第98話経験の差
その時シラネが口を挟んだ。
「イツキさん。一度僕が手合わせをしてみましょうか? それなら彼の強さも大体分かりますし、彼も実際の経験がどれほどの差を生むか分かるでしょうから……」
イツキはシラネの提案を聞いて少し考えていたが
「うん。そうだな。それが一番いいかもしれない」
とその意見に賛同した。
三人は宿場を出て街道沿いの原っぱまで馬に乗ってやって来た。
「ここなら相当暴れても大丈夫だろう。じゃあ……柴田君だっけ? 君の力を見せてもらおうか」
イツキはそう言うと二人にヒノキの棒を与えた。
「え?これでですか?」
柴田は驚いたように聞いてきた。
「当たり前だ。命の取り合いをするわけではないからな」
「あ、そうか。そうですよね」
柴田は少し顔を赤らめながらイツキからヒノキの棒を受け取った。
「じゃ、僕はその辺に座って見物しているよ」
イツキはそう言うと草原に腰を下ろした。
シラネと柴田輝幸はヒノキの棒を剣の代わりに対峙した。
月明かりだけだが、戦うには十分の明るさがあった。
先に攻撃を仕掛けたのはシラネだった。
シラネがヒノキの棒を軽く上段から振り下ろすと柴田は咄嗟に横に飛びのいて避けた。
「わぁ」と驚いたような声を上げて、何とかシラネの振り下ろした棒から逃れたという感じだった。
そこをシラネが薙ぎ払う様に更に棒を振り回した。
柴田は今度も「うわっ!」と声を上げて、真後ろに思いっきり飛びのいた。
すかさずシラネは突いた。まさにその柴田の動きを予想していたかのように大きく踏み込んで棒を突いた。柴田は避けきれずに胸でもろに受けた。
「うっ」と言って柴田はうずくまった。
「あ、悪い。そんなに強く入るとは思っていなかったが……大丈夫か?」
シラネは驚いて柴田の傍に駆け寄った。
「だ、大丈夫です。ちょっと避け切れませんでした」
「ま、こんなもんだろうな。これが真剣なら君は今度こそ本当に死んだな」
とイツキは言て立ち上がった。
シラネは右手を差し出した。柴田はその手を取て立ち上がった。
「どうだ? 一撃貰った感想は?」
イツキが二人の傍まで近寄って来て聞いた。
「流石だと思いましたが、僕ってチートですよね。その割にはなんか弱くないですか?」
柴田は残念そうにイツキに言った。彼にして見れはチートになった自分の力が思った以上にしょぼかったので、がっかりしてしょげ返っていた。
「だから言ったでしょ。ここにはチート持ちの転移者がいっぱいいるって。これは経験の差だよ。そう……シラネの攻撃を避けるのは良いんだが、無駄な動きが多過ぎだな。そこを突かれたんだよ。ま、相手はこう見えても正真正銘の勇者だからね」
とイツキは笑いながら言った。
「そうなんですか……」
「でもな。チートでなければシラネの攻撃を二回も避けられないよ」
「え?……」
柴田は驚いたような表情でイツキを見た。
「シラネはヒノキの棒を軽く振ってくれてはいたけれど、常人ならまず見えないよ。見えただけでも凄いのに二回も避けたからね。流石チート持ちだわ」
「そんなもんなんですか……」
今一つ納得できないような顔をした柴田だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます