第21話「だだだ」
三人組はのんびりと歌いながら荒野を歩いていた。
ツタンカーメンは王宮の楽師達が神々に捧げるために作った歌を、ファジュルは村に伝わる種まきの歌や
プタハ神と妻である女神セクメトの馴れ初めの歌はガサクもファジュルも喜んだが、先王が作詞したアテン神賛歌はガサクが嫌がったので途中でやめた。
「これは行商人さんに習った歌だよ」
ファジュルが歌い出したのは、ファラオを称える歌だった。
「聡明なる王よー♪ 慈悲深き王よー♪」
ただの歌詞だがツタンカーメンは思わず赤面してしまった。
(いや、でも、ファラオっておれだけじゃないしっ。先々代のアメンホテプ三世王は評判が良かったし、ピラミッド作ったクフ王はチョー有名だしっ)
「栄えーたまえー♪ とーわーにー♪」
ガサクが急に口ずさみ出した。
「あれ? ガサクもこの歌、知ってるの?」
ファジュルが目を丸くする。
「ん? あ、ああ……まあな……」
「ふーん。ガサクの村にも同じ行商人さんが来てたのかな?」
「そ、そうだなっ」
何かごまかすように歌を続ける。
「見目麗しき王よー♪ 我らがツタンカーメンよー♪ ……つーたん、大丈夫か? 歩くの速すぎたか?」
「だだだ、大丈夫っ」
ファラオはひっくり返りそうになってどうにか杖で突っ張った。
「「呼び戻されし神々の光よー♪ 取り戻されし豊かなるエジプトよー♪」」
詞を知る二人が声をそろえて歌う。
「「いつか自分が死んだとしてもー、ファラオの繁栄のために祈り続けたいーーー♪」」
まるで何度も練習してきたみたいに、二人の歌声がピタリと重なる。
ファジュルが足を止め、ガサクの瞳を覗き込んだ。
「ガサク……どうしてガサクがその詞を知ってるの……?」
「え?」
「だって、そこの詞は、あたしが勝手に変えた部分だもん! もとの歌詞は、祈り続けたいじゃないもん! 本当のは“ファラオのハーレムに入りたい”だもん!」
「!」
目を逸らすガサクに、ファジュルが詰め寄る。
かたわらのツタンカーメンが、ハーレムと聞いて本気でひっくり返っているのにも、もはや二人とも気づいていない。
「詞を変えたのは、小鳥さんと歌う時だけだもん!」
小鳥さんの前では何故か、たとえファラオのものであっても、ハーレムの話をする気になれなかった。
小鳥さんがオスかメスかもわからなかったのに、何故か。
「ガサクがあたしの“小鳥さん”だったのね!!」
潤んだ目でガサクを見つめる。
「ち、違うっ!」
ガサクは必死で首を横に振り、助けを求めてツタンカーメンに目をやった。
「
「ど、どこにっ?」
話題を逸らしてくれるのかと思い、居もしない小さな甲虫の影をガサクも探すが……
「あー、おまえらそこを動くなよ。大勢で行くとスカラベが驚いちまうからな。おれが戻るまで絶対に動くな」
そしてツタンカーメンは、若い男女を二人きりにして、大きな岩の向こうへ消えた。
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