第383話 フィフィアーナ姫の複雑なお気持ち、そして久々の再会②

 「いらっしゃいませぇ~」



 カウンターの向こうから聞こえた出迎えの声。

 口調は可愛らしいが、声は野太い。

 それでも一生懸命高めに出しているのだろうけれど。

 ばっちりメイクして、可愛い衣装に身を包み。

 だが、どうしてもゴツいその漢女おとめはオーギュストの腕の中のシュリに気付いた瞬間、ぱっと顔を輝かせた。



 「シュリきゅん!!」



 シュリの名を呼び、駆け寄る仕草は、ばっちり内股の走り方も含めて完璧に女子。

 世の女子の皆様から、すべての女があんな風に走ると思うなよ! と総つっこみが入りそうなほどのぶりっこ走りだったが。

 しかし、駆け寄ってきた彼……じゃなく彼女の体型はその仕草を完全に裏切っていた。


 長身のオーギュストと同じくらいの身長に、細身なオーギュストでは勝負にならないくらいに鍛えられた大胸筋はむっちりたくましく。

 可愛らしい色合いの服の袖をはちきらんばかりの上腕筋もとっても鍛えられていて非常に男らしい。

 本人は不本意だろうが、どう頑張っても可憐で可愛らしいというような女の子向けの褒め言葉は絞り出せそうに無かった。



 「来てくれたのねぇ。そんな素敵男子に抱っこされてご登場だなんて、シュリきゅんも隅に置けないわねぇ。サシャちゃんと来ると思ったけど、サシャちゃん、やっぱりアタシに会いたくないって?」



 ちょっとだけ悲しそうなバッシュ先生……じゃなくってバーニィの言葉に、シュリは慌てて首を横に振る。



 「いえ。実はこのことはまだサシャ先生に伝えられてないんです。サシャ先生、アズベルグに出向中で」


 「いやぁねぇ。敬語なんてやめてちょうだい。アタシはもう先生じゃないんだから。そうなのねぇ。サシャちゃん、今、王都にいないのねぇ。執行が先送りになっただけかもしれないけど、彼女に謝る機会が無くなったんじゃなくてほっとしたわぁ」



 バーニィはそう言って、本当にほっとしたように笑った。

 その表情のどこにも、最後に会ったときのサシャ先生への変質的なまでの執着や狂気を見つけることは出来ず、本当にあのバッシュ先生本人なのかと少し疑いたくなる。

 よく似た兄弟か何かなんじゃないかなぁ、と。



 「……バーニィ、さん? もしかして兄弟とか居たりしない?」


 「だめよぉ、シュリきゅん。バーニィさん、だなんて。バーニィちゃん、もしくは呼び捨てでよろしくねん。で、えっと、アタシに兄弟がいるか、よね。兄弟なんていないわよぉ? っていうか、こんなことになって親からも絶縁されたから天涯孤独みたいなものかしらぁ。ま、アタシにはアグネスお姉様が居るから寂しくないけど。後は、すてきなダーリンが出来れば……って、あら? もしかしてシュリきゅん、アタシがバッシュ似の誰かさんじゃないかって疑ってるのかしらぁ??」



 すっかり見抜かれたシュリは、隠してもしょうがないと素直に頷く。



 「アタシ、そんなに変わったかしらぁ?? でも、そこまで変われてるなら嬉しいわね。昔のアタシはどうしようもない悪い子ちゃんだったから。可愛い女の子なら年が離れてても全然オッケーなゲスい男だったし、先生業よりも自分の筋肉メンテを優先するだめな先生だったし、あげくの果てにはサシャちゃんに相手にしてもらえない腹いせに、ひどいことをしようとしちゃったバカな男だった。あの日の悪行を止めてもらえたのは本当に幸いだったわ。あの日、男としてのアタシは死んだけど、こうして新たなアタシとして生きていられるんだもの。どれだけ神様に感謝しても足りないくらいだわねぇ」



 バーニィはしみじみそう語った。

 彼女の語る過去のバーニィは、確かにバッシュ先生そのもので。

 ようやくシュリは、目の前にいるこの漢女おとめがバッシュ先生だったのだと信じる気持ちになれた。



 「でも、そうね。シュリきゅんが信じられない気持ちも分かるわ。アタシ、昔のゴミくずからこんな素敵なレディに変身しちゃったものね。綺麗になりすぎるのも困りものよねぇ。でも、どうしたものかしらぁ。あっ、そうだわ! アグネスお姉様から説明してもらえばシュリきゅんにも分かってもらえるわね!!」



 大丈夫、信じるよ。そう告げようとシュリが口を開くより先に、バーニィの野太い声がアグネスを呼んだ。

 アグネスお姉様~、と。

 すると、店の裏から、



 「はぁ~い。どうしたの、バーニィ。なにか用事かしら??」



 やはり女性と言うには重厚な、でもバーニィよりも若々しい声が返ってきた。

 軽やかな足取りで現れたその人は、シュリが知っている姿より一回りほど大きくなっていた。


 以前も立派な体格をしていたから、年上のバーニィの筋肉ボディと比べてもあまり遜色はなく。

 まだ若く、成長期であることを考えると、末恐ろしい。


 むっちり若々しい、はちきれんばかりの筋肉に包まれた男らしいボディを、シュリは羨望のまなざしで見つめた。

 ああ、僕も早くああなりたいなぁ、と。

 なぜシュリが、オーギュストの男らしくもスリムで精悍な肉体で無く、筋肉ムチムチのボディにあこがれるのか少々疑問だが、人というものは自分に無いものにあこがれを抱くものなのだろう。


 奥から出てきた人物は、まず最初にバーニィを見て、自分の店の客には珍しいイケメンを見て、それからすぐにそのイケメンの腕の中にちょこんとおさまっているシュリに気付いて目を丸くした。



 「あら、シュリ!! バーニィから聞いていたけど、本当に来てくれたのね!!」



 そう言って彼……いや、彼女は嬉しそうに笑った。

 その笑顔にシュリも笑顔で返し、



 「久しぶりだね、アグネス」



 その人の名前を呼んだ。

 アグネスお姉様、とバーニィがその名を出したときに、最初に思い浮かんだ人の顔をシュリは懐かしい気持ちで眺める。

 でも、実のところ、今こうして彼女の顔を見るまで、きっと同じ名前の別人だろうと考えていた。

 だってアグネスは……



 「でも、どうしてここに?? まだ、卒業じゃないよね??」



 そう、彼女はまだアズベルグの中等学校に通っているはずなのだ。

 なのにどうしてここに? と見上げると、アグネスはうふふ、と笑い、



 「学校? 辞めてきちゃったわ」



 ばちこーんっ、とウィンクを飛ばしてきた。



 「や、辞めちゃったの??」


 「ええ。きっぱりさっぱりすっぱりね」


 「そ、そうなんだ?? でも、家族の人は反対したんじゃあ」



 シュリは、アグネスの気の強そうな妹の顔を思い出しつつ問いかけた。

 アグネスは、そうねぇ、と苦笑し、



 「反対、されたわねぇ。アリシアちゃんからも、両親からも。まあ、元々こんなだから若干見放されてた感はあったんだけど、お父様もとうとう堪忍袋の尾が切れたんでしょうね。勘当だ、出て行けっておっしゃるから、私もついつい、上等だ、出て行ってやる!! って売り言葉に買い言葉で。結局そのまま、荷物をまとめて家を飛び出したのよ」



 そんな事情を語ってくれた。



 「そうだったんだ。大変だったね。それで王都に?」


 「ええ」


 「でもさ、そもそもどうして学校を辞めようと思ったの?」



 シュリの問いかけを受けたアグネスは、優しい眼差しをバーニィに向けた。



 「ねえ? シュリ。前に好きな人がいるって話をしたことがあるわよね? 覚えてるかしら」


 「うん。僕が中等学校へちょっとの間通った時のことだよね?」


 「そうそう。あの時は、誰が好きか言わなかったけど、私、ずっとパッシュ先生が好きだったのよ」



 その言葉に、シュリは驚いた顔でアグネスの顔を見上げた。

 アグネスはちょっぴり困ったように微笑んで言葉を続ける。



 「あの先生のどこが? って、思ったでしょ?」


 「え、と、その……」



 笑みを含んだアグネスの問いに、シュリは思わず視線を泳がせる。

 なんといってもこの場にはかつてバッシュ先生と呼ばれた人物がいるわけで、本人の前で悪口を言っているようで少々居心地が悪かった。

 そんなシュリの心を読んだように、当の本人であるバーニィがからっと笑う。



 「いいのよぉ、シュリきゅん。昔のアタシがひどい先生だったってことは、当の本人がよぉ~く知ってるわ。だから気を使わなくていいのよ」


 「そうね。バッシュ先生は大多数の生徒にとってはいい先生じゃなかったかもしれない。そこは私も否定しないわ。でも、そのバッシュ先生に私の心が救われたことも事実なのよ」


 「そう、なんだ?」


 「ええ。初等学校の私は、まだ自分自身に自信が無かったの。今のように、あるがままの自分を許すことが出来ないでいた。そんな私にバッシュ先生は言ってくれたのよ」


 「えっと……なんて?」


 「君の筋肉は美しい。美しい筋肉は正義だ。筋肉が美しければそれでいいじゃないか。なにを悩む必要があるんだい、って」


 「バ、バッシュ先生らしい言葉、だね」


 「昔のアタシがそんなことを? いやん。はずかしぃぃ」



 シュリがちょっぴり顔をひきつらせ、バーニィは体をくねくねさせながら恥じらっている。

 そんな2人を見たアグネスはクスリと笑い、それから再び懐かしそうに目を細めた。



 「そうね。バッシュ先生らしい言葉よね。でもね、私はその言葉にがっちり心を掴まれちゃったの。何事にも自信の無かった私を、そこまで肯定してくれた人はそれまでいなかったから。例え筋肉に関してのことだけだったとしてもね。……初恋だったわ」



 うっとりした表情で語るアグネスをながめ、それからバーニィに目を移す。

 様子は変わっているがバッシュ先生はバッシュ先生。

 こうやって共にいると言うことは、アグネスの初恋は実ったということなのだろうか、と考えながら。

 だが、その考えを見透かしたように、アグネスは言葉を続けた。



 「まあ、その恋が実ることは無かったんだけどね? 初恋が実らないってジンクス、本当だったのねぇ」


 「実らなかったの? 今も一緒にいるのに??」


 「一緒にいるのが恋人同士とは限らないわよ? 今の私達の間にあるのは、残念ながら恋じゃないの。そうねぇ。姉妹愛、みたいなものかしら。私達は2人とも、好みのタイプは素敵な殿方だし。耽美なLの世界にもあこがれはあるけど、結局2人とも同性愛者じゃなかったってことよね」


 「へ、へぇ。ソウナンダネ……?」


 (え~っと、恋愛対象が男の人でも、結局は同性愛ってくくりになりそうだけど、これってきっと愚問なんだろうなぁ。心が女性だからいいんだよね、きっと。うん)



 何となく釈然としないものがあったが、シュリは己の内で自分を納得させる。

 そんなシュリに気付くことなく、アグネスはさらに語った。



 「でもね、私に学校と故郷を捨てる決意をさせてくれたのはバッシュ先生……いえ、バーニィだったわ。許されない罪を犯し、心も身体も折られてボロボロになった彼を、私は見捨てられなかったの。元々、いずれは王都に出て乙女の心に響くお店を持ちたいと思っていたし、それがちょっと早くなっただけよね、って自分に言い聞かせて、まだ茫然自失のバッシュ先生を連れて王都へ出てきたの。ずっと蓄えていたお金を元にお店を借りて、開店準備をする傍ら、もう2度と罪を犯さないようバッシュ先生を再教育をしたわ。そして、バッシュ先生はバーニィに生まれ変わったの。私の可愛い妹として」


 「身体も、折られて?」


 「ええ。見事な手腕だったわ。命をしっかり保ったまま、アレだけを見事に潰して……あらやだ、ちょっと下品だったわね。えっと、そうね。その、男性機能だけを上手に無効化して、今のバーニィの下地をばっちり作り上げてくれていたわ。男って、ほら、あそこに感情を引っ張られがちじゃない? 私は理性の女だからそれほどでも無いけど、それでもどうしようもなく猛る時はあるもの。それが無い分、バーニィの教育はやりやすかったわ。ねぇ? バーニィ」


 (ポチ、タマ……本当にヤっちゃってたんだね。で、でも、命まではとらなかったし、今のバーニィはいい人だし。ま、まあ、結果オーライ、で、いいのかな??)


 「ええ。最初は喪失感がすごかったけど、今となってはあんな野蛮なものがなくてむしろありがたいって思ってるわぁ。アグネスお姉様はしっかり制御されてるけど、アタシはちょっと考えが足りないところもあるし、あんなのない方がいいって思ってるのよぅ」


 「ね、そうよね? 私もいつかは男の私にサヨナラしなきゃって思ってるのよ? 殿方って、アレを見ると引く人が多いし。本気の恋人を作って初めてを貰ってもらう前にはどうにかしないとね」


 「そっ、そうだよね~……」



 バーニィがうふふ、と笑い、アグネスがほほほ、と笑う。

 そしてシュリは、ははは、と乾いた笑い声をあげた。


◆◇◆


 「へえぇ~、そうなの? 今度新しい商売を始めるのね」


 「うん。そうなんだ。色々あって自由貿易都市国家とつながりが出来たからさ。まあ、実務はこのオーギュストに丸投げで、オーナーの僕は楽をさせて貰っちゃうんだけど」


 「シュリはまだ学生だからな。商売は俺に任せてシュリは学業に専念した方がいい」


 「そぅよぉ、シュリきゅん。勉強って大事よぉ? 出来るときにしておいた方がいいわ。元先生が断言するわぁ」


 「そうねぇ。みんなの言うとおり勉強は大事だわ、シュリ。中等学校を中退した私が言うことじゃないかもしれないけど。で、なんの商売を始めるの? 私に話を聞きたいってことは販売業かしら?」


 「正解。さすがだね、アグネス」


 「ふふ、ありがと。それで、なにを売るの?」


 「ん~と、これは言葉で説明するより見せた方が早いかなぁ。オーギュスト?」



 シュリの言葉に頷いて、オーギュストは持ってきていた商品を取り出してカウンターに並べた。

 アグネスとバーニィは揃ってその商品をのぞき込むようにまじまじと見つめる。



 「まあ。レースがとっても素敵ね」


 「あまり見たことの無い形だけど、これって女性用の胸当てと下履き、かしらぁ??」


 「ああ。シュリのアイデアを俺が形にした新しい女性用下着、[ぶらじゃあ]と「ぱんてぃ]だ」


 「「[ぶらじゃあ]と[ぱんてぃ]……」」



 2人は、聞いたことのないネーミングに再び目を見張り、それから手にとってもいいかとオーギュストに尋ねる。

 オーギュストは快く頷いて、



 「構わない。好きなだけ見てくれ」



 そう言いながら己の作品を2人にそっと手渡した。



 「すごい。軽いのね! それにこの立体的な作りも画期的ね」


 「いやん、布地が少ないのねぇ。これでちゃんと隠せるのかしらぁ?? あら、でも、布地の伸びがいいのねぇ。それに、レースも飾りで、下は透けないように考えられてるのねぇ。確かに画期的だわぁ」



 2人は手渡された商品をひっくり返したり引っ張ったり光に透かせたりしながらチェックする。

 自分に渡された商品を存分に見た後は、相手のと自分のを交換して、さらに隅々まで確認した。

 そうして満足した2人は、商品をカウンターの上に戻すと、



 「いいわねぇ、これ! 私も欲しいわぁ」


 「アタシも欲しいわぁ。勝負用に思い切って買っちゃおうかしらぁ」



 口を開き、にこにこと言葉を交わす。



 (その立派な大胸筋をしまいきれる[ぶらじゃあ]はさすがに無いだろうなぁ。なるべく豊富なサイズを用意するつもりだけど、漢女おとめサイズは想定外だよね。でも、これからもお客さんになってくれるなら漢女おとめサイズも揃えた方がいい、のかなぁ)


 「ふむ。色々なサイズを想定していたが、流石にあんた達にあうサイズの用意は無いな」


 「あら、残念」


 「だが、オーダーメイドは受け付けるし、2回目以降は値引きも考えよう」


 「まあ、それは素敵ね!」


 「あんた達サイズがよく出るようなら、オーダーメイドじゃなくても買えるように揃えてもいいしな」


 「あら! じゃあ、お友達にも宣伝しとかなきゃ。お店のお名前はなんて?」


 「む。店の名前か。まだ考えてなかったが……」



 どうする? と問いかけるようなオーギュストの視線にシュリはしばし考える。

 だが結局、特に凝らなくてもそのままの名前でいいだろう、と決めて顔を上げた。



 「[悪魔の下着屋さん]、でどうかな?」


 「悪くないと思うぞ。だが、下着以外も売り物は置くだろう?」


 「でも、商品のメインは下着だし、売りたいのも下着だし、いいんじゃないかなぁ? アグネス、どう思う?」


 「シンプルでいいじゃない。悪魔のように乙女心をがっちり掴む下着を売る店ってことね。うん、分かりやすいわ。ねえ? バーニィ」


 「お姉様のおっしゃる通りだわぁ。アタシもいいと思う」


 「なら決まりだね。オーギュストのお店の名前は[悪魔の下着屋さん]で」


 「シュリの店でもあるぞ? シュリとオーギュストの店[悪魔の下着屋さん]だ。ふむ。いい響きだな」



 オーギュストも満足そうに頷き、無事に店の名前は決まった。

 正直、なんの捻りもなさすぎて、オーギュストの正体を知る人からは、まんまじゃないか、と突っ込まれる気しかしないけど。



 「[悪魔の下着屋さん]ね。オープンはいつ頃?」


 「正直、まだ準備も始めてない状態だからまだいつになるか分からないんだ。従業員もオーギュストしか決まってないし。でも、オープンの日程が分かったらすぐに知らせるよ」


 「そうしてくれる? オープンが決まったら、私達のお仲間にもすぐに宣伝するわ」


 「ありがと、助かるよ。因みに、アグネスのお仲間ってどのくらいいるのかな? 沢山いるなら、アグネス達用のサイズの下着も一定数用意しなきゃだし」


 「そうねぇ。この王都に限っても、結構な人数いるわよ? このお店のお客さんにも多いし」



 言いながら、アグネスは特大サイズの可愛らしいドレスを見せてくれた。

 その大きなドレスと、筋肉質なアグネスとバーニィを交互に見上げ、シュリは心を決めたように大きく頷く。

 そして、



 「オーギュスト、せっかくお客さんを紹介してくれるっていうんだから、僕らの店も幅広いサイズを用意しよう。後でアグネスとバーニィに、どの辺りのサイズを用意したらいいか、聞き取りをして試作品を作ってみてくれる?」



 そう指示をした。オーギュストは即座に頷き、



 「おやすいご用だ。後で2人のサイズを測り、聞き取りをして、帰ったらすぐにとりかかろう」



 頼もしくそう請け負った。



 「ありがとう、オーギュスト。よろしくね? アグネスとバーニィも協力お願いします。お礼に、最初の下着は無料でプレゼントするからさ」


 「もちろん、協力するわ。そんな素敵な下着がもらえるならいくらでも、ね」


 「出来れば着心地とか改善点とかも教えてもらえると助かるかな。アグネス達は一般的な女性よりも、その、筋肉が多いし?」


 「そうよねぇ。この筋肉と下着の相性も確認しなきゃダメよね。もしモニターが必要なら筋肉自慢のレディを紹介するからいつでも言ってちょうだい。うちの店って、筋肉を愛する顧客がなぜか多いのよねぇ。それもあって、今度筋肉愛好家の為のカフェを始めようと思ってるの」



 筋肉を愛する顧客が多いのは、アグネスとバーニィの筋肉のせいだよ、と心の中でひっそりとつっこみを入れつつ、



 「筋肉愛好家の為のカフェ??」



 シュリは新たに出てきた謎ワードに首を傾げてみせた。



 「そ。筋肉愛好家の為のカフェ。私とバーニィは、最近、画期的な飲み物の開発に成功したのよ!」


 「画期的な、飲み物??」


 「ええ! 筋肉増強効果のある魔法薬や食材を組み合わせて作り上げたの。効果もばっちり検証済み!! オープン計画中のカフェでは、魔法薬[プロンティーン]を使ったドリンクや筋肉のお友達のお肉料理を主軸として展開していく予定なの」



 なんかどこかで聞いたことのあるような商品名だなぁ、と思いつつも、



 「そうなんだぁ! オープンしたら友達と遊びに行くね?」



 シュリは若干前のめり気味でそう宣言した。

 筋肉……その魅惑的な響きは、いつだってシュリの心を鷲掴みにする。

 そんなシュリを微笑ましそうに見たアグネスは、



 「カフェでは筋肉を効果的に作るアドバイスしたり、筋肉育成の為のトレーニング道具とかも販売する予定よ。オープンしたら必ず連絡するから、一緒にナイスマッスルを目指しましょう!!」



 そう言ってさらなる起爆剤を投入した。



 「うん!! 楽しみにしてる!!」



 目をキラキラさせてそう答えるシュリは、まだ筋肉隆々とした男らしい将来の自分像を全く諦めてはいなかった。


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