第433話 ただいまの翌日⑥
「ルビス様ぁ。後で私にも貸して下さいよぉ」
「あ、私も!」
「それなら私も!!」
メイドさん達が、我先にと挙手をする。
元気がいいのはいいことだなぁ、と遠い目をしたシュリは、現実逃避気味にそんなことを思う。
カレンの時間の最後は一緒にひなたぼっこをしてうとうとしたのでちょっとは休めたが、その休憩分は周囲のメイドさん達の好奇心いっぱいの視線に全て削り取られてしまった気がした。
「ダ・メ♪ これはシュリ様専属だけの特権なんだから」
むぎゅうっとシュリの頭を抱きしめて、ルビスが嬉しそうにそう言い切る。
シュリの顔はおっぱいの谷間にほぼ飲み込まれてしまっているのだが、そんなの全く気にする様子無く。
「それ! その専属っていうの、ずるくないですかぁ?」
「そうそう! 専属ってどういう基準で選ばれてるんです? 私もシュリ様の専属になりたいです」
「ジュディスさんやシャイナさん、カレンさんはアズベルグの頃からの専属だから別格としても、ルビスさんやアビスさんも専属に選ばれるのは納得できます。でも、キキは普通の子ですよね? ずっとメイドとしてシュリ様にお仕えしていた訳でもなさそうだし。あの子が専属になれるなら私だって……」
「なれるわけないでしょ? むりむり。キキはああ見えて優秀よ? 教えたことは1発で覚えるし、真面目だし、シュリ様への愛情も文句なしのレベルだし。もう少ししたらシュリ様にお願いして専属見習いから本当に特別な専属への格上げもお願いしてあげようかな、って思うくらいにはね」
「ええ~? あたし達だって真面目ですよぉ? 教えて貰うことだってちゃんと覚えますしぃ。シュリ様への愛情だって、ねぇ?」
「ですです。キキに負けてませんよ、私達だって。こうなったら私達の魅惑的な身体でシュリ様を誘惑しちゃうとか」
「あ、それね! そうよね!! シュリ様だって健全な男の子だもの。大人な魅力で迫れば、ころっと専属にしてくれたり……」
「するわけないわよねぇ?」
不意にひんやりした空気がその場を支配した。
ひんやり空気の発生源のおっぱいに拘束されたままのシュリはぴたりと動きを止めて気配を消す。
これは関わっちゃダメなやつだ、と。
こういう直感に逆らって無謀な事を言いだしたメイドさん達をかばったりしても、いいことはなにもない。
シュリは愛の奴隷達と共に過ごした経験から、きちんと学んでいた。
いやな予感には逆らうな。
よけいなことは口にしない。
時には諦めも肝心である。
シュリはその教訓に従って、ルビスのおっぱいにそっと顔を隠した。
「シュリ様があなた達如きに誘惑される? 私達の誘惑でも中々応えて下さらないのに?」
「えっと、その、あの……」
「私なら怒らないと思った? あなた達、今の言葉をジュディスの前で言う勇気、あるの?」
ジュディス、という単語に、メイドさん達が震え上がるのが離れていても感じられた。
(ジュディスってそんなに怖いかなぁ? 優しいけどなぁ)
シュリは思うが、使用人達の間では陰ながら[鋼鉄の秘書]と呼ばれるくらい恐れられているのである。
シュリへの想いは誰よりも濃く重く、シュリへの不埒な発言は厳しく取り締まられ、有罪となれば恐ろしい罰が待っている、と専らの評判だった。
まあ、結局ただの噂話の類であるが、使用人達の多くはその噂の信憑性を疑わず、ジュディスを恐れる者も多かった。
中にはシュリ以外を受け入れない冷たい態度と美貌に心を奪われる変わり者も、いないでも無かったが。
「あ、あたし達が間違ってましたっ!!」
「どーか、ジュディス様には内緒に……」
「ちょっと悪ふざけしちゃっただけなんですぅぅぅ!!!」
平謝りするメイドさん達を見回して、ルビスは仕方ないわねぇ、とため息をつく。
そして、
「じゃあ、今回だけは多めにみてあげる。次に同じような発言したら、その時は覚悟しなさいね? 私の寛大な心にも限度はあるんだから」
おふざけがすぎたメイドさん達を1人1人軽く睨み、そう告げた。
メイドさん達が必死に頷く様子を横目で見ながら、シュリもまたほっと息をつく。
ルビスがきちんと釘を刺してくれたから、メイドさん達が大挙して専属にしてくれと迫ってくることはないだろう。
1人1人お断りするのも大変だし助かったなぁ、と思いつつ、ルビスのおっぱいに頬を預けた。
さっきまでのにぎやかさとは打って変わって静かになった若干気まずい空気の中で、やることのないシュリは少しうとうとし始める。
そのまましばらくの間、静かにメイドさん達の作業は続いた。
もちろんルビスもせっせと動き回り、その動きにあわせてぽいんぽいんと動く彼女の奔放な胸にもみくちゃにされつつ、シュリは思う。
(ルビスってば、わざとノーブラだな)
と。
何故それが分かるのか。
その理由は簡単だ。
まずはおっぱいの動きが奔放すぎるという点。
そして胸の柔らかさとは明らかに違う質感のぽっちりが、結構な頻度で顔に擦り付けられるという点だ。
そしてルビスはその行為を、明らかに楽しんでいた。
「ルビス?」
「はぁい。なんですか? シュリさまぁ」
「楽しむのもいいけど、ほどほどにね?」
「……ほどほどならいいなんて、シュリ様の優しさが身にしみます。そんな主にお仕えできるルビスはほんと幸せ者です」
小声でそんなやりとりを交わし。
不自然な程に頬を赤くしたルビスが、甘く甘く微笑み、ぐいっとおっぱいを押しつけてくる。
世の男性諸君なら誰でも夢見る状況だろうけれど、愛の奴隷達の過剰すぎる愛情表現に馴れきってしまったシュリは、平常運転でそれを受け止めていた。
そんな2人の元へ、メイドさんが駆け寄ってくる。
「すいません、シュリ様にお客様なんですが」
「シュリ様に?」
「はい。ご学友ということなんですが」
「ご学友……。お名前は?」
「シルバが来た、と伝えてくれれば分かる、と」
「シルバ様……ん~、確か獣王国のお世継ぎでしたよねぇ?」
「うん。そう。なんの用事だろう。すぐ行くって伝えて貰える? 応接の間にいるのかな?」
「いえ。この後に用事があるそうで。門のところでお待ちです」
「そっか。じゃあ、すぐに行かなきゃ。じゃあ、ルビス……」
ちょっと降ろしてくれる? そう言おうとした、のだが。
ルビスはシュリを装着したままスタスタ歩き出してしまった。
「えっと、ルビス、さん?」
「大丈夫ですよ~。大急ぎで向かいますからねぇ」
「いや、そうじゃなくてね? 降ろして欲しいんですけど」
「ええ~? ダメですよぅ。今は私の時間なんですから」
「まっ、まさか。まさか、このままの状態でシルバに会えと?」
「うふっ」
「うふっ、じゃなぁい!! 降ろして~~!!」
「イ・ヤ・ですぅ~」
「それならシルバに会わなくていいから!! せめてシルバに今日は会えなくてごめん、って伝えてぇぇ」
シュリの切ない声が響く。
その場に残されたメイドさん達は、ルビスに装着されたまま連れ去られるシュリを、気の毒そうに見送るしか出来ないのだった。
◆◇◆
「お待たせしましたぁ。シュリ様をお連れしました」
「すまないな、シュリ。急に、たず、ねて?」
ルビスの声に振り向いたシルバは、予想もしていなかった光景を突きつけられてしばし固まった。
夏期休暇を利用して、獣王国へ里帰りする為、その挨拶に学友のシュリの元へ寄った、わけなのだけれど。
(な、なんなんだ、これは)
その学友はメイドと思しき女性の身体に縛り付け(?)られ、その女性の豊かな胸に友人の顔はほぼ埋まっていた。
なんともうらやまし……いや、けしからん光景である。
健全な男の子であるシルバは、思わず圧倒的なボリューム感のお胸に見入ってしまったのだが、
「シュリ様に用事、と伺っておりますが?」
にこやかなのにどこか冷ややかなメイドさんの声にはっとして、慌てて目をそらせた。
「あ、ああ! も、もちろんそうだ。その、シュリ? アズランとファランにシュリも戻ったと聞いて訪ねてきたんだが、その、ちょ、ちょっと間が悪かったみたいだな。す、すまない」
申し訳なさそうにそう言うシルバを、それ以上放置する訳にもいかず、シュリは渋々彼の方へと顔を向けた。
これはどんな羞恥プレイなんだ、と思いつつも。
「こっちこそ、気まずい思いをさせてごめん。でも、出来ればこのことはアズランとファランには……」
「大丈夫だ。誰にも言わない。俺の口は固いんだ。安心しろ」
「うん、ありがと……。それで、シルバはどうして? 何か用事があったんでしょ?」
「あ、ああ。大した用事ではないんだが、俺も今日から獣王国に里帰りするから、その挨拶にな」
こほんと気を取り直すように咳払いしてから、シルバはそう告げた。
それを受けて、シュリはかすかに微笑む。
「そうなの? わざわざ挨拶なんて良かったのに」
「そう言うわけにはいかない。シュリは大切な友人だからな。まあ、夏休みが明けるまでには戻るし、別れの挨拶というわけでもないのだから、別に良かったのかもしれないが」
迷惑だったか? と目で問われ、シュリはううん、と首を横に振る。
「こんな姿を見られたのは、ちょっと、アレだけど、会いに来てくれたのは嬉しいよ。でも、獣王国は遠いから、行き帰りだけでも大変じゃない?」
「ああ。行って帰るだけでもかなり時間がかかるからな。向こうでゆっくり過ごす、という訳にはいかないだろうな。この夏も、本当は帰らないつもりだったのだが、俺の婚約者が寂しがってる、と母上から手紙が来てな。とりあえず、顔を見せるだけでもと思って」
「そうなんだね。強行軍になるだろうし、道中気をつけて? アンドレアと婚約者さんにもよろしくね」
「ああ。伝えておく。母上の手紙にはシュリも連れてこいと書いてあったが、ほぼ行って帰るだけの旅につき合わせるのでは申し訳ないからな。今度、ゆっくり帰れる時にはシュリも誘うから、ぜひ獣王国にも来てくれ。母上はもちろんだが俺の婚約者も喜ぶ」
「うん。その時は誘って。僕も獣王国に行ってみたい」
「ああ。必ず」
にっ、とシルバが笑い、シュリも微笑む。
その後、しばらく雑談した後、今日中に王都を出るというシルバは、名残惜しそうにしながら帰って行った。
それをにこやかに見送った後、
「とんだむっつりスケベな王子様でしたね~。シュリ様を見る振りをしながら、何回私の胸を見たことか」
軽い毒をはきつつ、ルビスがうふふ、と笑う。
そんな彼女に苦笑を返し、
「健全なお年頃の男の子だもん。仕方ないよ」
シュリは友人の肩を持った。
なぜか馬車でなく1人で気軽に訪れていたシルバの、去っていく背中が見えなくなるまで門の外で見送ったのだが、見送りを終えて門の中に戻ろうとしたとき、声をかけられた。
「ルバーノ家のメイドの方、でしょうか?」
やばい、お客様だ。
とっさにそう判断したシュリは、
『ルビス。僕がシュリだってバレないように頼むよ!?』
ルビスに念話をとばし、彼女の胸に顔を隠す。
了解です、とシュリの背中をぽんぽんと叩いてから、ルビスはシュリの顔を隠すように、こっそり授乳用の布で主を隠してからゆっくりと声の主の方を振り向いた。
「はい。何かご用でしょうか?」
「ああ。その、何度か訪ねているのだが、こちらにいるイルルという少女か、こちらの主のシュリナスカ・ルバーノ殿にお会いしたいのですが」
普段の甘ったるさを消したルビスのよそ行きの声の後に、客人の声が続く。
なんだか聞き覚えのあるようなその声の発した内容に、シュリはとっさにイルルに念話を飛ばした。
『イルル。タペストリーハウスの中にいる?』
『む? シュリか。今日はずっとタペストリーハウスの中におるぞ? なんじゃ? 妾に会いたくなったのか??』
『よかった! じゃあ、僕がいいよって言うまでタペストリーハウスから出ないで。たぶん今、イルルの知り合いの
『むむっ!! それはいかんのじゃ!! 了解した。シュリがいいって言うまでちゃんと隠れておるのじゃ』
イルルと慌ただしくそんなやりとりを交わし、シュリは気配を殺してルビスがにこやかに応対している客人の様子を伺った。
「そうですか。不在であれば仕方がありません。ルージュの気配もしないですし、嘘ではなさそうです。では、また日を改めて伺いましょう」
「ええ。そうしていただけると。我が主はお忙しい方なので、確実に居るという日をご案内出来ないのが心苦しいですけれど」
「いえ、かまいません。それにしても……」
「はい?」
「そちらはあなたの子供、ですか?」
「子供!? あ、はい。ええ! そうです。この子は私の息子でして」
「そうやって抱いて歩く程には幼く見えませんが、大変ですね」
「私は息子を非常に愛しておりますので気になりませんが、他の子に比べると少し甘えん坊なのかもしれませんねぇ。そこがまた可愛いんですが。それはもう、とってもとっても可愛いんですけれど」
氷の
ぎゅむっと抱きしめられ、布越しの頭のてっぺんにキスを落とされ、
「ほら、今もこうして授乳をしているんです。見せてさしあげられないのが残念ですが、私のおっぱいに吸いつく息子はとっても可愛いんですよぉ」
とんでもない発言と共におっぱいの先端を口に突っ込まれた。
見えてるんじゃないの、と突っ込みたくなるような正確さで。
いつ服をはだけたのか分からないほどの早業に、シュリは思わず目をまあるくして、条件反射のようになにがきっかけで溢れたのか分からないルビスの魔力母乳を吸い上げて飲み込んだ。
その瞬間、一気にルビスの体温が上がるのを感じたシュリは、しまったなぁ、と思いつつも、吸わなくても口の中を満たす勢いで溢れてきた母乳を再びごくんと飲み込む。
シュリの口の中でゆるく吸われる刺激だけでも気持ちがいいのか、ルビスの身体がかすかに震えた。
おそらく、その表情は甘くとろけているに違いない。
「じゅ、じゅにゅう。人前でそんな行為を行うとは。人間とは、それほどに羞恥心を捨てている、という事なのでしょうか。いえ、それともこれこそが母性というべきものなのか。変態性の現れではなく……」
目の前のルビスの状態に気圧されたような、氷の龍の人の独り言のようなつぶやきが聞こえてくる。
いきなりこんな特殊な状況を見せつけられた彼女に若干同情しつつ、シュリは心の中でそっとつっこむ。
これは母性じゃなくてどう見ても変態性のほうでしょ、と。
正直、ルビスの今の状況を人間の母性と思われたのでは、世のお母さん達に申し分けなさすぎる。
でも、彼女から隠れている状態のシュリが、声高にそれを訴える訳にも行かず。
ため息を飲み込み、ついでに油断すると口から溢れそうになる母乳も飲み込んだ。
「んっ。そ、そろそろよろしいでしょうか? ぁん。うちの息子がゆっくりおっぱいを飲みたいようなので」
甘い甘ぁい声で、ルビスが氷の龍の人に話しかける。
正直、子供に母乳を上げている母親が出すような声ではないのだが、その明らかな事実は氷の龍の人には伝わらなかったようだ。
「え、ええ。私はおいとましますので、後は母と子水入らずでごゆっくりどうぞ。その、お、お邪魔しました。また日を改めて訪問します」
恥ずかしそうにそう言って、そそくさと遠ざかっていく氷の龍の人の気配。
シュリのことやイルルの事を突っ込んで聞かれなかったのは良かったが、人間の母親に付いての誤った知識を植え付けてしまった。
その事実にシュリはひっそりとため息をこぼし、もう客人が居なくなったなら、ルビスのおっぱいから顔を上げようとしたのだが、それを察知したルビスにぎゅむっと頭を押さえつけられた。
「んむ!?」
「ダメ、ですよぉ、シュリ様。ちゃあんとルビスの出した母乳、吸い尽くしてくれないと。じゃないと、ルビスの溢れる愛で、シュリ様がびしょ濡れになっちゃいます」
抗議するようにあげた声を封じるように、ルビスの甘い甘い声が降ってくる。
ちょっと釈然としなかったが、確かに溢れる母乳を飲み尽くさないとシュリは濡れネズミになってしまうかもしれない。
そう判断した結果、シュリは仕方ないなぁと思いつつも、ルビスのおっぱいを吸うことを継続した。
だがしかし、母親気分になったルビスのおっぱいを吸い尽くすのはかなり大変で。
交代時間ぎりぎりまで励んだシュリのお腹はぽんぽんになり。
順番でシュリを姉から受け取った献身的なアビスに背中をぽんぽんされ、げっぷをさせられる屈辱まで味あわされる事になるのだった。
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先週、投稿できなかったので、
今週はもう1話UPできればいいなと思ってます。
多分、明日か明後日くらいになるかと。
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