第2話「メレトセゲル女神」

 蚊柱が人の声を発した。


『ハシャラはどこだ?』

『ハシャラはまだか?』

『ハシャラはもうすぐ』

『もうすぐ我らの悲願が叶う』


 老若男女、入り混じり、いずれの声もおどろおどろしく響く。

 おそらくホッマの声もその中にあるのだろう。

 蚊柱は、仮にホッマの遺体から出てきたものがホッマの体積と同じだとして、ホッマ数十人分に膨れ上がっていた。


『答えよバケモノめ』

『醜悪なるバケモノめ』

『神を騙るニセモノめ』


 蚊柱がメレトセゲル女神を締め上げる。


(いやいやいや、そりゃ頭がコブラってのはアレだけど、物静かで慎み深い女神様だって聞いてるぞ)

 カルブは混乱しつつ岩陰から成り行きを覗き見た。


『ツタンカの墓はどこだ?』

『ツタンカの墓の場所を教えよ』


(ツタンカーメン様の昔の名前!? こいつら何者なんだ!? 何をする気なんだ!?)


 メレトセゲル女神が苦しげにうめく。

 倒れたままの兵士達は、生きているのかどうかもわからない。

 カルブは足もとの小石を拾い、蚊柱に投げつけた。


『誰だ?』

『誰だ?』

『誰か居るぞ』


 蚊柱がメレトセゲル女神を放り出してカルブに寄ってくる。

 カルブは腰に下げた小袋から魔除けのニンニクを掴み取り、蚊柱をじゅうぶんに引きつけてから振りまいた。


 しかし……

(効かない!?)

 蚊柱がカルブを取り囲む。


『死人のニオイだ!』

『生きているのに死人のニオイだ!』

「っ! これは、ミイラ作りの際の……」

『我らも知らぬバケモノか?』

『我らを超えるバケモノか?』

「違……っ!」

り込もう!!』

り込もう!!』 

「!?!?!?」


 蚊柱がカルブに襲いかかり、一瞬で全身を包み込んだ。

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