣き崩れた。


「Don,t Watch! Don,t Watch TV!!」


 TV画面に出ている自分の顔を押えて、ティアは泣きながら訴える。両親が止めるのも聞かず、混乱から起きる暴走に身を任せて、声を上げ続けた。


 他の参加者もこれから起きる混乱を想定して、誰一人喜べるものもいなかった。


 無論、光輝と彩の二人も例外ではない。自分達の周囲でTVを見ていた人達が、光輝たちの顔をTVのそれと見比べて、騒ぎ出す。


 彩は泣くのをグッと堪えながら、光輝の手を握りしめた。噛み締める唇から血を流しながら、光輝も彩の手を握り返す。


 全世界の混乱を見た神は、自分のいる場所の明りを徐々に消して、暗闇の中へと消えていった。


『では、二年目のゲームを楽しもう、人類諸君』




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