第8章 ロンタイル三国

第37話早馬

イツキ達がオーフェンの宮殿で宴会を開いてバカ騒ぎしている最中に、ナロウ国王宮には早馬が駆け込んでいた。

それらは全てカクヨ国からの早馬だった。


最初の2騎はカクヨ国にあるナロウ国の大使館からの早馬だったが、3騎目の早馬はカクヨ国の王宮からだった。

その一騎目の早馬からの報告を一番最初に聞いたのはシェーンハウゼン侯爵とキッテル公爵だった。


その早馬が到着するや、シューハウゼン侯爵はギルドに居たヘンリーを呼んだ。

急ぎ馬車に乗りヘンリーが皇宮へ到着したのは2番目の早馬が到着する前だった。


「如何いたしましたか公爵閣下。」

ヘンリーは2人がいる部屋に飛び込むと状況を聞いた。


「これを読んでみよ」


「は!」

ヘンリーはシェーンハウゼン侯爵から早馬がもたらした報告を受け取り読んだ。

そこにはロンタイル大陸の南西に海峡を挟んで隣接する大陸アウトロ大陸にある大国アルポリ国に不穏な動きがあるという事が書かれてあった。どうやらアルポリ国がカクヨ国を攻めようとしているのではないか?という知らせだった。

それはまるで街の瓦版のゴシップ記事のように噂話よりはマシな裏付けの薄い情報だった。


「これの確証は有るんですか?」


「ない」

シェーンハウゼン侯爵は苦虫を潰したような顔をして答えた。

「だから、まだ陛下にはご報告差し上げておらん。」


そこへ次の早馬が駆け込んできた。

その手には報告書と共に金属の破片が供えられていた。


報告書には「アルポリ国は新しい武器を開発した。槍よりも強く弓よりも遠くに金属の塊を飛ばせる武器。この武器を装備した部隊の存在も確認」と書いてあった。それとその飛ばした金属の塊が一緒に付けられていた。


それは直径2cmほどの丸い金属の塊だった。


「これが何か分かるか?」

シェーンハウゼン侯爵はヘンリーに聞いた。

ヘンリーはその塊を手に取り暫く見てから答えた。


「これは銃という武器の弾ですね。その武器はこの塊を2~300m先から飛ばして兵たちを倒す事が出来ます。」


「おお、そんな武器があったのか卿はそれを知っていたのか?」


「はい。イツキに聞いて知っていました。イツキのいた世界では既に武器として存在してたようです。しかし、これを作ってしまうと国同士の戦いに使う武器なので戦争を引き起こしかねない。モンスターを倒す為には必ずしも必要ではないとイツキが言ってました。」


「それが出来てしまったという訳か……」

キッテル公爵が愕然とした表情で呟いた。


「その様ですね。他の国へも異世界から転生者が来ている訳ですから、遅かれ早かれいつかは出てくるだろうとイツキは予想していました……」


「イツキはどこに居る?」


「今は魔王オーフェンの宮殿におります。」


「何をしに行ったのじゃ?」


「さぁ?魔王でも退治に行ったんではないでしょうか?」

ヘンリーはいたって冷静に応えていた。

この武器がいつか登場する事はイツキから散々聞かされていたので「やっと出たか」と言う感じだった。

それよりもヘンリーはイツキの予想が的中した事に驚き不安を感じていた。

何故ならば、この武器が登場してからのこの世界の状況はイツキが語る内容ではあまり喜ばしくない世界の始まりであったからだ。


「バカも休み休み言え。今更イツキがオーフェンを倒して何になる?それよりイツキを呼び戻して対応を協議せねばならぬのではないか?」


「イツキはその時の対応も考えております。慌てなくても大丈夫でしょう。既にうちにその銃という武器は200丁ほど作っております。イツキが万が一の時にと作っておりました。それとこの武器を持った兵士に対する対応策も考えております。」

ヘンリーは慌てることなく静かに応えた。


「おお、流石に卿とイツキだ。」

キッテル公爵とシェーンハウゼン侯爵はヘンリーの話を聞いてやっと安堵の表情を見せた。


ヘンリーは早馬が持ち込んだ弾丸をじっと見て考え込んでいたが、顔を上げて「これならイツキが何とかするでしょう」と応えた。


「やはり、この金属片は銃から打ち出された弾で間違いないでしょう。イツキがやっていた研究段階での初期型がこの弾の形と同じでした。」


「おお、そうか。」


「しかし、イツキは『この弾では命中精度が高くないし、単発なので実戦にはあまり向いてない』と言って改良しておりました。」


「なんと、ではイツキの作った銃はこの上を行くというのじゃな。」


「はい、そうです。」


「おお、それを聞いて安心した。」


「閣下、イツキが銃が現れた時に対処方に狩人のスキルに『射撃』を追加する事と、新たに『銃兵』という職種を作る事を提言しておりました。」


「狩人の『射撃』は銃兵が一人前になる前の即戦力として、少しでも早く投入できるという思惑があります。その間に『銃兵』を拡充したいという事です。」


「成る程。分かった。卿の思うように勧めるが良い。陛下には私がご説明しておこう。」

シェーンハウゼン侯爵はヘンリーの話を聞いて、即座に了解した。


「あと、イツキが申すには、召喚士や魔導士の方が今の小銃レベルなら余裕で勝てるとも申しておりましたが、モンスター退治と戦争では闘い方が全然違うのでいつかは銃に負ける事になるだろうとも申しておりました。

なのでもしアルポリが銃を作り戦争を引き起こそうとしても、経験値の高い狩人と銃兵を上手く使いながら、魔導士と召喚士でたたきつぶす戦術が有効的と思われます。

その間に銃兵の育成と銃の改良を進めていけば大丈夫でしょう。」

ヘンリーは慌てる事も焦る事もなく所見を述べた。


これまで黙って聞いていたキッテル公爵が口を開いた。

「この件に関してはイツキと相談して、卿が思うように進めるのが良いようだの。」


ヘンリーはそれを聞いて更に話を続けた。


「ありがとうございます。それでは更に、思うところを述べさせてもらいます。

もしアルポリが戦争を仕掛けるのであればカクヨ国で間違いないでしょう。それは第一が地理的要因。カクヨはアルポリの隣ですからね。それ以外の国は海峡を越えてではなく海を渡る旅になります。

何万の軍勢を率いてそれは現実的ではありません。なので戦争となれば間違いなく最初にカクヨが狙われるでしょう。

第2はカクヨの戦力です。カクヨも戦争に慣れておりませんし、その準備もしておりません。新しい武器で脅せば赤子の手をひねるも同然で落ちましょう。

そうなる前にカクヨ国から同盟の依頼が来るであろう思われます。どうされますか?」


そう言った時に新たな報告がもたらされた。


「閣下、カクヨ国の使者が火急の用で参っておりますが如何いたしますか?」

シェーンハウゼン侯爵とキッテル公爵は顔を見合わせた。


「直ぐに参る。謁見の間にまたしておれ!」

シェーンハウゼン侯爵は衛兵にそう言った。


「卿の言う通りに来よったわ。さてどうするかじゃな。」

シェーンハウゼン侯爵はヘンリーの顔を見ながら言った。


「これは陛下の御裁可を仰ぐしかないが、その前に我々がその使者の話を聞いておこう。」

キッテル公爵そういうと立ち上がって謁見の間に向かった。

シェーンハウゼン侯爵とヘンリーはその後に続いた。


謁見の間には二人の男が控えていた。


その部屋へ入る前にキッテル公爵の執事が公爵に耳打ちした。

公爵の顔色が変わった。

「なんと!カクヨ国の早馬はカクヨの皇太子だと!?」

キッテル公爵は謁見の間の扉で立ち止まって考えた。

オットー国王にもご臨席を賜ろうか?とも考えたが、やはりそれは止めた。

どういった結論を出すにしても、国王自らの言葉の重さを公爵は考えたからであった。


息を整えキッテル公爵はシェーンハウゼン侯爵とヘンリーを引き連れ、謁見の間に入って行った。


「お久しゅうございますな。コンラット殿下。」

キッテル公爵の後ろに2人を控えさせながら挨拶をした。


「おお、キッテル公爵。ご無沙汰しております。昨年の園遊会以来でございますか?」

カクヨ国皇子コンラットはキッテル公爵に近寄り、そして手を取り挨拶の言葉を返した。


「そうなりますかな。それにしても皇太子、御自(おんみずか)らの早馬とは何か由々しきことでも起きましたか?」


「いえ。そういう訳ではありませんが……ここに私が来た以上隠し立てをしても仕方ありませんから申し上げますが、今回は和平の使者として参りました。」


「和平の使者とな?」


「はい。両国の和平です。元をただせはナロウ国、テミン国。そしてカクヨ国のこの3国は一つの王国でした。

今ではロンタイル三国としてよく言われますが、始まりはナロウ王国だったわけです。

そして、王家同士の付き合いも深く、我が母もナロウ国の人間である事はご存知の通りです。

ここに我が国王からの親書を携えて参っりました。よしなに国王陛下にお取次ぎをお願いします。」


キッテル公爵はコンラッド皇太子より親書を受け取ると


「この親書は今からすぐ国王陛下にお届けするが、返事を今すぐにという訳にも行きますまい。

兎に角、お二方は連絡あるまでは事らのご用意する部屋にて骨を休めるが良かろう。」


コンラッド皇太子は何かを言おうとしたが止めた。

キッテル公爵の漂わせる雰囲気を見て、一番懸念であった返事が長引く事はあるまいと直感的に思ったのでこれ以上の口上は蛇足になると判断したようだ。


キッテル公爵はコンラッド皇太子に軽く会釈をすると退席した。それに続いてシェーンハウゼン侯爵とヘンリーも退席した。


その足で3人は国王陛下の待つ、部屋へと急いだ。

そこはいつもイツキと国王がチェスを楽しむ部屋であった。

国王は一人チェス盤を見ていた。

3人が部屋へ入ってくると国王はチェス盤から目を離し、3人の姿を認めた。



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