第103話シューとの会話
「お前ならいつでも歓迎するぞ。来るか?」
シューは薄笑いを浮かべながら聞いた。
「行くわけないだろう」
イツキは、にべもなくシューの申し出を断った。
「ふん、そう言うだろうと思っていたよ」
とシューは今度は鼻で笑った。
「もしかしてヒマそうな冒険者をスカウトに来たのか?」
そう言うとイツキはグラスを一気に飲み干して空けた。
その空いたグラスにワインを継ぎながらシューは
「ほほぉ。いい勘しているねぇ……ま、そう言う事だな」
と笑いながら言った。
それを聞いたイツキはグラスを持ったまま
「そっかぁ。本当は、ここの国王にまた何か良からぬものを売り付けに来たようだな」
と厳しい顔でシューに言った。
シューの手が止まった。彼はワインのボトルを持ったまま黙ってイツキの顔を睨みつけるように見つめていた。
「お前が適当な事を言っている時の顔が、分からないとでも思っているのか? シュー」
イツキは表情も変えずに言った。
「今度はどんな悪事を企んでいるんだ? 白状しろい!!」
「お前はどこの岡っ引きだ? 遊び人の金さんかえ?」
とシューは呆れたように言うとテーブルにボトルを静かに立てた。
「おう、この桜吹雪が目に入らぬか?」
イツキは眉間に皺をよせ、左肩をシューに向けて突き出した。
「そんなもんが目に入ったら痛いだろう」
「お前はバカか? 言葉通りに受け取るな」
とイツキはシューを見下したように言って笑った。
「分かった。隠し事は無しだ。だがスカウトは事実だ。それは本当だ。それ以外にはちょっと、ここの国王を焚きつけて、オーデリア大陸に散歩に来てもらおうと思ったのだが……」
シューは元々イツキには隠す気が無かったようだ。素直に話を始めた。
「国王は散歩がお嫌いのご様子だった……と」
イツキがシューの言葉を継いで言った。
「そうだ。この前のダークエルフに負けた事が尾を引いているようで腰が重い。お前らが余計なちょっかいをかけるから計算が狂うことになる。迷惑な話だ」
とシューは本当に迷惑そうに顔をしかめてイツキを見た。
事実、シューはこのア―チャンド国王をそそのかして、オーデリア大陸のシューたちの本拠地にアルポリ国の軍隊を派遣させようと思っていた。
そう、シューにとってここで戦争を起こす必要はなかった。ちょっとオーデリア大陸まで軍隊を派遣してくれればそれで良かった。
神経質なくせに臆病で鈍感なオージリアン国王ジン・ドーンが、それ見て勝手に恐れをなしてシューに傭兵を頼みに来てくれれば、ア―チャンド国王にはサッサとお帰り願おうと考えていた。その程度の遠征を考えていた。
ゆくゆくはシューはオージリアン国との同盟締結と同時に建国をぶち上げるつもりだった。シューにしては珍しく紳士的な方法だった。イツキはそれが気になっていたが、敢えてここではそれを指摘しなかった。
しかし国王に会うまでもなくシューはこの計画は無理だと悟った。首都に入った時点で、そんな余力も気力もないことはすぐに分かった。ダークエルフとの戦いに敗れたことは、思った以上に国民にも計り知れないショックを与えていた。
イツキはシューの狙いをすぐに理解した。もし彼がシューと行動を共にしていたら、同じことを考えていただろう。
「それは悪い事をしたな。で、ちょっかいをかけた黒幕が師匠と俺だとア―チャンド国王に言ったのか?」
イツキは薄笑いを浮かべながら言った。全く悪いとは思っていないことは明白だった。
「そんな何の得にも利益にもならない事を俺が言う訳ないだろう」
そう言うと思い出したようにグラスのワインを一気に飲んだ。
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