第111話知り合い



「その歳で卒業だという事は飛び級で進学してますね」

イツキは話題を変えて聞いた。


「はい。そうです」


「であれば二年ほど冒険に出てから研究科に進むという手もありますね」


「はい」


「しかし、それには一つ問題があります」


「やはり傍流になるという事ですか?」


「いえ、そうではないです。傍流になるかどうかは家柄も若干関係がありますが、実はその本人の能力の問題もあります。だからそう言う事ではなく、残念ながらそもそも戦うべきモンスターが居ないのです」


「え?」


「今、この世界には何故だか転移転生してくる異界の人間が多いのです。何かの流行か? と思うぐらいに」

イツキはうんざりとした表情で言った。


「転移者に聞くと『前居た世界では転生物の小説やアニメや漫画が流行っていた』とか言ってました。そのせいかどうかは分かりませんが、兎に角、異世界から奴らは沢山やって来ます。本当に多すぎます。そのおかげでモンスターが駆逐されてしまったのです」


「そうなんですか?」


「君もこの頃モンスターの数が減ったとは思いませんか?」


「そうですね。それは感じています。でも原因がそういう理由だとは知りませんでした」

と彼女は答えた。


「その辺に石を投げたら転移者に当たるぐらい居ますよ」

とイツキは鼻で笑いながら言った。


「イツキさんも転移者ですか?」


「そうです。多分僕が最初の転移者でしょう」


「へぇ、そうなんですね」

とクロエ・フローレスは感心したように何度も頷いた。


「さて、話を戻しましょう」

 イツキは話題を戻した。このまま話し込んでしまうと彼女の好奇心を満足させるまで、自分の体験を延々と語らせられるのを危惧したからだ。

この場合、話題を変えたのは賢明な判断だと言えた。まさに彼女はその話の続きを聞きたそうな表情をしていた。


 その時、イツキの事務所の扉が勢いよく開いた。


「イツキィ!!! 居るかぁ!!」

と大きな声が部屋中に響いた。


入ってきたのは大召喚士モモガの孫アレットだった。


「騒がしいぞ、アレット。今は来客中だ」

とイツキは静かにアレットを諫めた。


「あ、ごめんなさい」

とアレットが扉を閉めて出て行こうとした瞬間、クロエが

「アレット!?」

と名前を呼んだ。


 急に名前を呼ばれたアレットは怪訝な顔をして、声の主の顔を確かめるようにまじまじと見つめた。

が、突然目を見開いたかと思うと

「だぁ!!クロエ!! なんであんたがここにいるの?」

と更に大きな声で叫んだ。


 イツキは耳に指を突っ込んだ格好で

「なんだ? 二人は知り合いだったのか?」

と聞いた。


「うん。クロエは私と同級生だよ。とってもまじめな良い子だよ」

とアレットはクロエに抱きつきながら答えた。

「クロエは魔法科で私は召喚科なんだけど、年度の首席表彰で一緒になってから、よく話をするようになったんだ」


「そうか。という事は来年二人揃って飛び級で卒業って事か……」

とイツキは呟いた。


「そうだよ。でも私はほとんど学校に行っていないけどね」


「そうだったな。もうアレットは転職してしまったからな。召喚士ではないしな」


「え?そうなの? アレット?」

驚いたようにクロエがアレットに聞いた。


「うん。そうだよ。だってあの学校でもう学ぶ事はないっておばあちゃんが言ってたしね。だから卒業までヒマだから、体力をつけるためにも転職したの」

と言って自慢の武者姿をクロエに見せびらかした。


「だから、学校でこの頃姿を見かけなかったんだね」


「そう言う事。学校に行っても仕方ない」

と言ってアレットは笑った。

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