第18話「カバじゃないぞ」

 泥を固めて作った小さな火山のような形のかまどの中に、薪を並べて、火を点ける。

 パン生地はかまどの外側の斜面部分に貼りつけて焼く。

 やがて芳ばしい匂いが漂い始めた。


 パンを入れるための籠はハタプ神が用意してくれていて、お供え物を抱えた三人組は、元気良く手を振って農園から去っていった。

 ツタンカーメンとファジュルは何も知らない笑顔で。

 ガサクも澄み切った感謝を述べて。


 三人を見送って、ハタプ神は小屋に戻って変装を解いた。

 一般的なエジプト人と変わらない赤銅色の肌から、冥界神の緑の肌へ。


 三人が去ったあとの小屋はやけに静かで、皿の上にカバパンが二つ残されていた。

 ツタンカーメンがこっそり作っておいた、神とソカル神の分。

 お供え物ではなくお昼ご飯だから、オシリス神にはナイショで、とのことだった。


 カバの味になっても困るので、特に念を込めたりせずに、ただのパンとして食べた。

 ほんのり甘くて、ふっくら優しいパンだった。


「ファラオには、悲しい思いはさせたくないのですが……」

 神は誰にともなくつぶやいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る