第39話朝食を取りながら

ドアを閉めリビングのソファーに座ったイツキはカツヤとアシュリーに

「今からギルマスのヘンリーが来るかもしれないけど良い?」

と聞いた。


「良いよ。俺も久しぶりに会いたいし。」

とアシュリーが答えた。それを聞いてカツヤも頷いた。


「ま、その前に朝食を取ろう……マリアにお願いしたから……ってもうブランチの時間か……。」

イツキは軽く苦笑しながら言った。


「だな」

カツヤも苦笑した。




「さてと」

そういうとアシュリーは立ち上がってアンナとシラネを起こしに行った。

「起きろよ。2人とも」


2人はピクリともせずによく寝ている。


「おいこら起きろ!アシュリーが浮気しているぞ」

横からイツキが叫んだ。


「え?ほんと?」

と言ってシラネが起きた。


「なぜそこでお前は起きる?」

アシュリーは突っ込んだが

「それでも起きないアンナはどうする?」

とイツキに突っ込まれていた。


「アンナ、起きろ!」

とアシュリーがやけを起こしたように叫ぶと

「ん……ああ……もう朝か……目覚めのキスは?ダーリン。」

とアンナが薄目を開けて言った。どうやらまだ寝ぼけているようだ。


「新婚さんは熱いわ」


「毎朝、アシュリーが熱いキスで起こしているんだな、羨ましい……」


「こんな奴に近衛兵は毎日鍛えられているんだな。」

とイツキ、シラネ、カズヤが冷やかした。



「うるさい!悔しかったらお前らも結婚しろ!」

とアシュリーは叫んだ。その声でここは自宅ではないということに気がついたアンナは、飛び起きて顔を真っ赤にした。



全員が完全に目が覚めた。



またチャイムが鳴った。

ドアを開けてマリアとメイドが朝食を持ってきた。それと同時にヘンリーも一緒に入ってきた。


「なんだ、ヘンリーも一緒に来たのか?」

ヘンリーの顔を見たイツキはそう言った。


「昨日はオーフェンを退治しに行ったんじゃないのか?皆撃沈している様だか?」

「うんにゃ。先に撃沈したのはオーフェンだ……と思う」

イツキはそう言ったが自信はなかった。


「おはようございます。ギルマス。」

アシュリーがヘンリーに挨拶をした。


「おお、近衛師団長ではないか……それと副団長も……なんだシラネも居たのか。アンナも……なんだパーティの同窓会でもしていたのか?」


「そんなもんですよ。これにさっきまでジョナサンも居ましたから。」

アシュリーは笑いながら応えた。


「剣士ジョナサンかぁ。彼はどうしたの?」


「黒騎士になったよ。今日中にヘンリーに書類が回ってくると思うよ。」

今度はイツキが応えた。


「そうかぁ。ジョナサンが黒騎士かぁ。それは強そうな黒騎士が出来たな。」


「今ならまだヘナチョコだけどな」

イツキは笑いながら言った。


朝食の準備ができたようだ。

マリアとメイド達はやるべき仕事を終えると去っていった。


テーブルには5人前の朝食と1人前のランチが用意してあった。

「僕も食事を一緒に取っても良いかな?」


「良いよ。多分来ると思っていたし」


「そうだろう?イツキならそう思ってくれていると分かっていたよ。」

ヘンリーは嬉しそうに笑った。


6人はテーブルに着き食事を始めた。


「イツキには報告しておこうと思ったんだが、ちょうど具合の良い事に近衛師団長がいてくれて良かった。」


「何かあったの?」


「うむ。昨日早馬が3騎王宮に飛び込んできた。」

ヘンリーは昨晩の王宮での出来事。今朝の朝食会の話をこの場にいた5人に話した。





「成る程……で、ロンタイル三国はナロウ連合王国になる訳だ」

ヘンリーの話を聞いて、まずアシュリーが口を開いた。


「そういう事だ。」

そう応えてヘンリーはイツキを見た。

イツキは起きているのか寝ているのか良く分からない顔をして、口の中にパンを放り込んだ後目玉焼きを口に入れた。


「やっぱり、目玉焼きはサニーサードアップだな。」

と独り言のように言うと、カツヤが

「いいや。ターンオーバーでないとダメだ。」

と言い出した。

「それは焼き過ぎだろう?お前は子供か?」

とアシュリーが突っ込んだ。


「そんな事はない。お前らの舌は曲がっている。」

「いいや。カツヤ、お前の口がお子様なだけだ。」

とアシュリーが更に言い返した。


「お前ら、俺の話を聞いてなかっただろう?」

ヘンリーが3人に詰め寄った。


「いや、聞いていた。」

慌てて3人は首を激しく降った。


「国の一大事の話をしている時に何を真剣に目玉焼きの話をしているんだ。」


「あ、すまん」

3人は同時に頭を下げた。


「それに、そもそも三人とも間違っている。目玉は黄色いままの方が美味い。」

とヘンリーは同意を求めるように聞いた。


「いや、それは生と変わらん。微妙に白くなっていないとダメだ。」

今度はイツキが言い返した。


「それは違うぞ」

カツヤがまたもや息を吹き返した。


「あんた達、いつまでそのくだらない話題を続けるつもり?」

とアンナが呆れ気味にそしてキレ気味に口を開いた。


今度は4人が頭を下げた。


「話を元に戻そう。イツキ。君の予想通り銃が出てきた。シェーンハウゼン侯爵に狩人のスキルに「射撃」の追加と新しい職種「銃兵」の新設は認めてもらった。これからどうする?」

ヘンリーはまずイツキの意見が聞きたかった。


「アルポリ国の銃はマスケット銃だろうな。ヘンリーの話を聞く限りライフリングされていない。命中精度はそんなに高くない。

点火方式もマッチロックかフリントロック式だろうな。雷管までは出来ていないと思う。

なので200mも離れていれば怖くない。うちはライフル銃なので命中精度は格段に上がっている。射程距離はあちらさんより長い。それに雷管も出来たからうちは薬きょう付きの弾丸だよ。今のところ銃の性能では勝っているだろうな。」


「なので取りあえず、狩人と剣士、戦士辺りから銃兵を集めよう。できれば既に軍に所属している者が良いな。この国は基本的には兵士は国よりも貴族に所属している方が多いからね。難しいかもしれんが、なるべくアルポリ国に情報を流したくないので隠密に募集を掛け欲しい。」

イツキのこの話が理解できたのは、シラネとヘンリーだけだった。

後は銃というものを見た事も聞いた事もなかった。

だから想像すらできなかった。


「分かった。早急に何とかする。シラネのところからも何人か欲しいが出せるか?」


「それは大丈夫です。2~3日中に選別します。」

シラネはヘンリーの依頼に応えた。


「ああ、そうだシラネ。この前から言っていたように、シラネの自衛団の行動指標をモンスター退治からそろそろ治安維持という警察機能に変えよう。」

とイツキが言った。


「そうですね。アルポリの間者がもう潜入しているでしょうしね。」

シラネの返事を聞いてヘンリーもアシュリーも頷いた。


「シラネが向こうの世界を知っていてくれて助かったよ。こっちは警察も交番所も無いからな。そこから説明するのは厳しいからなぁ」


「まあ、そういう事ですね。」

シラネは笑いながら応えた。


「じゃあ、これから僕は「銃兵」に関わっていけば良いのかな?」

イツキはヘンリーに聞いた。


「それはイツキがしなくても良い。イツキには他にして貰いたい事もある。」

ヘンリーはそう応えた。


話を黙って聞いていたアシュリーがヘンリーに確認するように聞いた。

「これからは3か国が連合してアルポリに対抗するという事なんだな?」



「まあ、そういう事だが、あまりにも大っぴらにやるとアルポリを必要以上に威嚇する事にもなりかねない。この三国が連合王国になるだけでもインパクトは大きいからな」

ヘンリーは答えた。



「一緒になったからと言っても、他の2国の自治権は今まで通り認めるんでしょう?」

アシュリーは重ねて聞いた。


「そうだ。それは変わらない。ただ、落としどころが難しい。あまりアルポリを刺激したくないからな。」


「まあ、この3国の結びつきが今は強いという事は、よほど外交音痴の国でなければ分かるだろう?」

今度はイツキが口を開いた。


「そう。彼(か)の国が外交音痴かそうでないかを見極めたい。」

そう言ってヘンリーはイツキの顔を見た。


「俺にアルポリに行けと?」


「できれば」


「一人で?」


「いや、パーティを組んでもらっても良い」


「もう一度冒険者になれと?」


「まあ、形はそうなるかな……」


「気軽に言うな」

イツキは呆れてそれ以上の言葉が出てこなかったが、ヘンリーの考えをもう一度頭の中で考え直していた。


「ジョナサンが聞いたら悔しがるだろうなぁ……あいつ、またイツキと冒険したがっていたからなぁ……。」

カツヤが苦笑しながらそう言った。

「うん確かに……。でも、俺も行きたいなぁ、それなら」


「あんたは近衛があるでしょうが」

アシュリーは速攻でアンナにたしなめられて終わった。


「まあ、行くとした俺一人だな。」

イツキなりに考えた結果はこれだった。


「本気かぁ?」

カツヤが驚いたように声を上げた。


「ああ、本気だ。お前ら連れて行ったら目立つ。お前らは揃いも揃って『俺は勇者だ』って頭から看板ぶら下げているようなもんだからな。」


「そんな事は……あるかもなぁ……」

シラネが周りを見渡して言った。

「こんなのが集団で歩いたら目立って仕方ないですよ。」

シラネのその意見を聞いて皆納得していた。


「だな。」

全員が頷いた。


「イツキは名前程、顔は売れていないからな。」


「まあな、冒険者辞めてから結構経つからな。」


「やはりイツキ一人で行って貰おうか……」


「やっぱりそうなるか……ヘンリー、この頃人使い荒くないか?」

イツキは少し恨めしそうにヘンリーの顔を見た。


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