第74話似た者同士
「はぁ?それってどういう事だ?」
イツキは目を剥いてモモガに詰め寄った。
「言った通りじゃ。アレットが現れるまでお主らと一緒におると言ったまでじゃ」
「止めてくれ。こっちは遊びでここにいるんじゃない。とっとと、どっかへ行ってくれ」
イツキは目の前が真っ暗になりそうだった。こんなややこしいババアが傍にいたら何もできん。
「お主は冷たい男じゃのぉ。お主がワシに泣いて頼むから召喚士にしてやったというのに……」
モモガはそう言ってイツキを睨んだ。
「嘘つけ!召喚士は条件を満たす職業を経験したらギルドで誰でも登録できるだろうが!!」
イツキは呆れ返ったように言った。
「なんだ、覚えていたのか……ちっ!」
とモモガは舌を鳴らした。
「まあ、イツキもこの婆さんに召喚獣の呼び出し方を習っただろう。その内いくつかは自分の召喚獣にもしたじゃろう……そう、無下に扱う事もあるまい」
シドが中に入ってイツキをなだめた。
「本当にシドはいつも優しいのぉ。それに比べてこの小僧は幾つになっても変わらんわ」
とまたイツキに毒づいた。
「はいはい。師匠がそう言うなら従いますよ。しかし俺はアレットの事は本当に知らないからな。俺がそそのかした訳ではないからな」
イツキの駆け出しの召喚士時代、彼はこのモモガに手ほどきを受けた。いわば召喚士ではモモガが師匠にあたる。しかしこの2人は昔からいつもこんな感じだった。
モモガと違ってシドの命令には逆らわないイツキだった。
シドにそう諭されので諦めて馬に乗ろうとしたら、魔法の杖がまた頭に飛んできた。
「今度はなんでだ!」
イツキはモモガを睨んで言った。
「お主は手綱を引いて歩け!親から貰った2本の足があるじゃろうが!」
モモガはそう言うとイツキが乗っていた馬から全く降りる気配がなかった。
「ババアは魔女でもあるんだからホウキにでも乗っていればいいのに……」
とイツキはブツブツ言いながらも手綱を取って歩き出した。
すれ違う村人たちや旅人、商人達がシドとモモガを見て語り合ったりしている。
傍から見たら賢者様と大召喚士様御一行だ。
イツキは完全に従者扱いにされてしまっている。
「なんで俺がこんな目に遭わなきゃならんのだ?……一応俺も勇者だぞぉ。あんな小汚い婆さんより絶対に俺の方が偉いに決まっている」
イツキは馬の手綱を引きながらブツブツ言っていた。
また魔法の杖がイツキの頭に飛んできた。
「こりゃ!何をいい歳こいた男がブツブツ言っておる。情けない」
イツキは頭を押さえならがら
「魔法の杖は殴るもんじゃないだろうが!もっと自分の道具には愛着を持って接しろ!」
と怒鳴った。
「いや、この杖はお主の腐った根性を叩きのめすためにあるのじゃ。覚悟しておけ」
とモモガは一向に意に介さないようだった。
「だいたいやなぁ、大召喚士様が小娘一人見つけられんくせに偉そうに言うな」
イツキはまだ抵抗を試みた。
「バカもん!ワシの孫娘だからこそ見つからんのじゃ! お主のような間抜けならどこに隠れていようとすぐに見つけ出せるわ!」
と一言で返されてしまった。何を言っても無駄の様だった。
イツキは反論するのを諦めてトボトボと手綱を引いて歩くことにした。それがこの場で彼が選ぶ手段としては最もベストだとイツキは思った。
馬上ではシドとモモガが楽しそうに話をしていた。
それを横目で聞き流しながらイツキはトボトボと歩いた。
そして一行はツーロンの村に入った。
イツキは宿屋を探し馬留に手綱を結ぶと鞍から荷物を下ろして部屋へ運んだ。
部屋に入るとまだモモガの婆さんは居た。
「どこまでついてくるんだ? 部屋ぐらい自分で取れよ」
イツキは部屋に入って振り返るとそこにまだモモガが居たので驚いた。
「ふん。誰がこんな安宿に一緒に泊まると言った。ワシは大召喚士様じゃぞ。放っておいても迎えが来るわ」
とふんぞり返って言った。
「ハイハイ。じゃあお迎えが来るまでどうぞ……それよりあの世からのお迎えの方が早いような気がするが……」
と言ったとたんに魔法の杖がイツキの頭を直撃した。
「だから痛いって言っているだろうが!このババア」
イツキはまた頭を押さえながらモモガを詰った。
「お主が余計な事を言うからじゃ」
とモモガは涼しい顔をして言った。
その時ノックの音がした。
イツキが頭を擦りながら出てみると品の良い老人が立っていた。
「こちらに大召喚士モモガ様がご一緒とお見受けいたしましたが……私この村の村長のカーネルと申します」
と言って挨拶をした。
イツキは後ろを振り返りモモガを見た。
モモガはすました顔をしてモモガが立っていた。
「おお、大召喚士様。お久しゅうございます。カーネルでございます。」
「お懐かしい。お元気でしたかのぉ、カーネル殿」
モモガはさっきまでとは打って変わって優しい声でカーネルに話しかけた。
「お陰様で長生きしております。本日は族長のイーサンが『大召喚士様がお越しなら是非お会いしたい』と申しておりますのでお迎えに上がりました」
「それはそれは……では今から参りますか。シドとイツキは後から顔を出すが良い。私の方から言っておきます」
そういうとモモガはカーネルと一緒に部屋を出て行った。
イツキは、大きなため息をついた。
「本当にあのババアだけは何を考えているのか分からん」
イツキは吐き捨てるように言った。
「本当にお主とモモガの婆さんはいいコンビじゃのぉ」
とシドは笑った。
「いいコンビ?冗談は言わないでくださいよ」
イツキは顔をしかめて言った。
シドはイツキの顔を見て笑った。
「さて、これからどうするかじゃな」
「ここの族長に会って行きますか?」
「いや、それはバカ王子にお任せしよう。先にホーリーからの伝言も届いておろう。ワシの出る幕はないだろう」
「そうですね。それにしてもバカ王子は今頃どの辺を彷徨っているんでしょうねえ」
とイツキもシドの意見に同意だった。
「まあ、北から降りてくるんじゃないか? あのタイミングなら結構、北上していたかもしれんからな」
とシドは言うとイツキを食事に誘った。
「それよりもワシは腹が減ったわ。飯でも食いに行くぞ」
「ですね。僕も余計な無駄吠えをしたので腹が減りましたわ」
とイツキは笑った。
イツキはモモガが居なくなってホッとしていた。
そしてアレットの事は完全に忘れ果てていた。というかそもそも興味がなかった。
アレットはまだ17歳だがその召喚士としての力と魔法力は、その辺の冒険者と戦っても余裕で勝てる位の実力は持っている。
流石は先祖代々召喚士を継いできた家系だけある。
なのでイツキはアレットの事は全く心配していなかった。イツキに相談するというのも家を出る口実だろうと思っていた。
2人は村の繁華街に出てレストランを見つけるとそこに入った。
観光地としても有名なこの街は、アルポリ軍の進駐で客が大幅に減ったが、アルポリ軍が居なくなった現在は観光客も徐々に戻りつつあった。
「ここの名物料理は魚料理じゃったのぉ」
シドはレストランに入って窓際の席に着くとウェイターに聞いた。
「はい。特にこの湖で取れるニジマスはお勧めです」
とタラウ族のウェイターはメニューを見せながら説明してくれた。
「じゃあ、それを貰うかのぉ……イツキはどうする?」
「僕も同じもので良いです。それとワインをデキャンタで」
「かしこまりました」
ウェイターは注文を受けるとお辞儀をして戻っていった。
イツキはなにげに窓の外を見ていた。
すると窓にへばり付く少女がいた。
イツキは何も見ていないかの如く窓から目を離し
「今のは見なかったことにしよう」と言った。
シドが
「どうしたんじゃ?」
と言って窓を見たら、そこにはイツキに無視されて鼻水を流して号泣している少女がいた。
「アレットじゃないのか?」
シドが驚いてそう言うとイツキは
「僕には何も見えませんが……」
と窓の方には目もくれずに言った。
「いや、あれはどう見てもアレットじゃろう……」
「いや、この地方特有の座敷わらしかもしれませんよ」
あくまでもその存在を認めようとしないイツキだった。
シドはヤレヤレという顔をして窓を開けた。
「どうしたアレット?」
シドが聞くと
「お腹空いだぁ……」
と泣きながらアレットは言った。
「まあ、良い。お前も一緒に食うか?」
シドがそう言うと
「うん!」
と言うが早いか窓からレストランの中に入りイツキの隣に座った。
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