強くならなきゃ
「今回は借りが出来たなお前ら。おいガキ、お前も礼を言え」
横浜の病室。腹に包帯を巻いた
小さな声でありがとうと言った千尋の背に合うようしゃがんで、
「無事でよかったよね、千尋くん」
千尋は頷き、笑みで返す。どうやら彩とは気が合うようで、その後二人で病室を出て行った。残された光輝は椅子を部屋の隅から取り出し、清十郎のベッドの側に座る。
「肋骨を三本も折ったってね……ごめん」
「は? てめぇが何をした? てめぇのせいじゃねぇんだから、気にすんじゃねぇ」
「……ありがとう」
鼻をフンと鳴らし、清十郎は窓の方に視線を変えて雲一つない青空を見つめた。
「眠いな、同類」
「何だかんだで、昨日は君を病院に送ったりして大変だったから」
「へっ! そりゃ、すいませんでした!」
清十郎と同じ窓から、光輝は少しだけ顎を上げて空を見つめる。太陽が間逆の位置にあるので日光は感じられなかったが、青々とした空が今を朝だと教えていた。
しばらく二人で空を見つめ、沈黙が続く。その沈黙を破ったのは、清十郎が話を始めるまえにした咳払い。
「同類よぉ。神の野郎には、あんなイカレた部下が何人もいるんだな」
「うん。少なくとも、二人はいる」
植物園でまえに会った、ゼウスと名乗った男を光輝は思い出していた。ふと見下ろした視界に入った拳がかすかに震えている。
今回のポセイドンといいゼウスといい、神の部下は異常な強さを持った連中ばかり。他に何人もいると思うと、不安すら感じた。
「あのイカレ殺人鬼みたいに、強くなっておかないといけねぇ……」
気持ちがまったくこもっていない返事を光輝が返すと、清十郎は軽く拳を突き出して光輝の胸を叩いた。
「安心しろ、同類。お前は俺みてぇに、腕っ節でどうにかするタイプじゃねぇだろ。だから腕っ節の方は俺に任せろ」
それだけ言って、清十郎はすぐに寝息を立ててしまった。光輝も安堵に包まれ、震えの止まった手を掴んでそっと眠気に身を任せて座ったまま寝てしまった。
「何だ、寝ちゃったのかい?」
病室に戻ってきた彩は千尋を連れ、病室へと戻ってきた。足音を立てぬようこっそりと光輝の隣に来て、寝顔をジッと見つめる。
「……お疲れ。僕は電車で寝るとするよ」
「お姉さん?」
「千尋くん。お兄さん達、寝かせてあげようか」
そう言って千尋と一緒に、彩は戻ってきたばかりの病室から出て行った。
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