第473話 王都のとっても大変な一日③

 「イ、イルル!」


 「ん? なんじゃ??」


 「この頻度でブレスが飛んでくると、周囲を守ってくれてる精霊のみんなが持たないみたいなんだ」


 「ぬ? それは困ったのう。じゃが、もはや妾の言葉では止まりそうにないんじゃが、どうしたもんかのぅ」



 う~ん、とイルルは考え、だがすぐに何かを思いついたように顔を上げた。



 「シュリ、こうなったらアレしかないんじゃなかろーかのう?」


 「アレ?」


 「ほれ、妾をバチコーンと屈服させたアレじゃよ」


 「バチコーン……って。あ、アレかぁ」



 イルルの言葉に当時の事が蘇る。

 イルルと戦ったあの時、イルルを屈服させた武器のことが。

 でも、アレは完全にランダムに出てきた武器だから、今回も出てくるとは限らない。

 そんな事を考えながら、[クリエイション・アームズ]を発動してみた。

 同じ武器がでるかどうかはともかく、シャナをどうにかするための武器は必要だったから。


 そうして出てきた武器を手に、シュリはがっくり肩を落とす。

 イルルの時といい、対龍の時に限って、どうしてこういう武器が出てくるんだろう、と思いながら。

 出てきた武器は、イルルの時と全く同じものではなかった。

 でも。


[愛のロウソクと炎のムチ]

 火属性の武器。

 愛のロウソクから垂れたロウは、その熱さで愛を伝え、炎のムチの打撃は熱と共に骨まで衝撃が走り、改心したい気持ちにさせられる。

 大きさは自在に変えることが出来る。新たな扉を開く一助にぜひ。


 今回はどうやら二刀流(?)らしい。

 モノは、違う。

 でも……方向性は、限りなく一緒のような気がする。

 新たな扉を開くってなにさ、と思いながら、シュリは両手に現れたそれぞれのアイテムを半眼で見つめた。



 「ぬぬっ! 妾の時のアレもかなりじゃったが、今回のもマニアックじゃのう。まあ、シュリなら使いこなせるじゃろ。テクニシャン、じゃからな」



 イルルは根拠無き自信をみなぎらせてそう言いきり、シュリの耳元にシャナの逆鱗の場所をそっとささやく。



 「えっと、それは、結構際どいね?」


 「逆鱗は大事な鱗じゃからのう。基本は人目にさらされにくい場所にあるものなのじゃ。今の上位古龍ハイエンシェントドラゴンの中では、妾の逆鱗の場所が、1番オープンな場所じゃな。確か」


 「イルルのは、しっぽの付け根だったよね」


 「うむ。あの日のあの衝撃は、今でも鮮明に覚えておるのじゃ」



 イルルはうっとりそう言って、飛んできたブレスをまた1つ弾き飛ばした後、シュリを大きく振りかぶった。



 「ふえっ!?」


 「シュリ。サフィラの事を頼むのじゃ!! おっぱいは小さいが妾の次くらいにはいい女じゃし、友達想いのいいヤツなのじゃ!! 戦闘力もまあ、妾の次くらいには役に立つじゃろうし、屈服させてシュリの守りの一角に使うも良かろうよ」


 「え? あ。うん?」


 「それじゃ、いってこーい、なのじゃあぁぁ」


 「え!! ちょ、まっ……あああぁぁぁぁぁ」



 イルルの全力で投げられたシュリは、余裕でシャナの所まで届き、龍の鼻面にぺしょんと叩きつけられた。

 死んではいない。だってシュリだから。

 だが、死んではないないが、痛いものは痛いのである。



 「うぐぐぐぐぐぐ……」



 特に強打した顔面が痛い。

 鼻がちゃんとついてるか、不安なレベルだが、触ってみたら目も鼻も口も、ちゃんとその場にあった。



 「だ、大丈夫ですか? ミンチになってない、ですよね? ルージュも子供相手に容赦がないことを」



 一応敵対しているはずなのに、心配してくれるシャナはやっぱり優しい人……いや、龍だと思う。

 でも、このまま彼女のしたいように暴れさせていたら、王都に被害が出てしまう。

 それは、避けなければならなかった。


 だから。


 シュリは心を鬼にして立ち上がる。

 氷の上位古龍ハイエンシェントドラゴンシャナクサフィラを屈服させるために。



 「あの、本当にだいじょ……あつっ」



 [愛のロウソク]から垂れた熱々のロウが、シャナに悲鳴をあげさせる。

 シュリは間をおかず、シャナの体を移動し始めた。

 あっつあつのロウを垂らしながら。



 「ちょ!? あつっ。これは。あっ。なんなんで……あつっ、んんっ」



 ……さすがは[愛のロウソク]だ。

 シャナの声が段々と艶を帯びて来ているように感じるのは、たぶん気のせいではないだろう。

 すごい効果だと、言っても過言ではない。

 シャナに、元々の適正があるのでなければ。


 シャナが聞いていたら、そんな適正ありませんっ、と怒られそうな事を考えながら、シュリは彼女の背中を駆け抜ける。

 もちろん、ロウを垂らすことは忘れず、シャナの声に熱が籠もっていくのを耳で確認しながら。

 龍の鼻面から出発したシュリは、その頭を通り、背中を通り、大きな体を駆け抜けながら、ある場所を目指していた。



 (でもなぁ。逆鱗の場所に攻撃を加えるには、この姿勢のままじゃ無理だよねぇ。せめて仰向けに近い状態になってもらわないと)



 イルルから耳打ちされたシャナの逆鱗の場所は内ももの付け根。

 仰向けになって足をぱっかり開いてもらえば安定して攻撃を加えられそう、だが。

 人の姿であれば完全にアウト、龍の姿であってもかなりギリギリなポーズである。

 本人に協力を仰ぐのはたぶん……いや絶対、無理そうだ。



 (仕方ない。ここは強制的にそのポーズに持っていくしかないかぁ)



 シュリは覚悟を決め、シャナの尾の先まで丁寧にロウを垂らしながら駆け抜け、宙に飛び上がった。

 そして手の中の武器を巨大化させる。

 ロウソクではなく、ムチの方を。

 空中で危なげなくバランスをとりながら、シュリは巨大なムチを大きく振りかぶり、力一杯打ち付けた。

 狙うはシャナの足首。その足下をすくうように。

 ぱちぃぃぃぃぃん。



 「いっ、ああぁぁん」



 痛い、と言おうとしたのであろう彼女の口から、甘い悲鳴が響きわたる。

 王都中に響きわたってしまいそうな勢いで。



 (これが王都中の人に聞かれちゃうなんて、僕だったら死にたくなる)



 というわけで、シュリはシェルファに念話をとばす。

 結界内の音を、外に漏らさぬよう、遮音してあげて、と。

 幸い、今現在、シャナのブレス攻撃は止まっている。

 それくらいの余裕はあるはずだ、と当たりをつけて。


 案の定返ってきた、快い返事に安堵しつつ、シュリは足を払われて上向きに転がったシャナの内ももを目指す。

 まだ開きが足りない、と容赦ないスパンキングを足の内側に加えながら。



 「いたっ、んんっ。い、痛いですが、なんなのです、この感覚は。はぁんっ。いっ、痛いのに心地良い……矛盾、してます。矛盾、してるのにぃ。はあぁぁん」



 響く甘い声と共に、足は徐々に開いていく。

 そしてとうとう、その弱点をシュリの眼前にさらした。

 他の鱗より、やや濃い色のその鱗を目にしたシュリの口元に笑みが浮かぶ。

 これでようやく、終わりに出来るぞ、と。


 うっすらと熱を帯び、汗の浮かんだ龍の内ももを、シュリはダッシュで駆け抜けた。

 左手に持ったロウソクから垂れているロウのことなど、すっかり忘れたまま。

 ロウが落ちる度に、ぴくんと震える龍の巨体に気づくことなく。


 目指すは内もも再奥の龍の逆鱗。

 そこに容赦ない攻撃を加える事でシャナを屈服させる、その為に。

 結果どんなことになるか、そこからはあえて目を反らしたまま。



 「ま、待って下さい!! い、今、そこに刺激を与えられたら……」



 さすがにシュリの狙う先がどこか察したのだろう。焦ったように制止の声があがる。

 でもここで止まるわけにもいかない。

 シュリは心を鬼にして、振り上げたムチの行く先を定めた。

 周囲の鱗より濃い蒼の、上位古龍ハイエンシェントドラゴンシャナクサフィラの逆鱗の上に。

 まずふるうのは左手だ。[愛のロウソク]からロウが飛び、逆鱗の上に散ってその痕跡を残す。



 「あつっ。んんっ、あんっ」



 響くのはもはや苦痛の声ではなく甘い声。

 その声を追いかけるように、シュリはもう片方の手もふるう。

 そこに握られているのは[炎のムチ]。

 シャナの体に合わせて少々大きめにしたそれを、シュリは情け容赦なく思い切り振った。

 しなったムチの先端は、狙いをそれることなく龍の逆鱗の上に落ち。

 すぱぁぁぁぁぁぁぁぁん。

 非常に良い音を響かせた。



 「っっ! あぁぁぁんんっ。わ、私が悪かったですぅっ。ごめんなさぁぁぁいぃぃ」



 甘い悲鳴についで、シャナの口から出た謝罪の言葉。

 これもきっと[炎のムチ]の効果なのだろう。説明文にあった通り、しっかりと改心、したらしい。

 次の瞬間、時間がきたのか、役目を終えたのか。

 シュリの手の中から、[愛のロウソク]と[炎のムチ]がぱっと消えた。


 [クリエイション・アームズ]。不思議でなぞの多いスキルである。

 でも、まあ、とにかく、どうにかなった。

 ふぅ、と額の汗を拭うシュリは忘れていた。

 屈服の後にやってくるお約束の事を。


上位古龍ハイエンシェントドラゴンが仲間になりたそうにこっちをみています。仲間にしますか? YES/NO


 ぴこんと目の前に浮かんだその文言に、シュリは、あ、と口を開く。

 ああ、そう言えばそうだった、と。

 別に眷属にしたくて屈服させた訳じゃないんだけどなぁ、なんて思いながらシャナを見上げると、潤んだ恨みがましい龍の瞳が待ちかまえていた。


 その瞳が語っていた。


 あんな恥ずかしいことをしておいて、責任をとらないなんて許しません、と。

 もはや逃げ道はないらしい、と瞬時に悟ったシュリは、ふぅ、と吐息を1つ落として精霊達に念話を飛ばす。

 しばらくの間、外から結界内が見えないようにして欲しい、と。

 みんなから届く了承の意を受けながら、シュリは覚悟を決めて指を伸ばした。YESの文字へと向かって。

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