第104話シューが告げた情報

「それもそうだな」

イツキは空になったグラスにワインを注ぎながら言った。


「そう言う事だ。兎に角、しばらくは大人しくしておく事にした」


「本気か?」

イツキはシューの目をじっと見つめて聞いた。


「ああ、本気だ」

シューも目をそらさずに答えた。


「そうか」

そう言うとイツキは自分のグラスにもワインを注いだ。


「第一、国王にまだ会っていない」


「そうなのか?」


「どっかの国の部下思いのノウキン皇子が来るっていうのに、会えるわけないだろう? タイミングも悪かった」


「そういう事か……」

そういうとイツキは苦笑いしながらワインを飲んだ。




「ところでそんなことより、もっと気になる事があるんだがな」

声を潜めてシューは言った。


「気になる事? それはなんだ?」


「まだ確証がないから何とも言えんが、魔獣どもに不穏な動きを感じる」


「不穏な動き? 不穏の塊のようなお前がそれを言うか? どういうことだ?」

イツキは身を乗り出してシューに顔を近づけた。


「それが分からん」

とシューは首を振った。


「はぁ?」

呆れたようにイツキは声を挙げながらのけ反った。


「どういって説明すれば良いのか分からん。これは俺の勘としか言いようがないのだが、どうも気になる……ここ最近、魔獣が急激に減った事はお前も知っているな」


「ああ。それでヒマになった王様どもが、他国に良からぬ事を考え始めたというのが今までの流れだろう?」

イツキは答えた。


「そうだ。ヒマつぶしに冒険者を魔王に売り飛ばす不届き者もここにいるしな」


「うるさい! あれは結構、好評なんだぞ」


「まあ、鍛冶屋や仕立て屋や道具屋になるよりはマシだろうな」

そう言うとシューはワイングラスに口をつけて喉を潤した。


「で、お前はヒマつぶしに悪党の国でも作ろうと思い立ったのか?」


「悪党ではない。傭兵だ」

シューはイツキを睨みながらそう言った。


「話を戻すが、お前は魔獣が……地域によっては昔のように増えているところがあるのを知っているか?」

シューは話を続けた。


「え?本当なのか?」

イツキは驚いたように声を上げた。持ち上げたグラスが顔の前で止まった。


「流石のイツキでも、これは知らなかったか……本当だ。今は俺たちしか知らない事実だ」

シューの本拠地があるオーデリア大陸の20%は砂漠地帯であり、それ以外にも多くの乾燥地帯もある少雨・高温の大陸だった。

シューはこの大陸の南東部にある砂漠地帯の南端。丁度海と砂漠に挟まれたような緑地にその本拠地を構えていた。

その本拠地の近くの砂漠で、他の地域に比べて異常に多いと言っていいほどの魔獣が発生していた。


「だから冒険者をスカウトに来たのか?」


「それもある。だが、めぼしい奴らはここに居なかった」

とシューは軽く首を横に振った。


「あそこにいる奴らはどうだ?」

とイツキはギルドの酒場でたむろしている冒険者を見て言った。


「ダメだな。あんな奴らが何人いたところで殺されるのがおちだ」


「そんな強い魔獣なのか?」

イツキは驚いたように聞き返した。


「そうだ。そう言うのが紛れ込んで出てくる。おおよそ魔獣がいるテリトリーは決まっているだろう?」


「ああ、決まっている」

そう言ってイツキは頷いた。


「それがRPGのルールだろ?」

ワイングラスを片手も持ったままシューは聞いた。


「この世界が本当にRPGであればな」

イツキは頷きながら答えた。

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