第109話迷い
「君は戦いに役に立つ魔法を極めたいのかな?」
とイツキは聞いた。
「どちらかというと、戦いにおいて仲間を守る魔法に興味があります」
「白魔法系だね。それは」
「はい、そうなります」
イツキはまた成績証明書に目を落した。
そこにも彼女の適正は白魔法にあると書かれてあったが、攻撃系の魔法でも十分トップクラスの成績であった。
「だから、一度は冒険者と一緒に世界を旅して鍛えても良いのかなとか考えたりもしています」
「ふむ。では何故そうしないのかな?」
イツキからの質問を彼女が責められているのではないかと勘違いしない様に、イツキは優しく聞いた。
クロエ・フローレスは少し考えてから、意を決したように口を開いた。
「一度、冒険者達として世界を回ると、研究室では傍流になると言われたからです」
「傍流になるのは嫌なのかな?」
「分かりません。冒険者になると本当に傍流になるのか……それは噂に過ぎないのか……分かりません。もしそれが事実だとしても、だからと言って研究室に残って机の上でいくら考えても新しい何かは生まれるとも思えません」
彼女はまだ迷っているようだった。明晰な頭脳を持った彼女ではあったが、その頭脳をもってしても結論を出すには経験と情報が少なすぎた。
「なるほど……言わんとする事はよく分かりました」
イツキは彼女の瞳をまっすぐ見つめて考えていた。
――まだ十六歳だからな。仕方ないな――
と思いながら彼女の話を聞いていたが、それと同時に
――でもこういうタイプは、一度は現場に放り込んでみるのが一番なんだよなぁ。間違いなく実践で伸びるタイプだ。その上、平民上がりの彼女は上昇志向も強そうだな――
とも考えていた。
「君は将来学者として大成したいのかな?」
イツキはじっと見つめたまま問うた。
クロエの瞳に戸惑いの色が浮かんだ。
しかしそれは一瞬だった。
注意深く彼女の表情を見つめていたイツキだから、その戸惑いに気づいたともいえる。
「正直に言うとそれもあります。私は貴族の出ではありません。そこそこ裕福ではありますが商人の娘です。好きな魔法を研究して学者として生きていきたいという願望はあります。でも、新しい魔法を生み出す事にも興味があります。魔獣と戦う時のセオリー魔法の研究もしてみたいし、冒険者がより安全に戦える防御魔法も生み出したいです」
「君の言う事は良く分かる。今の君ぐらいの歳の人間……そう若者には将来を選ぶ特権が与えられている。だから学者だろうが冒険者だろうがなんでも選べる。しかも君は頭が良すぎるようだ。行動するより先に結論が見えてしまっているようだね」
クロエは黙ったままイツキの瞳を見つめていた。
「ここに来る前にも相当考えたのではないかな?」
イツキが尋ねると
「はい。悩みました。ここに来ることは全く考えていなかったのですが、担当教官に相談したら『ギルドに行ってキャリアコンサルタントのイツキに相談してみなさい』と勧められました」
と彼女は答えた。
「ほほぉ……教官がねえ……わざわざ僕の所へなんか行けって……その酔狂な教官の名前は?」
「はい。ローラ・ブルー先生です」
「え?!!……今何って言った!!」
とイツキは思わず大きな声で聞き返した。
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