第119話イツキの興味
「確かにそれも考えました。でも、こんな極悪非道な悪党ですよ。洗いざらい世間に過去の悪事をぶちまけたらどうなりますか? 間違いなく罪の償いをさせられるでしょう。そうなると僕が酷い目に遭うじゃないですか? 死刑になってもおかしくないクズですよ。僕は身に覚えのない他人の罪を敢えて被りたくはないです」
クラウスは憤ったように言った。
「確かに……」
とイツキは頷いた。
そして続けて
「……って、『クラウス・フォン・ノイマン』が今までどんなことをしてきたか気になりますな」
と聞いた。
同情はするが興味も湧いた。いや、彼が転生してきたと聞いた時から興味津々だった。『クラウス・フォン・ノイマン』の悪名は知っていたが、しっぽをつかませない彼の用心深さがその悪事を噂の域から脱することを阻んでいた。
「いや、だからそれは勘弁してください。ちょっと怖すぎて言えません」
「それは残念です。また死んでもいいと思ったら教えてください」
イツキは残念そうに言った。
「絶対になりませんよ。そんな気持ちには」
「そうですか? それは残念です」
本当にイツキは残念だったようだ。案外この男は人のうわさ話が好きなのかもしれない。
「で、転生したけど、今更どうしようも無いので『クラウス・フォン・ノイマン』の人格をそのまま維持継続すると?」
イツキは思い出したように話題を元に戻した。
「いえいえ。それだけは絶対に嫌です。このまま悪逆非道な人生を受け継ぐ気は全く無いですし……」
クラウスは首を激しく横に振った。
「ふむ。それは止めた方がいいですな。世の中のためにも賢明な判断です……」
「だからと言って『今日から僕真面目に品行方正になります』なんて誰が信用します?」
「はは……今更、誰も信用しませんねえ……」
と言いながらイツキは鼻で笑った。
「そもそも今ここにいる『クラウス・フォン・ノイマン』は『西口明』が転生してきた別人格で、本人はすでに死んでいるなんて誰が信じますか?」
クラウスは訴えかけるようにイツキに言った。
「まあ、死にかけたおかげで頭がおかしくなったとしか思われませんね。そう言う話は転移転生者以外は信じないでしょうね。この話は他の誰かに?」
イツキは改めて確認するように聞いた。
「誰にも言ってません。極悪非道の上に頭までおかしくなったと思われたくはないですからね」
クラウスは首を軽く振って否定した。
「それもそうですな」
「ところでイツキさんは他の転移転生者を知っていますか?」
唐突にクラウスは聞いてきた。
「知っていますよ。腐るほど……それが?」
「僕みたいなパターンは?」
「似たようなのはありますが、ここまで酷い鬼畜な人間に転生した例は知りません」
「鬼畜ですか……そうですよねえ……やっぱり……こんな人間に転生するような奴は他にはいないですよねえ」
とクラウスは諦めたように肩を落とした。
「う~ん。それではほとぼりが冷めるまで冒険の旅に出てみますか?」
「冒険ですか?」
「そう。クラウスと付き合いのある悪党連中とパーティーでも組んで魔獣と戦うのですがどうですか?」
「あんな連中と一瞬たりとも一緒に居たくないです……というか、あいつらと一緒に居てクラウスの仮面を被り通す自信が無いです」
「まあ、そうでしょうな。転生した事がばれたら即消されるか、立場が逆転していいように利用されるかのどちらかでしょうなぁ……」
とイツキは緊張感のない声で答えた。
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