第10話「牛肉と白菜のスープ!」
「カルブ! 三週目だ!」
「行きます! 細かく切ったアーモンドで飾られたパン!」
「来い! 細かく切ったアーモンドで飾られたパン!」
アテン神が回転しながら触手を巻き取る。
幽霊達は引き寄せられて、太陽円盤本体に押しつけられる。
暖かさに、柔らかさに、幽霊達はとろけるような表情になり、アテン神に身をゆだねる。
「行きます! 牛肉と白菜のスープ!」
「来い! 牛肉と白菜のスープ!」
全身がぽかぽかと温まり、アテン神に心をゆだねる。
葬祭殿全体が光る。
たいまつだけでなく、柱や床の石まで輝き、エジプト中の神々がアテン神と信者達を祝福している。
死霊全員を抱きしめて、アテン=つーたんが天へと昇り始めた。
(ああ……)
それはあまりにまばゆくて美しくて……だからカルブは悲しくなった。
(このまま行っちゃうんだ……)
それはカルブとてわかっていた定め。
それでもカルブは階段を駆け下りていた。
ツタンカーメンは死者の国へ行く。
オシリス神のアアルの野。
プタハ神のアメンテト。
アテン神にも独自の冥界があると云う。
誰もがいずれはいずれかに行く。
そこでは人は神とともに在る。
カルブは階段の途中で立ち尽くした。
このまま階段を下りれば高度で、上れば距離で、どちらにしてもツタンカーメンは遠くに行ってしまう。
アテン神は上昇しながら回転を続けている。
だからツタンカーメンも、背中から横へと、カルブから見える角度が変わり……
ツタンカーメンの横顔は……
悲しそうだった。
「ツタンカーメン様!!」
カルブの叫びと同時に、神殿中の光が消えて、アテン神がしゅるるるるっと墜落した。
「な!? ツタンカーメン様!? 大丈夫ですか!?」
残っているたいまつと、アテン神本体の光を頼りに、カルブは階段の下へ急いだ。
「うう~。重量オーバーぁぁぁ」
アテン神は触手を持ち上げて、信者が床にぶつかるのだけは防いだものの、本体はおそらくしりもちをついた状態でぺにょんとなっていた。
「どうなってるんです!? まさか食べすぎですか!?」
「違うよぉ。まだ救われていない人が居るんだよぉ」
アテン神の言葉に、カルブが慌てて信者達を見回す。
「つーたん」
呼びかけられ、ツタンカーメンはハッと顔を上げた。
「アクエンアテン君のことで、心が重たくなっちゃってるね」
「…………」
ファラオはしゅんとうつむいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます