参加者集結《アスガルド》コンサート

「おい、涼仙りょうせん。本当に行くのか? ゲームには確かにおまえが必要かもしれないが……危険過ぎねぇか? 元警部さんにも気をつけろって言われたんだろ?」


 同僚の湯島浩ゆしまひろしから心配されるが、竹網たけあみ涼仙は部屋の窓から外を見つめ、静かに頷いた。振り返って浩に見せるのは、心配するなと語る優しい笑顔。


「確かに、私はもう歳です。他の皆さんに比べれば、動けない足手纏いのジジィでしょう。ですが、我がメールが行けと、力になれるといってくれている。力を貸してくれと言われて貸さぬほど、私は自分勝手に育ってないんですよ」


「……決めたんだな」


「えぇ」


 決意は揺るがない。涼仙の目を見れば、そんなことはすぐに分かった。他に止めるための言葉を、持ち合わせていない。


「分かった。クリスマスだったな。その日は俺とスタッフだけでやる。店のことは任せて、久し振りに走って来い!」


「……ありがとうございます」


 とある駐車場の車の中


「一二月のクリスマスコンサートに、神が来るらしい。おまえも来るか?」


 運転席でアイフォンを操作する二界道にかいどうの後ろの席で、Bメールのジャック・キャビラスがノートパソコンのキーボードに指を乱打していた。画面に度々出てくる“Errorエラー”の警告に、舌打ちを連発する。


「俺はインドア派なんだ。アウトドアはゴメンだね」


「まぁ、そう言うなよ。今回は結構おもしろくなりそうだぞ?」


「何が」


「高校生のメール所持者四人に、子供が一人。老人が一人。俺の方で分かってるだけでも、軽く六人は所持者が来る。歴代仮面ライダー全員集合より、盛り上がるだろ?」


「……確かに、おもしろそうではあるな」


 ジャックはパソコンのメール画面を開き、手短に打った文章を送信した。そしてパソコンを閉じて脚を組み、ミラーに映る二界道を見てニヤリとする。


「いいぜ、行こう」


 ジャックのメールが送られたケータイを覗き、マイク・セイラムはタオルで汗を拭いながら階段を駆け下りた。


「Hey! カナ! サヤカ!」


「何? あなたただでさえ筋トレで騒々しいんだから、声までバカデカくしないで」


「Oh、それはSorry。だがまた、Bメールから情報が入っタ」


「あら? 確かまえ、それでさやかにお友達が出来たのよね。今度は何かしら」


「カナ、マリーの件はそんな簡単な話じゃ……まぁいいわ。で?」


 マイクがメールに目を通し、音読する。ただし度々漢字が読めず、さやかが途中で奪い取った。


「一二月二四日、八景島で行われる、詩音と名乗る者のコンサートの開催が決定。そこに神も出席の情報あり……これは好機と見て、より多くの参加者に来るよう呼びかけている。是非、力を貸して欲しい……Bメール、Jより」


「八景島? それはどこダ?」


「神奈川県の、横浜っていうところにある大きな島よ。水族館や遊園地があって、確か何年も前、その遊園地の一部がコンサートドームになったって」


「本当? カナ」


 カナが頷く。さやかはマイクにケータイを返すと、その胸を拳で小突いた。


「マイク、行ってくれる? 八景島」


「構わナイ。だが、俺だけでいいのカ?」


「あなたはカナと私を助けてくれた。私、実際は外人苦手だけど、あなただけは信用できる。だから任せてもいい。それに、私まで行ったら、カナが一人になる――」


「あら、じゃあ私も行けばいいのね?」


 カナの発言に、二人は驚いて固まった。テーブルの上のケータイを手探りで見つけ、握り締めたカナがニコッと笑う。


「私が行けば、さやかもマイクと行動できるでしょう?」


「で、でもそれじゃあ外でカナを一人に……」


「なら、三人で動けばいいじゃない。マイクなら、私を背負いながら動けるでしょう?」


「ま、まぁ……可能だが」


「マイク!」


「じゃあ決まりね! 動き易い服にしないと。フフッ!」


 その気になってしまったカナは意外と頑固だ。今まで折れたことは一度もない。連れて行くしかないと、二人は諦めた。


「コンサート? そこに神様が出るってんすか?」


 大きく膨らんだリュックを降ろし、青峰正大あおみねまさひろは一人の男からコンサートの話を聞いていた。


「すでに十名以上の参加者が、そこに行くことを決めています。参加者は多い方が、神を捕らえられる確率が上がると思いますが?」


「……そうっすね、分かりました。俺も行こう。怪我人が出たら大変だ」


「そう……よかったです」


「そういえば、あなた誰――」


 リュックを持ち上げた正大のまえから、その人は忽然と消えた。周囲を見渡すが、その姿はどこにもない。


「どこ行った? あの白い人」


 大阪 とある路地裏


『一二月二四日のコンサートに神参加。神奈川県横浜、八景島に向かえ』


「ついに出るか……神は、俺が殺す」


 鮮血を流すそのナイフを握り、テイラ・ガンバーグは路地裏を抜けていった。


 神奈川県 八景島シーホール


 海上に浮かぶコンサートホールには、約七万の観客が入る。その中央に、歌手が立つ大きなステージ。誰もいないそのステージに一人の人影が立ち、両腕を大きく広げて空を仰いだ。


「潮の香りがする……少し辛いが、命の母――神の子の匂いだ」


「神様」


「ゼウス、Lメールには教えてくれたかい?」


 神の背後に立ったゼウスが頷く。神はそれを見てもいないのに、口角をグッと持ち上げて笑みを浮べた。


「このコンサートは、このゲームの前哨戦ぜんしょうせんになるだろう。きっと多くの死傷者が出る。彼の力は、必要不可欠なんだ。参加者を死なせないためにもね」


 神が指をパチンと鳴らすと、周囲の照明がステージに立つ二人を照らした。


「この一年、参加者達がどこまでメール我が力を使いこなせるようになったか見よう。ゼウス、ポセイドン、アテナ、アレス。全力で相手しなさい」


 名前を呼ばれた他の三人が、ステージに飛び移る。ポセイドンは神にも構うことなく、咆哮を響かせた。


「前哨戦にしては結構本気だなぁ神様! ここは俺とアテナだけで十分だってのに!」


「いや。今回は全二六人中、一三人が来る。油断してると、簡単に見つかってしまうかもしれないんだ。だからポセイドン、そのやる気は保っててくれ。アレスは、その刀を参加者達に向けるように」


 ポセイドンを睨み、刀を抜いていたアレスが刀を納める。二人の間にいたアテナはホッと胸を撫で下ろした。


「さぁ、いうところの中ボス戦はキリスト生誕を祝う神聖な日だ。“歌姫”詩音しおんには、存分にBGMとなる鎮魂歌レクイエムを歌ってもらおう。参加者集結アスガルドコンサート、実に楽しみだ」


 再び唸るポセイドンの咆哮が、会場全体に轟き渡った。



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