第20話JK黒騎士誕生

――それにしてもキースのバカに彼女を預けるのは気に食わない――


どうやらイツキはオーフェンの下にいる暗黒騎士団の師団長キースが気に入らないようだ。

――それにしてもキースのバカに彼女を預けるのは気に食わない――


どうやらイツキはオーフェンの下にいる暗黒騎士団の師団長キースが気に入らないようだ。


「大体奴は魔人軍団のくせに男前だ。いまいましい!。魔人のくせに正々堂々と勝負を挑んでくるのも腹立たしい。もっと姑息な手を使えば良いモノを……」


そう、暗黒騎士団の師団長キースは中性的な美しさを持つイケメンな黒騎士だった。

魔人には珍しいフェミニストで、逆らう者には容赦なく魔神の鉄槌を下すが、決して弱い者や女性を狩ることはしなかった。

それが人間……特に女性の間で人気が高い理由だった。

そのキースにイツキは勝った。お蔭でイツキはキースの女性ファンからのロクデナシ呼ばわりされる羽目になった。イツキはそれを未だに根に持っているようだ。


「ち!」

そう吐き捨てると、イツキは席を立ってヘンリーの部屋へ向かった。


ヘンリーは部屋に居た。

ノックをして中に入るといつものように秘書のリンダが猫耳をピクピクさせてイツキを出迎えた。

「ギルマスですか?」


「うん。今いる?」


「いますよ。少しお待ちください」

リンダはヘンリーの部屋に入るとイツキが訪れた事を告げた。

そして猫耳をピクピクさせながらイツキに

「どうぞ」

とヘンリーの部屋へ案内した。


「どうした?イツキ」

ヘンリーはそう言いながらイツキにソファーを勧めた。


「いやね。実は今さっき黒騎士志望の転生者がやってきましたよ」

ソファーに座りながらイツキは報告した。


「それは良かった。早速か」


「しかしそれが17歳の女の子。まだあっちの世界では学生なんですよねえ」


「17歳の女子学生?さっきすれ違った子かぁ?そんな幼気いたいけない女の子を騙すなんて酷いやつだな、イツキ」


「よしてくれ。本人が勝手に言い出したんだよ。僕が勧める訳がないでしょう」

イツキは手を振って否定した。


「そうなのか?」

そう言いながらヘンリーはイツキの前に座った。


「そうだよ。一晩寝て考えろとは言ったが、あれは多分変わらないだろうなぁ」

イツキは憤慨した様子で否定した。


「そうか。その場合は……」


「本人の意思を尊重するしかないでしょう」


「だな」

ヘンリーは頷くしかなかった。


「なので明日オーフェンのところへ連れて行く事になるよ」


「分かった」


「だから明日、その子が黒騎士を選んだからと言って僕の事を、極悪非道冷酷残忍とか言わないで貰いたい。それだけを言いに来た」


「案外人の目を気にするんだな」

ヘンリーは笑いながらイツキに言った。


「この件に関してはな。アンタが何言うか予想が付きますからね」


「流石だな」



「ま、どうせ教育担当はキースだろうから、ちゃんと彼が面倒は見るのでしょうけどね」


「キースってあのイケメンでキザな奴?」


「そう。」


「俺、あいつ嫌い」

ヘンリーは苦虫を潰したような顔でイツキに言った。


「オーフェンの宮殿で戦いましたか?」


「ああ。戦ったけど……あいつ強かった」


「まあ、普通の奴には勝てんでしょう。ありゃ。下手な魔王よりも強いですからね。で、こてんぱんに負けたとか?」

とイツキはヘンリーに聞いた。


「いや、負けなかったが勝てもしなかった」


「へぇ。キースと互角に戦ったんだったら大したもんですよ」

イツキはヘンリーを慰めながらもヘンリーの実力を少し認めた。


「闘いながら気障きざなセリフを連呼する。それを聞いていたら、だんだん闘う気力が失せていったわ」


「それ、分かります。あいつは戦う時も一言多いですからね。僕の場合はそれが闘志に代わって剣でガンガン殴りつけてやりましたけど」

イツキは笑いながらそう語った。


そこへリンダが猫耳をぴくぴくさせながら珈琲を持ってきた。

イツキは嬉しそうにリンダが部屋を出ていくまでその猫耳を見ていた。


「イツキ、猫耳好きだね。」


「うん。なんだか見てると癒される」


「そんなもんかねぇ……」

ヘンリーは呆れたように呟くと珈琲カップを皿ごと持ち上げて飲んだ。


「まあ、明日はオーフェンとキースに頭を下げてくるよ。どうせならごっつい男が来たら良かったのにな。だったらこんなに悩まないで放り込めたのになぁ……」


「まあ、来てしまったのは仕方ない。明日はよろしく頼むよ。ところで、その女の子は今はどうしているんだ?」


「ああ、マーサが一晩、面倒を見るって連れて帰ったよ」


「マーサか……彼女は本当に面倒見が良いな」


「うん。仕事も気が付くから、僕も助かっているよ」


「まあ、イツキの部屋に泊めるよりは安全だな」


「流石にこの歳で女子学生には手を出さんでしょう」


「何言ってるの貴族なら16歳で当たり前のように結婚しているぞ」

ヘンリーは憮然とした顔で応えた。


「え?そうだっけ」


「そうだよ」


「イツキが居た世界ではどうか知らんが、この世界は20代まで独身って貴族ではあまりないな」


「そうかぁ……ここはロリコンがOKなんだった……」


この世界では政略結婚も多く、貴族の家に生まれた女子は早く嫁に出される。なので貴族の女性の結婚適齢期は10代半ばだったりする。


イツキはそれを思い出した。

「良かった。マーサに預けて。ロクでもない奴に変な噂を流されるところだったわ」

とヘンリーに言った。


「まさか、変な噂を流すロクでもない奴とは僕の事とでも言いたいのですかな?イツキさん?」


「まさか、そんな美味しいネタをつかんで黙っていられるヘンリー閣下ではないでしょう?」





二人は顔を見合わせて笑った。





「それじゃ、僕は戻るわ。また明日」


「キースによろしく」


「はいはい」

そう言ってイツキは部屋を出て行った。

さっきまでのイライラ感が、ヘンリーとのたわいもない話とリンダの猫耳のおかげで消えた。

スッキリとした気持ちでイツキは自分の部屋へと戻っていった。






翌朝、マーサが野田美幸エリザベスを連れてイツキの部屋にやってきた。

「イツキ、おはようございます」

「おはようございます」

2人はそろってイツキに挨拶をしながら入ってきた。


「ああ、おはよう」


「エリーは昨日マーサと色々お話ししたのかな?」


「はい。一杯聞いてもらいました。」


「そうか。それは良かった。で、気持ちは変わらないかね」


「はい。変わりません。」

エリーは真っ直ぐにイツキの目を見て答えた。


「分かった。じゃあ、君は今日から黒騎士だ」

そういうとイツキは書類に野田美幸エリザベスの職種を黒騎士と記入した。


「これで、後は魔王オーフェンに眷属の受戒を受ければ終わりだ」


「マーサ、君から何かあるか?」

イツキはマーサに振り向いて聞いた。


「エリーとは約束したの。何があっても生き延びるって。そしてまたこのギルドに帰ってきてイツキのコンサルを受けて、今度はここで私と一緒に働くの」


「え?そんな約束したの?」


「はい。生き延びて強くなって私はここに帰ってきます。そしてイツキさんの秘書をします」


「いや、別に秘書にはならなくて良いけど……」


「いえ。なります。ならせてください。その為に生き残ります」


イツキは少し考えて

「分かった。じゃあ僕はその時を待っているよ」


「はい」

エリーは元気よく返事をした。

昨晩、マーサにこれまでの自分の人生を全てを語った。そしてマーサからイツキの事も聞いた。

エリーはイツキのように強く生きたいと思った。

イツキを目標にしたら何故かこの世界でも生き延びる事が出来る気がした……と言うか生きる価値を見出せそうだと思った。


彼女は心のどこかに「もうどうにでもなれ」と自暴自棄な感情があるのを分かっていた。

それもあって、毒を食らわば皿までで黒騎士を選んだのであったが、それをマーサに見透かされ、マーサの話を聞くうちに考えが変わった。


この世界にひとりでやってきたのはエリーだけではない。そして文字通り独りぼっちでやってきて生き抜いたイツキが居た事をマーサの話で知った。

そして一人で魔王オーフェンに勝負を挑んだ勇者がイツキである事を聞いた時、「やっぱり魔王の眷属になって帰って来よう」と思った。

形は違うがイツキのように魔王オーフェンといつでも会える人間となりたかった。

それが彼女が出した結論だった。


イツキは暫くエリーの瞳を見つめていたが、その瞳に迷いが無い事を確認すると

「それじゃあ、行こうか」

と言ってエリーの手を取った。


「マーサ、ちょっとオーフェンのところまで行ってくるね」

そういうとイツキとエリーの姿は煙になって消えた。


それを見送ったマーサは

「頑張ってね。そして帰ってくるのよ。エリー」

と呟いた。




エリーは霧の中にいた。

右手はしっかりとイツキの手を握っているが、イツキの姿は見えない。

「イツキさんの手って柔らかくて暖かいな」

と思っていたら急に目の前が明るくなって、知らない宮殿の大広間にイツキと立っていた。


「魔王、オーフェンは居るか?」

イツキは広間に響くような声で叫んだ。


「なんですか。イツキさん」

と副官のサルバが玉座の横の通路から出てきた。


「サルバか。黒騎士志願者を連れてきたよ」

サルバはその濁った眼でエリーの顔を食い入るように見た。


「こんな小娘を……貢物ですか?」


「違う。彼女が黒騎士志願者だ。」


「ご冗談を……その冗談は笑えませんな」


「冗談じゃないから笑わなくて良いよ」

とイツキは何故か笑いながら言った。


その時に広場に響く声で

「なんじゃ、イツキ、また地獄の温泉饅頭を持ってきてくれたのか?」

と玉座の後ろからオーフェンが現れた。


「オーフェン、残念ながら今日は持ってきてない」


「その小娘はなんじゃ?それはワシへの貢物か?ワシは小娘は食わんぞ」


「あんたらは食べる事しか考えてないのか?」

イツキは苦笑しながらオーフェンに応えた。


「この前話をしたうちのギルドで登録した黒騎士第1号だ。」

イツキがそういうと、オーフェンはエリーの顔をその大きな瞳で食い入るように見た。



「なんの冗談だ……イツキ」

オーフェンの声は一気に暗い重いものへと変わった。

「こんな小娘を持ってきて黒騎士シュワルツリッターにせよというのか……」


「そうだ」


「他に魔人が居ないからと言って余をそこまで愚弄ぐろうするのか?」


「愚弄なんかしていない。本気だ」


「こんな小娘を一人連れて来て黒騎士シュワルツリッターにせよというのか」

オーフェンはもう一度イツキに聞いた。


「そう。こんな小娘がこんな他に魔人も居ないような宮殿に黒騎士シュワルツリッターになると言って、わざわざやって来てやたんだ」


「ワシを怒らせたいのか?」


「そうではないが怒りたいならどうぞ。いつでも買うぞ」


「本気か?」


「ああ、本気だ」


宮殿の空気は限界まで張り詰めた。

オーフェンの髪は逆立ち眼は怒りに満ちて一触即発状態だった。

イツキは右手を剣にかけ、腰を少し落として右足を半歩引いた。

そして凄まじい殺気にイツキは包まれた。



その時、エリーが叫んだ。



「大体奴は魔人軍団のくせに男前だ。いまいましい!。魔人のくせに正々堂々と勝負を挑んでくるのも腹立たしい。もっと姑息な手を使えば良いモノを……」


そう、暗黒騎士団の師団長キースは中性的な美しさを持つイケメンな黒騎士だった。

魔人には珍しいフェミニストで、逆らう者には容赦なく魔神の鉄槌を下すが、決して弱い者や女性を狩ることはしなかった。

それが人間……特に女性の間で人気が高い理由だった。

そのキースにイツキは勝った。お蔭でイツキはキースの女性ファンからのロクデナシ呼ばわりされる羽目になった。イツキはそれを未だに根に持っているようだ。


「ち!」

そう吐き捨てると、イツキは席を立ってヘンリーの部屋へ向かった。


ヘンリーは部屋に居た。

ノックをして中に入るといつものように秘書のリンダが猫耳をピクピクさせてイツキを出迎えた。

「ギルマスですか?」


「うん。今いる?」


「いますよ。少しお待ちください。」

リンダはヘンリーの部屋に入るとイツキが訪れた事を告げた。

そして猫耳をピクピクさせながらイツキに

「どうぞ」

とヘンリーの部屋へ案内した。


「どうした?イツキ。」

ヘンリーはそう言いながらイツキにソファーを勧めた。


「いやね。実は今さっき黒騎士志望の転生者がやってきましたよ。」

ソファーに座りながらイツキは報告した。


「それは良かった。早速か」


「しかしそれが17歳の女の子。まだあっちの世界では学生なんですよねえ」


「17歳の女子学生?さっきすれ違った子かぁ?そんな幼気(いたいけ)ない女の子を騙すなんて酷いやつだな、イツキ。」


「よしてくれ。本人が勝手に言い出したんだよ。僕が勧める訳がないでしょう。」

イツキは手を振って否定した。


「そうなのか?」

そう言いながらヘンリーはイツキの前に座った。


「そうだよ。一晩寝て考えろとは言ったが、あれは多分変わらないだろうなぁ。」

イツキは憤慨した様子で否定した。


「そうか。その場合は……」


「本人の意思を尊重するしかないでしょう。」


「だな。」

ヘンリーは頷くしかなかった。


「なので明日オーフェンのところへ連れて行く事になるよ。」


「分かった。」


「だから明日、その子が黒騎士を選んだからと言って僕の事を、極悪非道冷酷残忍とか言わないで貰いたい。それだけを言いに来た。」


「案外人の目を気にするんだな」

ヘンリーは笑いながらイツキに言った。


「この件に関してはな。アンタが何言うか予想が付きますからね。」


「流石だな」



「ま、どうせ教育担当はキースだろうから、ちゃんと彼が面倒は見るのでしょうけどね。」


「キースってあのイケメンでキザな奴?」


「そう。」


「俺、あいつ嫌い。」

ヘンリーは苦虫を潰したような顔でイツキに言った。


「オーフェンの宮殿で戦いましたか?」


「ああ。戦ったけど……あいつ強かった。」


「まあ、普通の奴には勝てんでしょう。ありゃ。下手な魔王よりも強いですからね。

で、こてんぱんに負けたとか?」

とイツキはヘンリーに聞いた。


「いや、負けなかったが勝てもしなかった。」


「へぇ。キースと互角に戦ったんだったら大したもんですよ。」

イツキはヘンリーを慰めながらもヘンリーの実力を少し認めた。


「闘いながら気障(きざ)なセリフを連呼する。それを聞いていたら、だんだん闘う気力が失せていったわ。」


「それ、分かります。あいつは戦う時も一言多いですからね。僕の場合はそれが闘志に代わって剣でガンガン殴りつけてやりましたけど」

イツキは笑いながらそう語った。


そこへリンダが猫耳をぴくぴくさせながら珈琲を持ってきた。

イツキは嬉しそうにリンダが部屋を出ていくまでその猫耳を見ていた。


「イツキ、猫耳好きだね。」


「うん。なんだか見てると癒される」


「そんなもんかねぇ・……」

ヘンリーは呆れたように呟くと珈琲カップを皿ごと持ち上げて飲んだ。


「まあ、明日はオーフェンとキースに頭を下げてくるよ。どうせならごっつい男が来たら良かったのにな。だったらこんなに悩まないで放り込めたのになぁ……」


「まあ、来てしまったのは仕方ない。明日はよろしく頼むよ。ところで、その女の子は今はどうしているんだ?」


「ああ、マーサが一晩、面倒を見るって連れて帰ったよ。」


「マーサか……彼女は本当に面倒見が良いな。」


「うん。仕事も気が付くから、僕も助かっているよ。」


「まあ、イツキの部屋に泊めるよりは安全だな。」


「流石にこの歳で女子学生には手を出さんでしょう。」

イツキは笑いながら言った。


「何言ってるの貴族なら16歳で当たり前のように結婚しているぞ」

へんりーは憮然とした顔で応えた。


「え?そうだっけ」


「そうだよ。」


「イツキが居た世界ではどうか知らんが、この世界は20代まで独身って貴族ではあまりないな。」


「そうかぁ……この世界はロリコンがOKなんだった……」


この世界では政略結婚も多く、貴族の家に生まれた女子は早く嫁に出される。なので貴族の女性の結婚適齢期は10代半ばだったりする。


イツキはそれを思い出した。

「良かった。マーサに預けて。ロクでもない奴に変な噂を流されるところだったわ。」

とヘンリーに言った。


「まさか、変な噂を流すロクでもない奴とは僕の事とでも言いたいのですかな?イツキさん?」


「まさか、そんな美味しいネタをつかんで黙っていられるヘンリー閣下ではないでしょう?」





二人は顔を見合わせて笑った。





「それじゃ、僕は戻るわ。また明日。」


「キースによろしく」


「はいはい」

そう言ってイツキは部屋を出て行った。

さっきまでのイライラ感が、ヘンリーとのたわいもない話とリンダの猫耳のおかげで消えた。

スッキリとした気持ちでイツキは自分の部屋へと戻っていった。






翌朝、マーサが野田美幸(エリザベス)を連れてイツキの部屋にやってきた。

「イツキ、おはようございます」

「おはようございます」

2人はそろってイツキに挨拶をしながら入ってきた。


「ああ、おはよう」


「エリーは昨日マーサと色々お話ししたのかな?」


「はい。一杯聞いてもらいました。」


「そうか。それは良かった。で、気持ちは変わらないかね」


「はい。変わりません。」

エリーは真っ直ぐにイツキの目を見て答えた。


「分かった。じゃあ、君は今日から黒騎士だ。」

そういうとイツキは書類に野田美幸(エリザベス)の職種を黒騎士と記入した。


「これで、後は魔王オーフェンに眷属の受戒を受ければ終わりだ。」


「マーサ、君から何かあるか?」

イツキはマーサに振り向いて聞いた。


「エリーとは約束したの。何があっても生き延びるって。そしてまたこのギルドに帰ってきてイツキのコンサルを受けて、今度はここで私と一緒に働くの」


「え?そんな約束したの?」


「はい。生き延びて強くなって私はここに帰ってきます。そしてイツキさんの秘書をします。」


「いや、別に秘書にはならなくて良いけど……」


「いえ。なります。ならせてください。その為に生き残ります。」


イツキは少し考えて

「分かった。じゃあ僕はその時を待っているよ。」


「はい」

エリーは元気よく返事をした。

昨晩、マーサにこれまでの自分の人生を全てを語った。そしてマーサからイツキの事も聞いた。

エリーはイツキのように強く生きたいと思った。

イツキを目標にしたら何故かこの世界でも生き延びる事が出来る気がした……と言うか生きる価値を見出せそうだと思った。

彼女は心のどこかに「もうどうにでもなれ」と自暴自棄な感情があるのを分かっていた。

それもあって、毒を食らわば皿までで黒騎士を選んだのであったが、それをマーサに見透かされ、マーサの話を聞くうちに考えが変わった。


この世界にひとりでやってきたのはエリーだけではない。そして文字通り独りぼっちでやってきて生き抜いたイツキが居た事をマーサの話で知った。

そして一人で魔王オーフェンに勝負を挑んだ勇者がイツキである事を聞いた時、「やっぱり魔王の眷属になって帰って来よう」と思った。

形は違うがイツキのように魔王オーフェンといつでも会える人間となりたかった。

それが彼女が出した結論だった。


イツキは暫くエリーの瞳を見つめていたが、その瞳に迷いが無い事を確認すると

「それじゃあ、行こうか」

と言ってエリーの手を取った。


「マーサ、ちょっとオーフェンのところまで行ってくるね。」

そういうとイツキとエリーの姿は煙になって消えた。


それを見送ったマーサは

「頑張ってね。そして帰ってくるのよ。エリー」

と呟いた。




エリーは霧の中にいた。

右手はしっかりとイツキの手を握っているが、イツキの姿は見えない。

「イツキさんの手って柔らかくて暖かいな」

と思っていたら急に目の前が明るくなって、知らない宮殿の大広間にイツキと立っていた。


「魔王、オーフェンは居るか?」

イツキは広間に響くような声で叫んだ。


「なんですか。イツキさん」

と副官のサルバが玉座の横の通路から出てきた。


「サルバか。黒騎士志願者を連れてきたよ。」

サルバはその濁った眼でエリーの顔を食い入るように見た。


「こんな小娘を……貢物ですか?」


「違う。彼女が黒騎士志願者だ。」


「ご冗談を……その冗談は笑えませんな。」


「冗談じゃないから笑わなくて良いよ」

とイツキは何故か笑いながら言った。


その時に広場に響く声で

「なんじゃ、イツキ、また地獄の温泉饅頭を持ってきてくれたのか?」

と玉座の後ろからオーフェンが現れた。


「オーフェン、残念ながら今日は持ってきてない。」


「その小娘はなんじゃ?それはワシへの貢物か?ワシは小娘は食わんぞ。」


「あんたらは食べる事しか考えてないのか?」

イツキは苦笑しながらオーフェンに応えた。


「この前話をしたうちのギルドで登録した黒騎士第1号だ。」

イツキがそういうと、オーフェンはエリーの顔をその大きな瞳で食い入るように見た。



「なんの冗談だ……イツキ」

オーフェンの声は一気に暗い重いものへと変わった。

「こんな小娘を持ってきて黒騎士(シュワルツリッター)にせよというのか……」


「そうだ」


「他に魔人が居ないからと言って余をそこまで愚弄(ぐろう)するのか?」


「愚弄なんかしていない。本気だ。」


「こんな小娘を一人連れて来て黒騎士(シュワルツリッター)にせよというのか」

オーフェンはもう一度イツキに聞いた。


「そう。こんな小娘がこんな他に魔人も居ないような宮殿に黒騎士(シュワルツリッター)になると言って、わざわざやって来てやたんだ。」


「ワシを怒らせたいのか?」


「そうではないが怒りたいならどうぞ。いつでも買うぞ。」


「本気か?」


「ああ、本気だ。」


宮殿の空気は限界まで張り詰めた。

オーフェンの髪は逆立ち眼は怒りに満ちて一触即発状態だった。

イツキは右手を剣にかけ、腰を少し落として右足を半歩引いた。

そして凄まじい殺気にイツキは包まれた。



その時、エリーが叫んだ。


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