第100話到着

 翌朝、シラネ達自衛団はノイラー峠まで使節団を見送った。

馬上で名残惜しそうにイツキのそばから離れなかったシラネだが、使節団が峠に到着すると馬を止め馬上で敬礼して見送った。勿論シバもシラネと一緒に都に戻って行った。


「本当にシラネはイツキの事が好きなんやなぁ……」

と呆れたように馬上のカツヤが後ろを振り返りながらイツキに話しかけた。


「まあ、あいつは僕の弟子みたいなもんだからな」

イツキは軽く笑って応えたが、シラネが連れて来たシバの事が気になっていた。


「なんか気になる事でもあるんか?」

カツヤはイツキの表情のくもりに気が付いた。


「いや、何でもない……さあ、行こうか」

イツキは嫌な想像を振り払うように軽く首を振って前を見た。


 数日後、彼らは船に乗りアウトロ大陸に渡った。ここまで来ると完全にアルポリ国の勢力範囲だ。

そして更に数日後、一行はアルポリの都ツバウに到着した。


 この都は年中暑い。日差しが肌を刺すような暑さだ。


「相変わらず暑いな、ここは……」


馬上で強烈な日差しの中イツキは呟いた。


「ホンマに暑いな。早く宿舎に入って休みたいな」

カツヤが寄って来てイツキの耳元で囁いた。


「今日はもう宿舎にいけるの? 王宮に行くのは?」

とイツキはうんざりした表情でカツヤに聞いた。


 反対側からカシスがカツヤと同じようにイツキの耳元で

「今日はこのまま宿舎でしょう。私もこの埃まみれの身体を早く洗いたい」

と二人に同調するように囁いた。


「ホントだな。ノウキン皇子のお陰で最後は強行軍だったからな」

とイツキは二人を見て言った。


「ああ、まさか皇子と一緒に野宿するとは思わなかった」

カシスが激しく同意した。


「まぁねえ……。やはり一国の皇子たるもの寝る時は、ちゃんと屋根のある場所のベッドで寝て欲しいよねえ」

イツキは笑いながらカツヤに同意を求めた。


「そうそう、本当に野宿はもうええわ」

とカツヤはと同じように笑いながら言った。


「野宿と言うな。野営だ!野営!」

と後ろから声を掛けたのはヘンリーだった。


「あ、これはこれは副使様」

とイツキはおどけた表情で応えた。


「なにが副使様だ。そもそも皇子を差し置いて臣下の者が休みたいとはどういうことだ!」

眉間に皺を寄せてヘンリーがイツキ達を咎めた。


「あら? 聞いていたの?」


「当たり前だ。もっと緊張感をもって任務にあたって貰いたいもんだな」


「ヘンリー、それ本気で言っている?」

とカツヤが怪訝な顔で聞いた。


「違う違う、カツヤ。ヘンリーはこの暑さで頭をやられて自分を見失っているだけだ」

とイツキがカツヤをなだめた。


 ヘンリーはさっきまでの厳しい表情を崩して

「いや、まさか村を素通りして野宿するとは思わなかった」

と頭を掻いて笑った。

「やっぱり……って野宿じゃなく野営だろう?」

とイツキは笑った。


「あ、そうだった!」


「あんたが副使やねんから。皇子を止めてよ」

とカツヤが言った。


「無理無理。もう舞い上がってしまってダメだわ。舞い上がったノウキンは誰も止められん」

とヘンリーも諦め顔で答えた。


「ノウキンねえ……」

とイツキは呟くと


「で、ヘンリーの用件は何なの?」

とヘンリーに聞いた。



「ああ、そうだった。明日、王宮での謁見にイツキも同行するように」


「ええ? なんで?」


「イツキが護らなくて誰が皇子を護るのだ?」


「あ!」


「ご苦労さん。イツキ」

カツヤが楽しそうにイツキに声を掛けた。その後ろでカシスも笑っていた。


「何言ってるんですか? あなた方も護衛ですよ。何を呑気な事を言っているんですか?」

とヘンリーは間髪入れずに二人を睨んだ。


「え? 本当に?」


「勿論」


「俺も?」

カシスも驚いたような表情でヘンリーに聞いた。


「当たり前です」


「え~」

カシスとカツヤは声を合わせて嫌がったが、ヘンリーはそれを無視してさっさと宿舎へと去って行った。

取り残された三人はお互いの顔を見合わせるとトボトボとその後を宿舎に向かった。

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